トップへ

金券ショップ「錬金術」1500万円儲けた公務員を処分、なぜ「兼業」とされたのか?

2016年01月18日 11:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

金券ショップで割安に購入した旅行券で新幹線切符などを手に入れ、それを払い戻す形で利益を得ていた労働基準監督署の職員(40代男性)が昨年12月、停職1か月の懲戒処分を受けた。国家公務員法が禁止している「兼業」にあたると、東京労働局が判断したためだ。


【関連記事:自宅やカフェでの仕事もOK、会社が「リモートワーク」を実現させるための3つの課題】



報道によると、男性職員は1999年4月から2011年4月にかけて、週3、4回程度、1日約50万円分の旅行券や商品券を購入。その券を使って新幹線の切符や航空券を手に入れたあと、払い戻して差額を得ていた。12年間で約1500万円の利益を得ていたとみられ、ネットでは、金券ショップを使った「錬金術」として注目を集めた。



男性職員は利益を税務署に申告しておらず、昨年10月の発覚後に支払い対象となる過去5年分の税金を納めたという。男性職員は「旅行が好きなので旅費や生活費に使った」と話しており、ちょっとしたこづかい稼ぎのようにもみえるが、なぜ、兼業とみなされてしまったのだろうか。古金千明弁護士に聞いた。



●もっぱら利益を出すためであれば兼業に


「国家公務員が在職中に営利企業の役員を兼任したり、自ら事業を行ったり、雇われるといった『兼業』を行うことは、原則として禁止されています(国家公務員法103条、104条)。地方公務員の場合も、同様の兼業禁止規定があります。



兼業が行われると、公務員の本来の職務がおろそかになったり、公務員の職務と兼業した業務との利害関係が生じて職務の公正が阻害されたり、兼業した業務そのものが公務の信用を損なうおそれがあるので、兼業は原則として禁止されています。ただし、人事院の承認を得られれば、例外的に許される場合もあります」



古金弁護士はこのように話す。役員の兼任や企業に雇われるというのはわかりやすいが、自ら事業を行うとは、どういう場合が想定されるのか。



「自ら営利事業を行っているかどうかは、業態のいかんを問わず、客観的にみて営利を目的としているかどうかによって判断されます。



そして、自家消費程度のものや、趣味・文化芸術活動である場合は別にして、もっぱら利益を出すために行うものであれば、所得が少なかったとしても営利事業に該当しますので、兼業が禁止されることになります」



●今回のケースでは、長期間の脱税も


では、今回のケースもやはり兼業にあたるということか。



「本件についていえば、新幹線や飛行機を実際に利用する予定だったけど、たまたまスケジュールがつかなくて払戻をしたのではなく、当初から、商品券の購入額と払戻額との『差益』を得る営利目的があったということですので、兼業が禁止される営利事業を自ら行っていたことになります。人事院の承認もありません。



また、12年間で1500万円ですので、平均すると『差益』により年間約125万円の『所得』があったことになります。今回の『差益』は税務上の雑所得に該当すると思われます。給与所得以外の所得が20万円を超えていますので確定申告を行う義務があったわけですが、本件では、確定申告をせずに、最大で12年間も『脱税』をしていたことになります。



公務員が兼業禁止規定に違反し、しかも、長期間にわたって『脱税』までしていたとあっては、公務員の職務に対する信用は損なわれていますので、懲戒処分の対象となることはやむを得ないでしょう。



本件が『発覚』したのは、厚生労働省に『匿名』の情報提供があったということですので、本人の言動や金銭感覚に不審を持った誰かが、本人を尾行したりして『発覚』した可能性があります。



民間企業の場合でも、就業規則により兼業が禁止されていることが多いかと思いますが、国家公務員の兼業禁止の運用については、人事院規則14-8に規定があります。国家公務員が、職場外で『小遣い』稼ぎをしたい場合には、兼業禁止の運用上許される範囲内で行う必要がありますので、注意して下さい」



古金弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。

事務所名:天水綜合法律事務所