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NEWS・加藤シゲアキの小説は、なぜ映像化に向いていたのか?

2016年01月13日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 NEWSの加藤シゲアキ原作の小説が、2作品同時に映像化された。9日に公開となった映画『ピンクとグレー』は、作家・加藤にとっての処女作となる長編小説で、全4回の連続ドラマとして放送中の『傘を持たない蟻たちは』は、最新の短編集である。本稿では、アイドルという本業を持ちながら作家活動をする加藤の2作品を読み解き、作家としての加藤に迫るとともに、その作品が映像化されたことの意義を読み解きたい。


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 芸能界でともに生きる親友2人を主人公に、生と死について描いた処女作『ピンクとグレー』は、2012年に刊行された。加藤が所属するNEWSは、開始当初は9人グループだったものの、メンバーが次々と脱退し、2011年には、NEWSの顔とも言われていた山下智久と錦戸亮までがグループを離れ、現在の4人編成になった。加藤は、自身が小説を書くと決意したきっかけについて、グループが上手く行かなかったことを挙げており、2011年は作品の執筆時期とも重なる。二人の脱退が、作品にどれほど影響したかは本人のみぞ知るところだが、『ピンクとグレー』には芸能界の内情と抗えない格差が生々しく描かれており、アイドルとして苦悩する青春を送った加藤だからこそ生み出せた作品であることは間違いないだろう。


 『ピンクとグレー』で主演を演じたのは、奇しくも加藤の後輩であり、主人公と同じように売れっ子であるHey!Say!JUMPの中島裕翔だ。2013年に高視聴率を記録し、「倍返し」などのキメ台詞も話題となった『半沢直樹』に出演して以来、単独で連続ドラマの主演を果たすなど、俳優として勢いがある。また、その親友役を菅田将暉が演じた。原作とは時系列が異なり、映像だからこその仕掛けも施され、”幕開けから62分後の衝撃”というキャッチコピーが煽るように、驚きの展開も用意されている。加えて、時系列を変えたことによって、原作では描かれていない”続き”が見られるのもポイントだ。映像化の利点を最大限に活かし、この仕掛けを生み出した映画製作陣の腕も素晴らしいが、これを可能にした加藤シゲアキの原作もまた、物語としての強度を改めて示したといえよう。原作では曖昧にされていた部分を詳細にしたり、時間軸に変更を加えてもなお、本作の本質的な魅力が損なわれないのは、加藤シゲアキが実際に芸能界で味わった苦悩が、驚くべき筆力で書き綴られていたからにほかならない。そして、後輩の現役アイドルが主演を演じたことによって、本作はフィクションを越えた、ある種のリアリティを獲得するまでに至っている。


 9日から放送が始まった連続ドラマ『傘を持たない蟻たちは』でも同じことが言える。原作は、それぞれが独立した6編の短編集だが、連続ドラマではひとつの短編を軸に、他の短編の時系列を重ねることによって再構築している。原作は2015年に出版された最新作であり、初めて芸能界以外を舞台に”生と性”を描いた作品で、加藤にとっては作家としての腕が真に試される一冊である。先日放送された第1話では、主人公である落ち目のSF作家・橋本純(桐山漣)の小説(空想)として、原作のうちの1編が登場した。ほかにも、橋本がすでに出版した作品として、会話の中に6編のタイトルが出てくるなど、作中作として原作を登場させるメタ構造になっていることがわかる。また、加藤が原作、出演、主題歌と三役をこなしていることも見逃せない。加藤が作中に登場することによって、さらに虚実のあわいが混濁しているのだが、だからこそ加藤の描き出そうとするテーマはより鮮明に見えてくる仕掛けだ。


 ジャニーズのアイドルが本格的に作家活動をするのは極めて異例なことである。しかも、『ピンクとグレー』は、虚実の入り混じった世界に生きるアイドル自身が、そこで感じた人生の苦悩を、脚色を加えながらも大胆に描いている。そして、虚構性の中に描かれる生と死こそが、これまでの加藤の作品に通底するテーマでもある。


 今回の2作品が原作とはまた違った新鮮さを感じさせるのは、映像化にともない、物語に別次元のアプローチを加えることで、その虚構に新たな視座を与えたからだろう。たとえば、現役のアイドルである中島は今回の役柄をどんな心境で演じたのか、自らが生み出したキャラクターと対峙するとき、加藤は何を思ったのか。そこに思いを馳せたとき、加藤の作品はいとも簡単に虚実の壁を越え、作中の人物たちの言葉はさらなるリアリティとともに立ち上がるはずだ。(文=小島由女)