2016年01月06日 08:01 弁護士ドットコム
愛を育んできた同じ部署の女性と、晴れて婚約!ところが、そんな幸せムードに水を差すような出来事が。ある男性が、ネット上に悩みを書き込みました。
「部内婚を上司に報告した数日後、社長から突然、『結婚したら部署を異動するように』と命じられたんです。しかも、今まで所属していた営業部とは畑違いの総務部へ・・・。拒否できないのでしょうか?」
突然の異動命令に納得できない様子の男性。命令を拒否できないのか、鈴木謙吾弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 他に明らかな嫌がらせなどの事情がなければ、異動命令は拒めない
まず、会社が下した適切な人事異動については、社員は拒否できないと考えられます。
大前提として、会社には、そこで働く人に指揮命令をする権利があります。どのような場所で、どのような仕事をさせるのかを自由に決めることができます。
「あの部署に人が足りない」「●●さんにはこちらの部署で能力を発揮してほしい」など、その時々の会社の状況や社員の適性に応じて、適切な人事異動をすることには、何ら問題ありません。
では、ご相談者に命じられた人事異動は適切といえるのでしょうか。
営業と総務の仕事内容は異なりますので、経験のない仕事を一から覚えることにはなるでしょう。「外回りしている方が好きなのに・・・」と、自分の適性との間で悩むかもしれません。
しかし、営業職で入社していたとしても、雇用契約書などに異動先に制限がない旨が明記されている場合には、職種変更を伴う異動であっても、基本的には拒否することはできません。
しかも、部署内に夫婦がいるとなると、多少なりとも周りの従業員が気を遣うでしょうし、少なからず影響が出る可能性があります。
また、ご相談者の異動命令は、懲罰的でも、嫌がらせ目的ともいえないと思われます。そのため、周りの社員への影響を優先して、他の部署へ異動させるという会社の判断には、正当性があると考えられます。
ただし、どのような人事異動も絶対に拒否できないわけではありません。会社が命じた人事異動が「適切でない」場合は、その命令を拒否できます。
例えば、部内で結婚することを理由に、ほとんど仕事がない部署に異動させるような「降格」とも言える対応をされたケースなど、社員への嫌がらせともいえる人事に対しては、会社の目的が不当という理由で、拒否できるでしょう。
また、「職種」や「勤務地」を限定して採用されたのに、専門外の職種や該当エリア外に異動するよう命じられた場合も、会社側に正当な理由がなければ拒否できる可能性が高いでしょう。
さらに、部内で結婚することを理由に、「解雇」や「退職勧奨」を実質的に強制された場合は、法的に極めて問題があり、拒否できると考えられます。
【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com/