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BLUE ENCOUNT、新曲「はじまり」でネクストステージへ「“安定の不安定”で振り幅を提示したい」

2016年01月12日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BLUE ENCOUNT

 BLUE ENCOUNTは広義のエモーショナルロックを、アレンジの器用さとマインドの不器用さという絶妙なバランスで掛け合わせて体現するバンドだ。平坦な道のりを歩んできたバンドでないからこそ、徹底的にまっすぐに放たれる歌を大きく、強く、広く響かせようとする。昨年、大きな飛躍を果たしたバンドの2016年一発目のリリースは、『第94回全国高校サッカー選手権大会』の応援歌として書き下ろしたニューシングル『はじまり』。2015年の活動を振り返ってもらいつつ、シンプルかつストレートな筆致で綴られ、だからこそバンドの真価が問われたロックバラード「はじまり」が完成するまでの過程を語ってもらうことで、BLUE ENCOUNTのバンド像に迫った。(三宅正一)


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■「妥協は一切せずに音楽と向き合い続けてよかった」(田邊)


――バンドにとって、2015年は走り続け、結果を出した1年だったと思います。


田邊駿一(Vo.&Gt./以下、田邊):「こんなに走るか!」というくらい走りましたね。今も走り続けてるんですけど(笑)。


辻村勇太(Ba/以下、辻村):まっすぐ前を見続けて走り続けられた1年でした。2014年は走りながらキョロキョロ周りを見ていたところがあって。その違いは大きいですね。自信がついたからこそ、まっすぐ走ることができたと思います。


田邊:ここまで多くの人に自分たちの音楽が届いたのも初めての経験だったので。今までたくさん曲を作ってきましたけど、7月にリリースした『≒(ニアリーイコール)』というアルバムで、リスナーに届く瞬間をはっきり感じることができたんです。ライブのお客さんの増え方も一気に加速して。2016年1月のツアーファイナルを、Zepp Tokyoで、しかも2デイズをソールドアウトとした状況になっているのは、正直驚いてる部分もあります。


――バンドの求心力が増した要因はなんだと思いますか?


田邊:スタンスをまったく変えずに活動してきて、自分たちが納得のいく曲だけを作り、その精度を上げ続けた結果だと思います。妥協は一切せずに音楽と向き合い続けてよかったなと思いますね。2014年にメジャーデビューして、環境が大きく変化したんです。スタッフが増えたり、初めてフェスに出たり――これまではメンバー4人だけで活動していた期間が長かったので、そういう環境の変化に戸惑った時期もあったんですよね。でも、2015年はバンドの芯ができたうえで「こういう曲を作りたい、こういうアルバムを作りたい」というわがままな思いを優先した1年だったんですよね。そのせいで3月に『≒』の制作が一時中断してしまったんですけど。


――制作に納得のいかない部分があったからですか?


田邊:そうです。アルバムの制作自体は2014年の12月くらいから始まっていて、2月までに曲の半分くらいはできていたんですけど、納得いかなくて。このままだと言い訳じみたアルバムになってしまうと思って、制作を中断したんです。そこから新曲を作り直して、アルバムの半分は制作を中断してから作った曲なんです。


――相当スリリングな制作だった。


田邊:はい、かなりスリラーでしたね(笑)。


辻村:でも、ちゃんと悩んで苦しんでアルバムを完成させることができてホントによかったです。


――ラクな道を選ばなかったからこそ大きな達成感があった。


田邊:ラクな道を選ぶと手応えが何もないんですよね。このバンドは、ラクな道を選ぶなら明確な壁に自らぶつかっていったほうが生きやすい性格なんです。惰性では前に進めないから、いつも自分たちに足かせをはめてる。その結果、『≒』のツアーでは、アルバムの曲をやると過去曲以上に盛り上がってるんですね。想像以上の反応に驚きもしたんですけど。今まではそんなことなかったから。アルバムリリース前のライブの鉄板曲よりも、MVも撮ってないアルバム曲のほうが盛り上がったりするんです。


――うれしい誤算ですね。


田邊:まさに。そういう意味でもアルバムが深くお客さんに浸透しているんだなということを実感できて。でも、重要なのはここで慢心せずにいかにあらたな壁を作れるかだと思うんですよね。


