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嵐の魅力と現在地を示す、『VS嵐』と『嵐にしやがれ』の重要性

2016年01月12日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

嵐。(C)タナカケンイチ

 昨年末からこの年始にかけて、テレビに出ずっぱりと言っても過言ではなかったのが嵐だ。ある調査では、とにかく明るい安村など並みいる人気芸人をおさえて年末年始出演本数ランキングの1位から5位までを嵐のメンバーが独占した(「エム・データ」調べhttp://blog.mdata.tv/tvmeta/524/)。ドラマやバラエティなどでの単独出演も含まれてはいるが、トップ5に揃ってランクインというこの結果は、いかに嵐がグループ5人での出演機会が多いかということの証明でもあるだろう。実際、現在プライムタイム(夜7時から11時まで)にグループのレギュラー冠番組が2本あるのは、ジャニーズのなかで嵐だけだ。


 まず『VS嵐』(フジテレビ系)は、2009年に現在の木曜夜7時台に移ってから6年余りが経つ。ご存知の通り、嵐チームとゲストチームがスタジオにつくられた大がかりなセットのなかで、ボウリングをアレンジした「バンクボウリング」、サッカーのシュートで得点を競う「キッキングスナイパー」などゲーム対決を繰り広げる番組だ。


 こうした芸能人などによるアトラクション的なゲーム番組と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、『関口宏の東京フレンドパークII』(『フレンドパーク』)(TBSテレビ系)だろう。対抗戦形式ではなかったが、やはり芸能人などがチームになって「ウォールクラッシュ」や「ハイパーホッケー」などのゲームでクリアを目指す長寿人気番組だった。変更もあったが、主に放送されたのはやはり夜7時台だった。


 この放送時間からもわかるように、どちらもファミリー向けの番組だ。老若男女が理屈抜きに楽しめるファミリー向けの番組は、テレビの見方も多様化した今、なかなか成立しにくくなっている。その点、『VS嵐』は、5年ほど前に終了した『フレンドパーク』の後を受け継ぐ番組としていまや貴重と言える。


 それはきっと、嵐自体にこうしたファミリーで楽しめるようなアトラクション的空間にぴったりはまる収まりの良さがあるからだろう。
 例えば、『NHK紅白歌合戦』(『紅白』)での嵐には、そうした面が大きく発揮されている。昨年末の『紅白』では、『スター・ウォーズ』とのコラボがあり、ダース・ベイダーに立ち向かう日本のジェダイの騎士として登場した。また一昨年の『紅白』では、『妖怪ウォッチ』に登場するキャラクター版の嵐、「アラシニャン」と共演した。凛々しいヒーローと可愛いアニメキャラとは一見両極端だが、どちらの世界にも違和感のないそのふり幅にこそ嵐の特長が表れている。


 松本潤が「自分を素材にして、人に委ねることの楽しさ。自分の中からは絶対に生まれてこない発想にふれて、変わっていく自分に出会える喜び」(『アラシゴト』)を語っていたように、嵐というグループにもそんな素材としての無垢さがある。無色であるがゆえにどんな色にも染まれる。あるいは、流体のようにどんなかたちの器にもしたがうことができる。


 それは、嵐についてよく言われる仲の良さということ以上のグループとしての強みだと言えるだろう。デビューから15年以上にもなるグループを“無垢”と形容するのは失礼かもしれないが、逆にそのようにあり続けられるグループは稀有に違いない。そうであるからこそ、それぞれの場面でプレイヤーに徹しつつも、グループとしての存在感を失わずにいられるように私には思える。


 もちろん、メンバー個人の活躍の場もさらに広がっている。


 リーダーの大野智は、昨年作品集を出版し、個展を開催するなどアートの分野での創作活動に意欲的だ。また今年4月からは日本テレビ系ドラマの主演を務めることも発表された。櫻井翔は、音楽番組やバラエティのMCをこなすかたわら、ニュースキャスターとして着実に経験を積んでいる。インタビュアーとしての達者さも特筆すべきだろう。相葉雅紀は、昨年『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)で月9初主演を果たした。同時に近年は『相葉マナブ』(テレビ朝日系)をはじめ、バラエティへの進出も目立つ。二宮和也は、この年末年始も『赤めだか』(TBSテレビ系)、『坊ちゃん』(フジテレビ系)に相次いで主演するなど、俳優としての評価をさらに高めている。また『ニノさん』(日本テレビ系)での彼独特の視点が感じられるMCぶりも見逃せない。そして松本潤は、俳優としての活動はもちろんだが、『嵐 15年目の告白~LIVE&DOCUMENT』(NHK)などでも語られていたように、嵐のコンサートの構成・演出面でも大きな役割を担うようになっている。


 そうした個々の活動の特色を踏まえながら、それぞれの素の表情やリアクションから生まれる魅力に迫ること。それがもうひとつの冠番組『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)の昨年4月からのリニューアルの目的ということになるだろう。番組の内容も、そうした素の部分が見えやすい各メンバーによる体当たりロケ中心の構成になった。


 例えば、「大野智の作ってみよう」は、大野の物づくりの才を生かし、究極のつまようじやマイ包丁などさまざまなものを自作する企画だ。そこで私たちは、作業に集中した瞬間の彼の魅力的な表情にしばしば出会うことができる。あるいは「ニッポン再発見!櫻井翔のお忍び旅行」は、無類の旅好きという櫻井がばれないように変装して日本全国各地を訪れるという企画だが、外国人観光客に日本の魅力をちゃんと伝えられるようになりたいという、いかにもニュースキャスターらしい真面目な動機が彼の口から語られる。同様に他のメンバーのロケ企画も、各々の活動やキャラクターを生かしたものになっている印象だ。


 『嵐にしやがれ』が始まったのが2010年。SMAP、TOKIO、V6といった先輩ジャニーズグループがプライムタイムで冠番組を持つようになった1990年代後半は、ジャニーズアイドルが本格的バラエティの冠番組を持つことや芸人張りの体を張った企画に挑むことが、まだとても新鮮な時代だった。それに比べれば、嵐はそうしたアドバンテージの薄くなった時代から始めなければならなかった。


 その点、今回のリニューアルで古立善之が企画・演出になったことは、重要なポイントだ。古立は、同じ日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』(『イッテQ』)の企画・演出を手掛け、成功させたディレクターである。「“何か”を利用して嵐の5人という人間を見せる番組にしたい」、そのために「意味のなさそうなことを一生懸命やってもらう」(『テレビドガッチ』2015年4月1日付インタビュー)と彼が語る『嵐にしやがれ』の新たなコンセプトは、『イッテQ』にそのまま重なるだろう。


 またこの場合、『イッテQ』が、日曜夜8時というまさにファミリー向けの時間帯で成功を収めているバラエティだというのも忘れてはならないポイントだ。『イッテQ』は、宮川大輔の「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」のように真剣にチャレンジするなかにもキャラクターとの相乗効果で笑いを生むその匙加減が絶妙な番組だ。それは、『VS嵐』で実証済みの、どの世代にもアピールする嵐というグループの魅力をベースにしながら、個々のキャラクターの魅力を際立たせるうえで絶好の手本になるだろう。


 2009年『紅白』に初出場、2010年からはグループで5年連続司会を担当、そして2014年には初のトリを務めた嵐は、ひとつのサイクルを完成させ、グループとしての次のステップへの助走に入っているように見える。この年末年始の出演ラッシュは、その合図なのかもしれない。(太田省一)