2016年01月10日 09:51 弁護士ドットコム
日々、満員電車で通勤している人には、ある日突然降り掛かる可能性がある「痴漢冤罪」。インターネット上の掲示板に、「痴漢の犯人に間違われて警察まで行った」という書き込みが投稿されていました。
投稿者によると、駅のホームの階段を上がっている途中、走って来た若い男性にぶつかられ、転倒。すると女性が走って来て投稿者を指差し、「こいつ痴漢!逃げるから捕まえて!駅員呼んで!」と叫んだそうです。投稿者は近くにいた数人に羽交い締めにされ、駅事務所に連れて行かれた後、警察へ。
投稿者は警察で事情を説明しましたが、聞く耳を持ってくれず、「今証拠集めてるからもう嘘はつけんぞ」「やったならやったって言えよ。1秒経つごとに罪が重くなってるぞ」などと脅されたといいます。最終的には、改札に入場した時間などから犯人ではないことがわかり、釈放されましたが、拘束時間は2時間にも及んだそうです。
投稿者のように、電車内や駅のホームで、痴漢の犯人に間違われて被害者や駅員などに捕まった場合、その後はどのようなプロセスが待っているのでしょうか。もし警察に連れて行かれたら、どんなことをされ、何を聞かれるのでしょうか。宇田幸生弁護士に聞きました。
A. 「事実でないことは決して認めてはいけない」が鉄則
一般人でも、現行犯人の場合には被疑者を逮捕することができます。逮捕後は、ただちに警察や検察などの捜査機関に、被疑者の身柄が引き渡されます。
その後は最大で23日間身柄拘束をされ(23日以内に起訴されますと、引き続き身柄拘束をされる場合もあります)、その間に、捜査機関から取調べを受けることになります。
取調べでは、これまでの経歴や事件に関して様々なことを聞かれます。そして、説明した内容をまとめた「調書」という書類が作成されます。
被疑者には黙秘権がありますので、取調べの際、言いたくないことは言わなくても良いですし、ずっと黙っていることもできます。
また、調書に署名押印を強制されることはありません。説明した内容と、調書に記載された内容が違う場合にも、修正を求める権利があります。さらに、弁護人の支援を受ける権利もありますので、捜査機関の立会なしで弁護士と面会ができます。
今回のケースで、投稿者は、警察に事情を説明しても、聞く耳をもってくれなかったと言っています。「痴漢をしたと認めたら家に帰してやる」といった利益誘導をする取り調べは違法であり、仮に自白調書が作成されたとしても、有罪を認定するための証拠として認められない場合もあります。
とはいえ、実際にそのような違法な捜査がされたかどうかは、後からは判明しにくく、裁判所が信用してくれない場合もあります。ですから、真実でないにも関わらず、罪を認めるような説明をしてはなりません。
冤罪事件では、捜査の初期に、事実でないにもかかわらず自白をしたことが原因で有罪となった事件もあると言われます。「事実でないことは決して認めてはいけない」ということが鉄則なのです。
身に覚えのない痴漢行為を疑われた際、あらぬ罪を着せられないためには、「犯行を認めるような説明は決してしないこと」、そして「一刻も早く弁護人に相談し支援を受けること」が肝要です。一定の要件が必要ですが、弁護人費用を立替えてもらえる制度もあります。詳しくは弁護士にお尋ねください。
【取材協力弁護士】
宇田 幸生(うだ・こうせい)弁護士
愛知県弁護士会犯罪被害者支援委員会委員長。殺人等の重大事件において被害者参加等の被害者支援活動に取り組んでおり、平成21年には全国で最初の損害賠償命令事件の申立てを行っている。
事務所名:宇田法律事務所
事務所URL:http://udakosei.info/