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スーパーヒーローをリアルに描くと……? 『デアデビル』が見せる濃密なクライムドラマ

2016年01月06日 14:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(C) Netflix. All Rights Reserved.

 すでに熱狂的人気で迎えられているNetflixオリジナルドラマ『デアデビル』は同名のコミックを原作とするマーベルヒーローシリーズであるが、都市犯罪アクションとしてもその完成度の高さに目を見張るものがある。


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 官能的な色光がアスファルトに滲む夜のニューヨーク、その一角ヘルズキッチンにうごめく闇組織による犯罪を阻止すべく、主人公マット・マードック(チャーリー・コックス)は覆面の男「デアデビル」となって戦う。こうして書くと勧善懲悪なヒーローものが想像されるかもしれないが、実質は濃密なクライムドラマという印象が強い。


 「デアデビル」=マットは幼い頃の事故で放射性廃棄物質を目に浴び視覚を失った代わりに超人的感覚を手に入れた。昼はスティックをつく紳士的な弁護士として活動するが、夜は暴力によって悪人に裁きを下す。そんな2面性を抱え、正義と悪の狭間で葛藤する主人公だ。そしてもう1人ストーリーの軸となるのが、スーツに身を包んだ巨漢の実業家ウィルソン・フィスク。彼は生まれ育った町ヘルズキッチンの再興を目指し、そのためならば殺人も厭わない。とはいえ一面的な悪役ではなく、一人の男として純粋に恋愛していたりもする。(ちなみに演じるヴィンセント・ドノフリオは、なんとあの『フルメタル・ジャケット』でハートマン教官にしごかれ続ける“微笑みデブ”レナード!)


 そんな鏡像的な2人のメインキャラクターが出会うのは後半になるが、彼らを軸に周辺のキャラクターらのストーリーも積み重ねられていく構成によって、都市を舞台にした群像劇が立ち上がる。単一の視点に回収されない重厚なシナリオだ。映像面においては影を強調したフィルム・ノワールな画面が特徴的で、とりわけナイトシーンでは空間のみならず人物の顔すらギリギリの暗さの中で映し出され、緊張感とともに我々を闇の世界へいざなう。


 各エピソードに必ず組み込まれるアクションパートの演出にも通常のドラマの枠を超えた野心が感じられる。例えばエピソード2のクライマックス、ビルの狭い廊下で繰り広げられる約5分間にわたるワンシーン・ワンショットの戦いは、コリアンバイオレンス『オールド・ボーイ』の名シーンを彷彿ともさせる渾身の演出だ。他にもボーリング場での乱闘、車ドアでの虐殺、燃える忍者(!?)と新鮮な見所は多い。


 本ドラマは、さまざまな人種が集う大都市ニューヨークのリアルを根底にしている。舞台となる「ヘルズキッチン」というのはマンハッタン内に実在するエリアで、今でこそ高級マンションやレストランがひしめいているが、以前はその名“地獄の台所”の通りギャング団による犯罪が横行していた。製作陣はそんなかつての荒廃した雰囲気を再獲得すべく、実際のヘルズキッチンではなくマンハッタンから橋を渡ったブルックリンやクイーンズのロングアイランドシティを主な撮影ロケーションとした。これらのエリアが今でも漂わせる静かな危うさがフィクションの迫真性を高めていることは間違いない。また劇中には黒人、ヒスパニック、ロシアン、チャイニーズ、ジャパニーズといった様々な人種が登場する。かつてのアメリカンドラマであればその会話は英語で統一されていたであろうが、本作では各々の言語をそのまま取り入れ、基本的には英語字幕も出さない選択をしているという点はリアル志向ならではだ。


 こうしたハイクオリティの根源となっているのは、企画者であり製作総指揮の1人ドリュー・ゴダードだろう。『エイリアス』『LOST』などのドラマシリーズや、ゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』、日本では2月5日から公開されるリドリー・スコット監督最新作『オデッセイ』などの脚本家であり、2011年にその斬新さで注目を集めたホラー映画『キャビン』の監督を務めた才人である。マーベル版新『スパイダーマン』スピンオフを任せられたともアナウンスされているドリューは、今後ハリウッド映画界の中心的人物ともなっていくことだろう。


 シーズン2の製作が決定している『デアデビル』だが、マーベルファンのみならず、ダークかつハードなクライムドラマを切望していた方にもオススメできる。(文=嶋田一)