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嵐・二宮和也が『母と暮せば』『赤めだか』『坊ちゃん』で示した、俳優としての真価

2016年01月07日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 嵐・二宮和也が、2015年12月から今月にかけて、映画『母と暮せば』、スペシャルドラマ『赤めだか』と『坊ちゃん』の3作品に出演した。どの作品もキャスト、スタッフともに一流の面々が集結しており、題材もまた濃密である。ジャニーズ内ではもちろん、現在の若手俳優の中でも屈指の実力派として知られる二宮にとっても、この3作品は大きな意味を持ったのではないだろうか。そこで本稿では、3作品における二宮の役どころとその演技を考察することによって、改めて俳優としての立ち位置に迫りたい。


参考:嵐・二宮和也が、ドラマ『赤めだか』と『坊っちゃん』に挑む背景


 昨年12月に公開された、長崎の原爆投下から3年後を舞台に母と息子の親子愛を描いた映画『母と暮せば』では、母である吉永小百合の息子役“浩二”を演じた。二宮が演じた息子は、原爆が投下された1945年8月9日に亡くなっているため、亡霊で母親にしか見えず、泣くと姿が見えなくなるという設定だった。その事実とは裏腹に、浩二はおちゃめで前向きな青年で居続けた。母親との談笑シーンでは、笑い転げる様子を、顔の表情や手を叩くのではなく、足を小刻みにバタバタさせることで表した。観客もつい笑ってしまう穏やかで明るいシーンのひとつだ。亡くなった浩二に想いを寄せ続けている恋人・町子(黒木華)の幸せを願い、自分を忘れられるよう突き放す過程も特筆したい。町子を想うとすぐに涙していた浩二だが、物語の後半では、「町子の幸せは、原爆で亡くなった全ての人の願いでもある」と真摯な表情で語り、和やかなシーンの背景にある凄惨な現実と、それでも前へ進もうという力強いメッセージを同時に表現していた。亡霊という設定上、出演シーンは母親との会話のみに限られているにも関わらず、初めから終わりまで、浩二の存在を否応無しに意識させられたのは、明るく笑い上戸な浩二の性格に寄り添いながらも、その辛く悲しい現実にも想いを馳せることができる、二宮の役者としての高い理解力があったからこそだろう。


 年末に放送されたスペシャルドラマ『赤めだか』では、落語家・立川談春が17歳で談志師匠に弟子入りし、“プロの落語家”として認められたことを表す二ツ目昇進までを演じた。生活のための新聞配達のアルバイトをしたり、きつい修行で廃業する弟子の姿を目の当たりにしたり、自分より後に入門した弟子に追い越されそうになったりと、その日々は決して楽なものではない。それでも食らいついていく様子を、二宮はあくまでコミカルに演じていた。談春のガサツな性格を外股で地面を擦るような歩き方で、若さゆえの猪突猛進な性格をスピード感のある鋭い物言いで表現していたのは、二宮ファンにとっても新鮮に映っただろう。とくに、随所で弟子たちが繰り広げる談志師匠(ビートたけし)のモノマネは、原作にはない面白さであり、二宮自身も乗って真似ているのが印象深かった。また、ラストの落語シーンは素人目に見ても迫力があり、ここでもまた役者・二宮の実力が発揮されていた。


 新春スペシャルドラマとして放送された、夏目漱石原作の『坊ちゃん』では、嘘をついてごまかすことを認めず、わからないことはわからないと主張する愚直な数学教師を、ストレートな表情や仕草で演じた。原作は古風な言葉遣いや言い回しが多いため、読みにくさやわかりにくさを感じる人も多いかもしれないが、ドラマは子どもから大人まで楽しむことができる仕上がりだった。“坊ちゃん”の強情な性格が周囲に変化をもたらす様に、痛快さを感じた視聴者も多かったはずだ。二宮は、原作通りに怒ってばかりで、いかにも頑固者といった風情の表情を浮かべていた。一方、教師として生徒に伝えたメッセージは、現代を生きる人々にも響く重みがあり、二宮の声を通じて素直に受け取った視聴者も多かっただろう。後世に残すべき日本文学の名作を、幅広い年齢層に訴えかける明快なドラマとして成立することができたのは、国民的アイドルグループ・嵐の一員である二宮だからこそではないか。


 今回、二宮が出演した3作品に共通しているのは、すべて過去の時代の話だということだ。ドラマ評論家の成馬零一氏が当サイトのコラム【参考:嵐・二宮和也が、ドラマ『赤めだか』と『坊っちゃん』に挑む背景】で指摘したように、そこには年齢的な問題もあるだろう。若者と中年のはざまにいる二宮だが、ドラマとしての虚構性が高まる過去の時代の物語なら、まだまだ若者として活躍できるというのは、実際に今回の一連の作品を見ても感じられるところだった。しかし、それ以上に印象的だったのは、すべて過去という舞台設定で、ともすれば同じように感じてしまいそうな3つの役柄を、その高い演技力で見事に演じ分けたということの凄みだ。通常の役者であれば、役作りという観点から考えても、こうした仕事の仕方はあまりしないだろう。しかし二宮は、過去の時代の作品に集中的に取り組むことによって、むしろ役者としての実力を見せつけることに成功した。


 今年3月に公開される人気漫画原作の映画『暗殺教室~卒業編~』では、最強の殺し屋“死神”役を演じることが決まっている二宮。2014年のドラマ『弱くても勝てます ~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』の教師役以来となる学園モノだが、次回は時代モノ以上に虚構性の高い作品のうえ、役柄もミステリアスなだけに、今回の3作で見せたような本領を発揮できるのではないか。


(文=小島由女)