■「核は、情緒不安定ということですね(笑)」(田邊)


――ニューシングル『はじまり』のカップリングである「パラノイア」は、まさにそういう曲になってますよね。このタイミングだからこそ、バンドから離れていこうとするリスナーにヘヴィなサウンドで中指を立てるような曲で。


田邊:「パラノイア」は今まで抱きしめていた人を離すような曲になってますね。それをこのタイミングでやらないでいつやるんだと思ったんです。僕の考え方として、SNSとかで不満をつらつらと綴りたくないんですよね。もちろん、SNSでムカつくことを吐き出して、そこで完結して音楽だけを届ける人もいるし、それもいいと思うんですけど、僕の場合は全部曲にしてやろうと思うんです。この曲は2時間で書きました。


――一筆書きのように。


田邊:まさに書き殴る、とはこういうことだと思いますね(笑)。


――でも、ネガティブには着地してない。


田邊:そうなんです。結果的に居酒屋で友だち同士がケンカしてるような感じの曲になりましたね。最終的には夜明けの駅の改札で「がんばろうな」って言い合ってるような感じ(笑)。ケンカするほど仲がいいというか。バンドもそうだし、ブルエンのお客さんもそういう人が多いんです。だからこそ、細かいことを気にしないほうがロックという価値観が僕はイヤで。


――いちいち気にしたい。


田邊:そう、そういうバンドなんです。


――「はじまり」と並べるからこそ「パラノイア」も効きますよね。


辻村:そうそう、そうなんですよ。


田邊:そこは意識しましたね。


――「はじまり」と「パラノイア」は音楽的な振れ幅が大きい2曲で、この振れ幅こそがBLUE ENCOUNTらしさだと思うんですけど、それを踏まえてこのバンドの核はどこにあると自覚してますか?


田邊:核は、情緒不安定ということですね(笑)。親に曲を聴かせると「おまえは大丈夫なのか?」って聞かれるくらい不安定というか。


江口雄也(Gt/以下、江口):曲作りに関して、結成当初から変わってないのは、やりたいことをやる、だからこそ振れ幅が広くなる、という感じなんです。みんないろんなタイプの曲が好きで、それぞれにやりたい曲があって。「カッコよければよくない?」という4人なんですよね。


高村佳秀(Dr/以下、高村):メロディが強いからこそ、いろんなサウンドを鳴らせるんだと思います。


辻村:その遊びの仕方が各々の課題でもあって。手癖を排除することを意識したり。


■「重要なのは勝ちも負けも自分の糧にして、あらたな一歩を踏み出せるか」(田邊)


――「はじまり」のようなシンプルかつストレートで、歌の力を問われるロックバラードをクリエイトするのはどうでしたか? こういうタイプの曲だからこその難しさもあったと思うんですけど。


田邊:おっしゃるとおりですね。高校サッカーの応援歌というお話をいただいて、ゼロから作り始めたんですけど、『≒』を作り終えたばかりだったので、何も思い浮かばなくて。


――出し切ったあとだったから。


田邊:そうなんです。夏フェスシーズンでもありましたし、ライブに向けたモードだったというのもありましたし。お話をいただいたときに締め切りまで間に合わせる自信がホントになかったんです。決勝戦のスタジアムという舞台で歌うことも前提にあったし、そのゴールを見据えたときに「俺は何を歌えばいいんだろう?」って思ったんです。それで、お話をいただいた1週間後に曲作り合宿に入ったんですね。


――先方からこういう曲を書いてほしいというオーダーはなかったんですか?


