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SMAP・香取慎吾はリアルな独身男性をどう演じるか 俳優キャリアから『家族ノカタチ』を考察

2016年01月20日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 香取慎吾が主演を務めるドラマ『家族ノカタチ』(毎週日曜22時~/TBS系)が、1月17日よりスタートした。初回視聴率9.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、前クールで平均視聴率18.5%を獲得した同枠のドラマ『下町ロケット』に比べると芳しくないスタートを切った本作だが、初回を観る限り、これは徐々に数字を上げてゆく「スロースターター」のドラマという気がしないでもない。いずれにせよ、本作の鍵を握っているのは、主役を演じる香取慎吾の存在だ。ということで、ここでは「役者」香取慎吾のキャリアを振り返りつつ、本作における彼の役どころについて考えてみたい。


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 1996年、ドラマ『透明人間』で、初めて連ドラの主役を演じた香取だが、彼が役者として存在感を示したのはそれよりも前、野島伸司・脚本作『未成年』(1995年)の主要キャストのひとりである、知的障害を患う青年・デク役を演じたときだった。複雑な内面とピュアネスを兼ね備えた難しい役どころを、瑞々しく演じた香取。その後、岡田惠和・脚本作『ドク』(1996年)で演じたベトナム人青年役など、当初の彼のイメージは、脆さを内包した「ピュアネス」が、その基調となっていたように思う。


 そんな彼のキャリアに大きな転機をもたらせたのは、2000年に一世を風靡したキャラクター「慎吾ママ」の存在だろう。バラエティ番組発のキャラクターでありながらCDデビューを果たし、のちに単発ドラマまでもが作られた大ヒット・キャラクター「慎吾ママ」。子どもたちを中心に高い人気を誇り、その決めフレーズ「おっはー」が流行語になるなど、一大ブームを巻き起こした「慎吾ママ」で彼が見せたコミカルな持ち味は、やがて三谷幸喜の目にとまり、大河ドラマ『新撰組!』(2004年)の主役をはじめ、昨年の映画『ギャラクシー街道』に至るまで、長きにわたって蜜月関係を取り結ぶようになる。香取慎吾=「コメディ」のイメージが強いのは、三谷幸喜の存在も大きいだろう。


 その一方、もうひとつ忘れてはならないのは、これまた子どもたちを中心に高い支持を獲得し、平均視聴率23.2%という、当時としても驚くべき数字を弾き出したドラマ『西遊記』(2006年)で彼が演じた「孫悟空」の存在だ。その脚本を書いていたのが坂元裕二だったというのも、今となっては不思議な気がするけれど、それ以前から、映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』(2004年)など、漫画の実写化の主演も務めていた彼は、2009年のドラマ(のちに映画も作られた)『こちら葛飾区亀有公園前派出所』では主人公・両津勘吉を演じるなど、いわばコスプレにも近い「非日常」の役どころを演じることが多かった。


 つまり、彼は「慎吾ママ」以降、ある「人物」を演じるというよりも、あるエクストリームな「キャラクター」を演じることの多い役者として、世の中から認知されるようになっていったのだ。思えば、『新撰組!』で演じた近藤勇も、そういう意味では「キャラクター」のひとつだったのかもしれない。とはいえ、そのあいだにも、『未成年』以来十数年ぶりにタッグを組んだ野島伸司・脚本作『薔薇のない花屋』(2008年)では、過去に傷を持つ孤独な男性を演じたり、フジテレビ開局50周年ドラマ特別企画『黒部の太陽』(2009年)で、主役のひとりを雄々しく演じたりしているところが、「役者」香取慎吾の捉えどころの難しさではあるのだけれど。


 今回の『家族ノカタチ』で彼が演じるのは、実年齢とほぼ同じ39歳、独身の“結婚できない男”である。文具メーカーに勤めながら、こだわりに満ちたシングルライフを満喫しているサラリーマン。念願のタワーマンションの一室を手に入れた彼は、意気揚々と「理想のシングルライフ」をスタートさせるべく、新居に引っ越してくる。ところがそこに、久々に再会した父親が、連れ子と共に転がり込んできて……というのが初回のストーリーだ。かつて、阿部寛が好演して話題となった『結婚できない男』(2006年)を、どこか彷彿とさせるような人物設定。しかし、今回香取が演じる“結婚できない男”は、かつて阿部が演じたようなメリハリのついたコミカルな人物ではなく……むしろ、ふとまわりを見渡せば、ひとりやふたり、すぐに見つかるような、等身大のリアリティを醸し出しているのだった。


 現在の仕事に不満は無いものの、趣味の世界をはじめとするプライベートの時間を大事にし、他者との関わりも必要以上に持つことなく、ひとりの生活を楽しんでいるアラフォーの独身男性。それは、ある者にとっては、イマドキの独身男性ならではの「面倒臭さ」を体現したものと映るだろうし、またある者にとっては、「共感」の対象となるだろう。いずれにせよ、そこにはかつての香取ドラマには無かったような……特にエクストリームな「キャラクター」を演じる際には皆無だった、等身大の「リアリティ」が感じられるのだ。


 実際、香取自身も番組HPに、「この作品の主人公は“僕”そのもの。僕も(大介と)同じく、結婚できない男」と、コメントを寄せている。さらには、「今回の役作りに関して言うと、僕の周りにはいい資料がたくさんいます。中居正広しかり、草なぎ、稲垣……それぞれのタイプの結婚できない男たちをたくさん身近で見てきましたので(笑)、メンバーの皆のそれぞれの要素を役立てられたらと思います!」という意味深なコメントまで寄せている。「等身大」と言えば、かつては草なぎ剛が担当していたように思える役どころを、これまで「等身大」とは程遠い、エクストリームな「キャラクター」を多く演じてきた香取が、自身のプライベートを反映させながら演じることの珍しさと面白さ。それが本作『家族ノカタチ』の最大の見どころと言えるだろう。(麦倉正樹)