電車内での痴漢行為を理由に東京メトロ駅員の男性が解雇されたのは不当だと訴えた裁判で、東京地裁が2015年12月25日、解雇は無効とする判決を言い渡したことが報じられている。
石田明彦裁判官は「解雇は重すぎ、手続きにも問題がある」と指摘し、解雇された2014年4月以降の給与を支払うようにも命じた。しかしネットでは、利用者から違和感があるという声があがったほか、非正規雇用であれば確実に解雇になるはずとして「正社員優遇すぎる」という批判まで起こっている。
「これ東京メトロも被害者だよね」と同情する人も
男性は2013年12月に東京メトロ千代田線内で、当時14歳の女性の身体を約5分間触ったとして逮捕され、略式起訴の後で罰金刑が確定。同社は2014年4月、起訴を理由に男性を諭旨解雇した。
裁判の中で男性は「痴漢はしておらず、釈放されたい一心で認めてしまった」と主張したが、判決では「痴漢はしたと認められる」と退けた。つまり地裁は痴漢が事実であっても、正社員を解雇するのは重すぎると判断したことになる。
この判決に対しては、女性向けコミュニティサイトのガールズちゃんねるに反発の声が殺到している。「痴漢を防止すべき駅員の厳しい処断は当然」という会社の主張に賛同し、判決はおかしいというものが圧倒的だ。
「いやいや(解雇は)有効ですよ。気持ち悪い。駅員が痴漢なんて言語道断」
「14才に卑猥な行為して、要は痴漢の内容は軽いみたいな判決で済ませていいの?」
「この裁判官、娘はいないのかな? 残念だよ」
「鉄道側は犯人をキチッと解雇した。なのに裁判官に不当解雇だと言われた。裁判官がおかしい」
あまりに納得できないとして、「これ東京メトロも被害者だよね」と同情する人も。会社は判決後に「当社の主張が認められず遺憾」とコメントし、キャリコネニュースの取材に「判決内容を精査し、控訴前提で進めていきます」(広報部)と回答した。
解雇できないのは正社員が「社会福祉」だから?
フリーライターの赤木智弘氏は、この判決について「多分『温情判決』の範囲なのだと思う」と評し、「解雇という今後の生活を左右するようなことは、その罪に比して、結果が重すぎるということなのだろう」と推測したうえで、このように問題提起する。
「しかし、僕にはそれはあまりに『正社員優遇』であるように思えてしまうのだ」
赤木氏は「本来、会社にとって不的確な人間を排除することは、会社の権利であるはず」だが、正社員が会社から給料を貰うことで生活を成り立たせている実態から、「排除するルール」によって簡単に解雇させられなくなったと指摘する。
そのために、正社員の代わりに解雇しやすい非正規社員が生まれ、「労働格差が法的に決められてしまうことになった」という。このことが今回の判決にも通じるというのだ。
「鉄道会社に痴漢が勤務することが許されることも、非正規が真っ先に首を切られてしまうことも、その原因は正社員を会社に努めさせる(原文ママ)ことが『社会福祉』として機能しているからだ」
そのうえで、会社から離れた個人が生きていけない社会であるならば「それはまっとうな社会福祉が存在しないことに等しい」と断じ、「社会福祉を企業に担わせず、本来、国民を守る義務を負っている国が、ちゃんと再分配を担う社会にしたいと願っている」と締めている。
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