トップへ

ブラック社労士の出現は「正社員解雇の厳しさ」が原因か? 再発防止は「金銭解雇の法制化」との意見も

2016年01月08日 17:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

写真

「社員をうつ病に罹患させる方法」をブログで指南してネットで大炎上した社会保険労務士に対し、所属する愛知県社会保険労務士会が3年間の会員権停止処分とし、退会を勧告したと報じられている。

一連の騒動に対してネットでは、あらためて「これは酷い」と批判が出ているが、このような社労士が現れる背景には「正社員の解雇の厳しさ」があると指摘する声もあがっている。

いじめのようになりがちなのは「安心して解雇できないから」

特定社会保険労務士の榊裕葵氏は2015年12月31日、シェアーズカフェ・オンラインに「『社員をうつ病に罹患させる方法』というブログの背後にある問題とは?」という記事を寄稿し、次のような見方を披露している。

「我が国の『解雇』に対する考え方が、今回の問題を引き起こした遠因にあるのではないか」

労働基準法には「30日前に予告すれば解雇ができる」という手続面の定めがなされているものの、労働契約法には「客観的に合理的な理由」があって「社会通念上相当」であると認められない限り、解雇は無効と定められている。

過去の判例でも労働契約法の解雇規定は非常に厳格に解釈されており、仮に裁判になった場合も非常に長い時間と費用がかかるため、会社側の負担は大きい。

したがって経営者は、トラブルを避けるため「何とかして自己都合で退職してもらおうと、あの手この手で誘導せざるを得ない」と榊氏は指摘。追い出し部屋などとも言われる、いわゆる「リストラ部屋」も例にあげて、こう指摘する。

「経営者が本当に必要と考える場合であっても、安心して解雇ができないから、逆に半ばいじめのような退職勧奨になってしまいがちということである」

「手切れ金でクビにできるなら、誰もめんどくさい追い込みなんてしない」

榊氏は、会社都合で解雇をすると一定期間、雇用関係の助成金を受給できなくなってしまう現状にも触れ、「助成金制度の存在も解雇に対して影響を及ぼしている」と説明する。正当な理由のある普通解雇は、助成金の不支給事由からは除外すべきという持論も披露した。

そして、解雇される労働者に対する「セーフティーネット」の拡充を必須の前提として、解雇の金銭的解決など「解雇規制の緩和」を進めた方が、経営者も労働者も幸せになれるのではないかという考え方を示している。

コンサルタントの城繁幸氏も同年12月9日に「会社が従業員を追い込むなんて許せない!と思った時に読む話」というコラムで同様の指摘をしている。

城氏は、正社員制度がもはや終身雇用であり、会社都合でクビにするのが事実上不可能である以上、自主退職に追い込むのは「仕方ないこと」とし、社員を守るためには金銭解雇ルールを作って「何か月分かの賃金を払えばいつでも簡単に解雇できるようにすること」を提案する。

「手切れ金でクビに出来るんなら、誰もめんどくさい追い込みなんてしませんからね」
「従業員ボロボロに追い込んで辞めさせてる方がよっぽどブラックだと筆者は思いますけどね」

厚労省検討会の委員は「速やかな法制化」を訴える

金銭解雇のメリットについて、城氏は「従業員が手切れ金をゲットできる」うえに、ブラック社労士にも報酬が渡らず経営危機に追い込めるとする。

金銭解雇については、厚労省が「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を立ち上げ、2015年10月29日に第1回会議を開催。検討事項に「解雇無効時における金銭救済制度のあり方とその必要性」を盛り込んだ。検討会の八代尚宏委員は(昭和女子大学特命教授)はこの検討会で、

「解雇の金銭補償のルールの法制化というのは、速やかに進めるべきではないかと考えております」

と発言。これに対し、しんぶん赤旗は同年12月24日、金銭解雇が実現すれば「金を出して労働者をクビにする企業が横行し、世界でも異常な解雇自由社会になりかねません」と批判している。

あわせてよみたい:「解雇規制を緩和したら正社員が増えた!」 イタリアで労働市場改革に成果