田邊:これがありがたいことに、高校サッカーの製作チームがブルエンのライブを観てくれて、ホントに気に入っていただいたみたいで。「どうぞ好きなように作ってください」と言ってくれたんです。5月にリリースした『DAY x DAY』はアニメ「銀魂」のオープニングテーマに起用していただいたんですけど、そのときも具体的なオーダーはなかったんですよね。ありがたいし、バンドとして恵まれてますよね。でも、だからこそ難しい部分もあって。


――高校サッカーの応援歌ということで、さらにバンドのパブリックイメージもかんがみて、疾走感のある曲を書くという選択肢もあったと思います。


田邊:そうなんですよ。「もっと光を」や「HANDS」の延長戦上にあるような、8ビートで、アップテンポで爽やかに背中を押すような曲を期待されてると思って当初はそういう曲をたくさん作ったんです。でも、満足いかなくて。初日に断片的なものも含めて20曲くらい作ったんですね。どれも曲としてはいいんだけど、高校サッカーの歴史やテーマに当てはまらないなと思ったんです。自分たちで勝手にブルエン像を作っていたんだなと思いました。そういうことを思いながら、合宿初日の夜に僕ひとりだけスタジオに残って作業を続けたんです。そこでふと思ったんですよね。「もっと光を」も「HANDS」もシンプルにそのときの自分と向き合ってできた曲なんですね。だったら、今回もそれをやってみようと。ただ、今回は高校サッカーの曲だから、高校時代の自分と向き合おうと思って。高校時代って、このバンドにとって一番きつかった時代でもあって。周りに応援してくれる人が誰もいなくて、いつも「バンドなんてやめちまえ」って言われるような状況で。だからこそ、当時の自分たちを思ったときにこういう曲があったら救われただろうなと思う曲を書こうと思った。それで「はじまり」のサビができたんです。すぐにメンバーに聴かせて。


――なるほど、だからこそこの曲は敗者が本当の意味での“はじまり”に気づくという視点で描かれている。


田邊:そうなんです。どの世界も勝者は一握りしかいないじゃないですか。メジャーデビューできる人も一握りだし、さらにそこで生き残っていける人も一握りで。高校サッカーで言えば、優勝チームしか最後まで勝者になれないし、優勝チームでもレギュラーメンバーになれなかった人もいるわけで。僕らも逃げるように地元から上京して、上京してから同い年のバンドが活躍している世界があって、「ハタチや21歳でメジャーデビューしないと危ないよ」って言われ続けていた過去があったから。そういうことを隠さず曲にすることで、BLUE ENCOUNTが表現できる一番の応援歌になると思ったんです。ホントに大事なのは、“勝ち負けの先”なんですよね。将来的に勝者と敗者が逆転することだってあるじゃないですか。だからこそ、重要なのは勝ちも負けもちゃんと自分の糧にして、またあらたな一歩を踏み出せるかで。


――メンバーは田邊さんが書いた「はじまり」のサビをどのように受け止めましたか?


高村:サビを聴いたときにパッと高校サッカーの画が浮かんだし、「この曲なら絶対届く!」という確信とともに鳥肌が立ちました。


辻村:この曲だったら、高校時代の自分も聴いただろうなと思いましたね。ベースラインも自分の経験を反映させることを意識して。ストーリー性のあるものにしたいと思いました。それはベースだけではなくサウンド全体にも言えることだと思います。


江口:曲作りにあたって、製作チームに過去の高校サッカーのロッカールームの映像をいただいたんですけど、「はじまり」を流しながらその映像を観たときにこれ以上の相乗効果はないなと思いました。この曲しかない、と。


――最後に、「はじまり」から始まるBLUE ENCOUNTの2016年の展望を聞かせてください。


田邊:2016年第一弾のシングルで、音楽的にもバンドの振り幅を示せると思うので。さらに、ありがたいことにガンダムのオープニングテーマ(MBS・TBS系アニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」新オープニングテーマとして新曲「Survivor」が起用される)もあって、その曲もすごく自信があるので。このバンドらしく“安定の不安定”だからこそ出せる振り幅を提示していきたいですね。


高村:個人的に今年は音楽をやってきて、過去最大の壁にぶつかる予感があるんです。それを乗り越えられるかで音楽人生が決まるくらいの覚悟をもって臨みたいと思います。


辻村:勝負の年ではあるんですけど、気負いすぎず、でも軸はブレずに。もっと自分たちの自信がそのまま誰かの背中を押せるような存在になりたいですね。


江口:あとは、ライブハウスシーンのもう一歩外の世界を見据えて――ストレートに言うと、万人が歌えるようなヒット曲を作りたいです。それはバンドとしても、チームとしても大きな目標ですね。