2016年01月16日 13:41 弁護士ドットコム
病児保育や障害児保育などに取り組む認定NPO法人「フローレンス」は、赤ちゃんを生んでも育てられない事情がある「生みの親」から、子どもを望む「育ての親」に対して、特別養子縁組の形で赤ちゃんを託す「赤ちゃん縁組」事業を今春から始める。昨年12月からクラウドファンディングで運営資金を募っているが、1月16日の時点で2800万円を超える寄付金が集まっている。
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特別養子縁組とは、6歳未満の小さな子どもと、その実の親の「法律上の親子関係」をなくして、別の大人と新たに法律上の親子関係を作り出す制度だ。だれでも養親となれるわけではなく、配偶者がいないといけない。原則として、25歳以上の夫婦がそろって養子縁組をする必要がある。また、いったん養子縁組をしたら、離縁は原則としてできない。つまり、子どものために、できるだけ実の親子関係に近い関係にしようという養子縁組だ。
今回、フローレンスが特別養子縁組をサポートする事業を始めるのは、なんらかの事情で子どもを育てられない「生みの親」から「育ての親」に託すことで、赤ちゃんたちを救いたいと考えたからだ。ただ、事業に賛同する声が集まる一方で、「人身売買ではないのか」といった反発の声もある。「赤ちゃん縁組」事業について、フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏に聞いた。(取材・構成/瀬戸佐和子)
――「赤ちゃん縁組」事業は、どのようなプロセスで行うのですか?
まず、特別養子縁組は、「単なる育ての親探し(マッチング)」ではありません。
「その子の一生を引き受ける」という覚悟がある育ての親にだけ、縁組みが許されると考えています。事前に育ての親の面談・家庭訪問・研修を行い、「障害がある可能性もある」「性別も選べない」といったことも伝えた上で、本当に育てられるという育ての親にだけ登録してもらいます。
一方で、生みの親に対しては、相談を受ける中で、まずは育てられる方法をアドバイスします。それでも「どうしても育てられない」「託したい」となったときにかぎって、育ての親の候補とのマッチングを行います。
ただ、途中で「やっぱり育てたい」と生みの親の気が変わる可能性もあります。翻意があれば尊重しなければいけないと考えています。出産の直前や直後に生みの親に確認し、「やっぱり託したい」ということであれば育ての親に託す、という流れで進めます。
――育ての親に赤ちゃんを託す時期は、生後何日ごろなのでしょうか?
妊娠期から相談に乗り、何度も「育てられない=委託する」という意思確認を行うので、出産後速やかに育ての親に委託します。通常は出産時に入院し、4~5日の入院を経て、退院の際に育ての親に迎えに来てもらう方法で進めます。ですので、実際に託すのは生後1週間以内になると思います。ただし、何らかの事情で赤ちゃんの入院が長引く場合は、この限りではありません。
なお、「生まれてしばらくしてから、親が育てられなくなってしまった」というケースは、通常は行政に相談するので数は少ないと思いますが、6歳未満であれば特別養子縁組が可能なので、相談があれば私どもでも対応します。
――「生みの親」はなぜ、赤ちゃんを育てられない状況に陥ってしまうのでしょうか?
通常であれば、赤ちゃんがお腹に宿るのは嬉しいことです。でも、世の中には望まない妊娠をする人も存在します。例えば、13歳で妊娠したとか、不倫など道ならぬ恋をして妊娠したようなケースです。
通常は堕胎(中絶)を考えますが、堕胎可能な期間は妊娠22週までなので、その期間を過ぎると産むほかありません。
また、堕胎をせず出産の時期を迎えてしまう人の中には、「家族に頼れない」「お金がない」「精神的な病気がある」「性犯罪の被害に遭って妊娠した」などの複雑な事情を複合的に抱えている場合が多いのです。それゆえ、二重三重で絶望していきます。
行政などに相談するという方法もありますが、基本的には「生んでから相談に来て」というスタンスで、妊娠中から、特別養子縁組を含めた説明や支援を行う行政はごくわずかです。絶望した女性たちにとって、行政の窓口はとても遠いんです。
――なぜ、フローレンスが「赤ちゃん縁組」に取り組むことになったのでしょうか?
日本は今まで、行政が積極的に特別養子縁組に取り組んでおらず、乳児院や児童養護施設など施設での養護が9割近くになります。しかし、施設が子どもの育ちにとってベストかというと、必ずしもそうではありません。
諸外国では、できるだけ家庭に近い状況で育てるべきだということで、養子縁組や里親といった「家庭養護」の制度を推奨しています。「施設養護」が中心の日本の政策は、外国に比べて30年くらい遅れていると言われています。
昨今、日本での赤ちゃんの虐待死は多く発生しています。こうなると、子どもたちの命を救うことに力を入れなければなりません。
――具体的に、どうすべきなのでしょうか?
