2016年01月08日 18:51 弁護士ドットコム
東京都港区の六本木ヒルズにある「アカデミーヒルズ」の会員制ライブラリーで、着物の履物をめぐって、トラブルが起きた。和服姿の男性が12月下旬、草履の一種である「雪駄(せった)」を履いて、施設に入ろうとしたところ、注意されたのだという。男性が疑問に思って利用規約を確認すると、ドレスコードの欄に「雪駄・下駄の着用はお断りしております」と書かれていた――。
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「和装は草履や雪駄が正装であり、それを禁止することは和服を禁止することと同じだ」。そう考えた男性がアカデミーヒルズに再び出向き、禁止の理由をたずねると、「和装の履物は、留め具がついておらず、足の裏が履物から離れるので音がする」という返答だった。
「では、着物に革靴やスニーカーを履いてくればいいのか」と聞くと、職員は「そういうことです。別にお持ちいただいて履き替えても構いません」と話したという。
「着物が好きで、毎日着物を着ている」という男性は、このようなアカデミーヒルズの対応に納得できなかった。そこで1月5日、「着物が否定されました。悔しいです」という言葉で始まる文章をフェイスブックに投稿し、事の顛末を記した。
その投稿は大きな反響を呼び、いいねが4000件以上、シェアが2000以上に達した。コメントも200件以上、投稿されているが、その多くは、「規則で和装の履物を一律に禁止するのはおかしいのではないか」という男性の主張に共感するものだ。
男性は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、メールで回答。「予想以上に反響があって驚いています。シェアやイイねの数もそうですが、有名な著名人にもシェアしていただいて、さらに拡散し、たくさんの方から自分の投稿に対しての意見をいただけたのは貴重でした」と、反響の大きさに驚きを隠さない。
一方、アカデミーヒルズの担当者は、利用規約で「雪駄の着用」を禁止していることについて、「(ライブラリーは)キャリアアップの勉強や、ワーキングスペースとして利用され、メンバーの方は、静かな空間を求めていらっしゃる」と説明。「バックストラップがない履物は、今までで一番、音が気になるという声がメンバーからあったため、規約をもうけた」と話している。
アカデミーヒルズが運営する会員制ライブラリーは、六本木ヒルズの49階にある。一人での仕事や勉強に適した静かなワーキングスペースのほか、大きな書棚が並ぶ図書スペースやくつろいで飲食できるカフェスペースが用意されている。
施設の規約をみると、ライブラリー全体に適用されるドレスコードとして、「ビーチサンダル、ゴム草履、雪駄・下駄の着用はお断りしております」と定められている。つまり、ルール上は、カフェスペースを利用する場合でも、「雪駄」は着用できないことになる。
この点について、男性はメール回答のなかで、次のように疑問を呈している。
「注意を受けたのは、音がしていたからではありません。規則で雪駄が禁止されていたからです。その時も音もしていなかったと思います。
(アカデミーヒルズの対応は)非常に残念。当該スペースは確かに図書館のような場所なので、利用者の妨げとなる音には留意する必要があるが、注意されたスペースは人と話をしたり、電話での会話、飲食も可能なスペース。なぜ和装の履物だけが禁止されているのか納得できない。なぜ同様に音のするミュールは規則で禁止されていないのか。
これでは和の履物だけが差別されていると捉えられても仕方がないのではないか。
和装は草履や雪駄が正装であり、それを禁止することは和服を禁止することと同義だと捉えています。しかもこの施設は和の文化や伝統についてのイベントも行っている場所。その主催施設が和の正装履物を禁止するのは言っていることとやっていることが矛盾しているのではないか。
さらには、いつ会議にかけるという返答もなく、今のところ『規則は現行のまま』という対応には、取り付く島もないといった感じで、意見が尊重されている感じは受けなかったです」
一方、アカデミーヒルズはどのように考えているのだろうか。弁護士ドットコムニュースの記者はアカデミーヒルズに赴き、担当者に話を聞いた。
取材に応じたアカデミーヒルズの担当者は「メンバーが快適に利用するための規約ということで設定させてもらっている」と説明した。
「音の感覚は一人一人全然違う。我々が、『あなたの歩き方は素晴らしい、音がしない』と思っても、メンバーの方にとってはうるさいという可能性もある。そういう意味では、一元的に管理するしかないのかなと考えている」と語った。
ただ、「問題なのはモノではなくて、あくまでも音」だといい、「雪駄などを履いていても、何らかの形でかかとが固定されてパカパカ音が出ないのであれば、問題はないということ」と説明。逆に、規約では禁止されていないミュールについて、「音がしていれば注意する場合もある」と述べた。
実際に記者も館内を見学させてもらったが、「マイライブラリーゾーン」と呼ばれるワーキングスペースは、くしゃみ一つすることすらはばかられるような静かな空間で、BGMもかかっていなかった。一方で、「ライブラリーカフェ」と呼ばれるスペースは、飲食も可能な開放的な空間で、雑談や通話もできる。男性は、この「ライブラリーカフェ」に入ろうとしていたところ、注意を受けたのだ。
ずいぶん雰囲気の異なる2つのスペースだが、アカデミーヒルズは、どちらも同じ規約で運営している。その理由について「靴を履き替えるということは基本的にはしないし、ライブラリーカフェがよくて、マイライブラリーゾーンがNGとなると、見張るのは難しい。マイライブラリーゾーンに入る可能性がある方ということで、同じルールでオペレーションしている」と説明した。
着物の愛好家から疑問が提起された「雪駄の着用禁止」ルールだが、このまま変更はされないのだろうか。その点については、「規約の変更を求める声が大きくなれば、検討させていただく可能性はある」という。
規約の書き方についても、アカデミーヒルズの担当者は「充分ではなかったなと考えている。なぜそういう規約がもうけられているのか、充分に表現できていなかった。『静かにご利用いただくためのルール作りです』と書くなど、工夫はできると考えている」と話している。
(弁護士ドットコムニュース)