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夫は我が家の長男? 家事育児をしない「ゼロメン夫」との離婚

2016年01月07日 08:51  弁護士ドットコム

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家事育児にも積極的に取り組む「イクメン」は、子育て中の女性にとっては大いに頼りになるもの。いっぽうで、自分が「長男」となって、妻に面倒を見てもらうような夫もーー。そんな夫を「ゼロメン」と呼ぶこともあるようです。


弁護士ドットコムの法律相談にも、「共働きなのに家事育児をしない夫に対して、苛立ちを通り越し、愛想が尽きてしまいました」などの相談が数多く寄せられています。


ある女性は、「子供が生まれてからこの5年間。話し合いも褒め殺しもいろいろ試したのですが・・・。でも、もう限界です」と離婚を考えているようです。


夫が「家事育児をしない」と不満を感じる妻は多いもの。でも、夫には夫で言い分もありそう。「ゼロメン夫」との離婚は、法的に認められるのでしょうか。伊藤俊文弁護士に聞きました。


A. 「夫婦協力義務」をご存知でしょうか?


ここ数年で「イクメン」という言葉も定着し、男性の育児休暇取得が話題になるなど、家事や育児にも男性が積極的に関わることが求められる時代に変わろうとしています。


ところで、法律でも男性が家庭生活に積極的に関わるように定めていることをご存知でしょうか?


民法752条は「夫婦は、同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めています。


この「夫婦協力義務」は当然、家事や育児にも適用されます。


夫が正当な理由なく、家事や育児に協力しなければ、この義務を放棄していることになります。


「正当な理由」とは、病気などやむを得ない事情を指します。


「疲れているから」「俺の仕事ではないから」といった言い訳が含まれないことは明らかですね。


もし、こうした言い訳ばかりで夫が家事育児をしないならば、「夫婦協力義務」を放棄しているとして、裁判上の離婚原因として認められている「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(民法第770条1項2号)にあてはまる可能性があります。


ただ、どんな場合でも、「悪意の遺棄」として認められるわけではありません。 


たとえば、何度話し合っても、一向に夫の態度が改まらない、妻に負担が偏ったことで心身ともに疲弊してしまった、これ以上、改善の余地がないと判断されるケースです。


ここまで関係が悪化すれば、「悪意の遺棄」に該当するとして、離婚が認められる可能性は十分にあり得ると考えられます。


これ以外にも、家事や育児放棄のほかに、他の様々な原因と組み合わさって、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法第770条1項5号)と認められる場合もあるでしょう。


また、実際に、家事育児をしないという理由で離婚が認められた判例もあります。


夫の育児・家事への協力不足から、妻が婚姻生活に失望し、別居を望むようになったという状況について、裁判所は次のように論じました。


「表面的には夫婦生活を営んでいたものの、夫婦を結びつける精神的絆は既に失われていたものと評価することができる」


そして、民法第770条1項5号により離婚を認められました(東京地方裁判所2003年8月27日判決)。


ところで、妻が専業主婦の場合であっても、「夫婦協力義務」はあります。専業主婦だからといって、家事や育児を丸投げできるわけではないことも指摘しておきたいと思います。




【取材協力弁護士】
伊藤 俊文(いとう・としふみ)弁護士
大阪府出身。名古屋大学法学部卒。平成17年10月大阪弁護士会登録(58期)。平成17年10月~平成20年12月大阪市内の法律事務所にて勤務弁護士として従事、平成21年1月フェアリー・ウェル法律事務所にパートナー弁護士として合流。

事務所名:フェアリー・ウェル法律事務所
事務所URL:http://www.fairywell-law.jp/index.html