「特別養子縁組支援法」というような法律を新しく作るべきだと思います。保育園のように認可制にして、良質な事業者が法令を守り、一定の手続きできちんと運営する。そして、認可された事業所には国から補助金が出るということになれば、セーフティネットになるのではないかと考えています。
諸外国では、特別養子縁組を行う団体や育ての親に対して、州政府や国から補助金が出ます。ところが日本では、私たちのような団体にも育ての親にも、補助金は全く出ず、行政からは何のサポートも受けられません。
私たちは、育ての親から、委託にかかった費用を受け取りますが、第二種福祉事業ですので、儲けを出すことはできません。
育ての親に負担してもらう費用としては、まず、妊娠中の生みの親を支援するための人件費があります。具体的には、カウンセリングや妊婦健診、行政手続の同行支援、出産前後のサポートなどの費用です。さらに、出産費用のほか、育ての親の家庭訪問や研修費用、特別養子縁組裁判申立のサポートやその後の養育支援など、多岐に渡るサポートのために費用がかかるので、大変高額にならざるを得ません。
具体的な金額はまだ算定できていませんが、150~200万円ほどになるかと予想しています。ただ、実際には個々のケースによって変わってくるかと思います。
利益を出さず、行政の補助金や支援も受けずに、生みの親と育ての親を継続的にサポートしていくのは、「事業」として成り立ちにくく、どうしてもボランティアという形で小規模にやらざるをえません。プロフェッショナリティも高めづらく、何より、たくさんの赤ちゃんを救える組織をつくることが難しいです。この状況を変えるためには、法律を作り、国からの補助金の交付や行政からの支援を受けられるようになることが必要だと考えています。
――「なぜ里親ではなく、養子縁組なのか?」という声もあるようですが・・・
里親の制度は、主に児童相談所(行政)で行っている委託の仕組みを指しますが、特別養子縁組を目的とせず、ふたたび親と一緒に暮らせるようになるまで期間限定で一時的に預かる制度です。すでに妊娠期から「育てられない」事情がある方は、出産後すぐに「育ての親」の実子とすることを前提に委託することが望ましいと考えています。
――事業の運営資金はどうしていくのでしょうか?
当面はクラウドファンディングで集まった資金をもとに事業を立ち上げ、損益分岐点までの運営費用に充てさせてもらいます。育ての親には、事業を継続していくための運営費用の一部のほか、さきほど述べた生みの親をサポートするための費用や出産費用、育ての親を支援するために必要な費用を負担していただきます。
ただし、私たちから生みの親に対して、お金を払うことはありません。生みの親の出産費用や交通費を弁済することはあっても、「100万円あげるから子どもを委託して」ということはしません。「人身売買」となってしまうからです。
――「赤ちゃん縁組は人身売買ではないか」という批判については、どうお考えですか?
人身売買だと批判する方々は、この取組についての理解が薄いのだと思います。
子どもの幸せを一番に考えて「特別養子縁組」を行うためには、生みの親に対する妊娠中からの丁寧なカウンセリングや、質の良い育ての親の選定、裁判サポートや委託後の養育サポート、生みの親の自立支援など、長期的なサポートをしていくことが不可欠です。しかし、国や行政からの支援が一切ありませんので、それらにかかる費用は、育ての親からいただくほかありません。
児童相談所(行政)でも一部、特別養子縁組を前提とした「里親委託」を行っていますが、育ての親への費用の請求はなく、逆に手当が出ます。委託のためにかかった人件費や養育する親に支払われる手当は税金から賄われており、お金がかかっていないわけではありません。
また、欧米やヨーロッパでは、特別養子縁組にかかる費用はもっと高額です。人身売買だと批判する方は、このような知識が欠けていると考えています。
ただ、中には逸脱している事業者もあるのが現状です。以前、大阪で特別養子縁組を行う事業者が、生みの親に対して「200万円あげるので縁組みしましょう」と持ちかけ、問題になりました。
この事業者には行政指導が入りましたが、「赤ちゃん縁組」は認可制ではないがために、罰則が与えられたり、事業停止をされたりすることはありません。やはり認可制にして、「ルールを守らないなら認可取り消しで、あなたがたの団体は事業を行えません」としたほうがクリアです。
――特別養子縁組によって育ての親に託された子どもに、生みの親の存在を知らせる「真実告知」については、どうお考えですか?
真実告知はできるだけ早く、5~6歳くらいまでの早い段階でするべきです。すべての子どもは、自分が何者であるかを知る権利、つまり「出自を知る権利」があるので、そこはしっかり担保するべきだと思います。
むしろ、ずっと真実告知をしないでいて、何かのきっかけで知ってしまったときのショックのほうが大きいです。小さいときから「あなたには生んでくれたお母さんと、ママがいるんだよ。うちに来てくれてありがとう。大好きだよ」と伝えていくべきだと思います。育ての親には、研修で真実告知について伝え、重要性を理解してもらいます。
もし子どもが成長して我々のところに来たら、「あなたを生んだお母さんはこういう人ですよ」と、自分の出自を知ることができる資料をお見せするべきだと思っています。
ただ、これは本来、行政の役割です。資料を行政で一括管理し、いつでも見られるようになっているべきです。1つの団体が、30年も40年も続くかは分かりません。縁組み団体がつぶれたら、自分の出自がまったく分からないことになってしまいます。
――子どもが希望した場合、生みの親との面会もおこなうべきだとお考えですか?
子どもが成人し、自分の意志で生みの親に会いたいと希望した場合に、情報提供やサポートができればと考えています。なぜなら、小・中・高など情緒の安定しない成長途中の年代に、生みの親に会うことは、子どもにとってプラスになるとは考えにくいからです。自分とは全く違う世界で生きている生みの親も多いと思われますし、それを受け入れること自体が難しいと考えています。
(弁護士ドットコムニュース)