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スガ シカオが提案するリッチな“新曲との出会い方” 『THE LAST』生ライブ試聴会&ACOUSTIC NIGHTを観た

2016年01月05日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

スガ シカオ

 ひょっとしたら、この形は、次のスタンダードになるかもしれない――。


(参考:「スガ シカオ、来るべき新作『THE LAST』は尖った一枚に? 柴那典が収録予定曲から方向性を考察」


 スガ シカオの単独ツアー「SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2015 『THE LAST』」を観て、最初に思ったことがそれだった。


 1月20日に約6年ぶりのオリジナルアルバム『THE LAST』をリリースする彼。今回のツアーは「生ライブ試聴会」と題し、ニューアルバムの収録曲を先行披露する形で行われた。


 12月25日・26日の2日間、ZEPP Divercity TOKYOにて行われた公演。筆者が訪れたのは25日の方で、この日は「生ライブ試聴会」と「ACOUSTIC NIGHT」との二部構成だ(26日は「FUNK PARTY」との二部構成だった)。前半で新曲を、そして休憩を挟んだ後半でこれまでの代表曲をプレイするというステージである。


 ツアーの予告編動画に収録されたインタビューによると、最初は通常の試聴会と同様にファンが集まりアルバムを聴き、曲を解説するようなイベントを行うアイディアもあったのだという。しかし、それをやっても「つまらない」というスガ シカオ自身の考えから始まったのが今回のツアー。歌詞をステージ背後のビジョンに映し出し、リリースされた音源を聴くのと同じ条件で、生歌、生音でアルバムの新曲を曲順通りに届けるという試みだ。


「みんなに衝撃を与える、そんなドキドキするようなライブができたらと思いました」


 と、この日のMCでも語る。というわけで、ライブはアルバム1曲目の「ふるえる手」からスタート。アコースティック・ギターを抱えたスガのエモーショナルな歌声が響き、その背後にはリリックビデオのように歌詞がデザインされた映像が映し出される。固唾を呑んでそれを見つめるお客さんのムードも、普段のライブと違う感じだ。さらにはアルバムの2曲目「大晦日の宇宙船」、3曲目「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」と彼らしい刺々しさを持ったナンバーを、曲順通りに続ける。


 この日はニューアルバムの11曲のうち7曲をプレイ。後半はMCで「下町シリーズ」と語った「オバケエントツ」から、グルーヴィーなファンク「愛と幻想のレスポール」へ。さらにMCではスガが音楽武者修行の旅をきっかけに出会った現在闘病中の友人への思いを語り、そのことが歌詞のモチーフとなった「真夜中の虹」を披露。最後はアルバムのラスト曲「アストライド」で生ライブ試聴会を締めくくった。


 続いて第二部は、「クリスマスということで、いつもとはちょっと違う感じで――」と、アコースティック編成でのステージ。まずは一人「アイタイ」をアコースティック・ギターの弾き語りで艶やかに歌い、続く「フォノスコープ」でパーカッションやウッドベース、フルートなどのメンバーがステージに登場する。ソロの弾き語りライブをやったことは幾度となくあるスガ シカオだが、バンドスタイルのアコースティック・セッションは初めてのことなのだとか。「個人的にすごく好きな曲」と語った「宇宙」をしっとりと披露し、「夜空ノムコウ」「黄金の月」などの代表曲も、しなやかなアンプラグドのアレンジで届ける。


 後半はスガ シカオもエレキギターに持ち替えていつも通りの編成に戻り、「19才」や「コノユビトマレ」など、エネルギッシュなパーティーナンバーを続ける。本編ラストは「青空」。そしてアンコールは「午後のパレード」から「91時91分」で大いに盛り上げる。最後は「クリスマスソングを歌おうと思ったんだけど、そんな曲がないので、真冬の12月の歌を歌います」と告げて、「Cloudy」を披露。結局、第二部では全17曲、第一部の新曲7曲とあわせて合計24曲を演奏し、大きな満足感を余韻に残してスガ シカオはステージを降りた。


 この日、会場ではCDの予約販売も行われていた。今回スガ シカオが行った「生ライブ試聴会」は、アルバムをリリースしそれを引っさげてのツアーを行うことが慣例となっている音楽業界的には、前代未聞の試みかもしれない。が、ファンにとってみれば、ライブでいち早く新曲を体験できるというのはかなり嬉しいもの。少なくとも、テレビやラジオ、YouTubeやSNSを通じてアーティストの新曲に触れることが当たり前になっているなか、最もリッチで満足のいく「新曲との出会い方」の体験になったのではないだろうか。


 他にも、こうした形でツアーを行うアーティストは増えてきている。Mr.Childrenは昨年にリリースしたアルバム『REFLECTION』の収録曲を発売前の全国アリーナツアーで披露し、最終日の6月4日にアルバムをリリースしている。ゆずも1月13日発売のニューアルバム『TOWA』のリリースに先駆けた「アルバム発売前ツアー」を行ったばかりだ。


 「ライブの場でファンに最初に新曲を届ける」というスタイルのツアーが少しずつ広まっていくなか、スガ シカオのとった「生ライブ試聴会」というスタイル、生演奏+リリックビデオという見せ方は、一つの解となっていくかもしれない。そんなことを思った一夜だった。(文=柴 那典)