2016年01月04日 18:21 リアルサウンド
韓国の演技ドルは、演技するアイドルであり、そこに明確な基準はないが、個人的には、アイドルだけれど、主役、脇役に限らず演じられて、その演技で決して派手ではないが深い印象を残す人というイメージを持っている。また、アイドルといえば、以前であれば、財閥二世とか、御曹司や王子様的な役を演じるのがお約束だったと思うが、演技ドルという言葉ができてからは、きらびやかな王道以外の役を演じて評価される道ができたのではないかと思う。
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そういう意味で、演技ドルは、ドラマ『いいひと。』で草彅剛が初主演したときのことを彷彿させる。今や、アイドルグループのメンバーが、それぞれに活躍することは当たり前になったが、アイドルの寿命が今より短かった時代には、グループの全員が主演を体験するということは珍しかったし、だからこそ話題になった。しかも、草彅の役は、文字通りの「いい人」役で、それは当時のドラマにしては、かなりの変化球であった気がする。
前置きが長くなったが、2016年、注目の演技ドル気を挙げるとするならば、やはりZE:Aのシワンをあげないわけにはいかない。当初は、演技をするアイドルというだけの意味であった演技ドルという言葉に、新しい指標を加えたのは彼だと思うからだ。シワンは、時代劇ドラマ『太陽を抱く月』でヒロインの兄の若かりし頃を演じてその演技力で注目され、その後、主演ドラマ『ミセン-未生-』は非正規雇用で商社に入社してきた主人公の新入社員を演じた。この『ミセン-未生-』は、韓国社会における雇用の在り方を描き、韓国で社会現象にもなったし、その後の演技ドルたちにも影響を与えたのではないかと感じる。
次にあげたい演技ドルは、日本でも公開された映画『明日へ』に出演したEXOのD.Oことド・ギョンスだ。この映画での彼の役は、大手スーパーで非正規社員から正社員に昇格することが決まっていたものの、ある日突然不当な解雇通達を受ける主人公ソニの息子というもの。ギョンスは労働闘争で家を空けている母親に反発しつつも、自分も労働を通じて母の思いを知る。この映画の監督は、「彼はアイドルっぽくないが、大人っぽく真面目」と彼を評していたが、社会派の作品が増え、リアリティのあるドラマや映画の中に自然に溶け込む雰囲気があるということは、昨今の演技ドルに必要な条件のように思える。
次にあげるのは、SUPER JUNIOR イェソンだ。彼もまた、ドラマ『錐』で、スーパーの水産コーナーで働く非正規社員で、後に労働組合に参加、その中で苦悩する役を演じている。ここまで、非正規労働を描いた作品の紹介が多くなっているが、それは今の韓国で労働の問題に取り組んだ作品が注目されていて、そこにリアリティを感じさせるキャラクターのアイドルが参加し、葛藤を演じることで、演技ドルへと成長することは多いということがわかる。イェソンは、尊敬する俳優にパク・ヘイルを挙げている。パク・ヘイルといえば、ポン・ジュノ監督の『グエムル-漢江の怪物-』や『殺人の追憶』でも活躍の演技派俳優。しかも、イェソンとちょっと雰囲気も似ているのだが、イェソンのその言葉に、本格派の演技者を目指しているのを感じた(もっとストレートに言うと、「イェソン自分のことわかってるな」とも思った)。
2PMのジュノも注目としてあげたい。ジュノは映画『監視者たち』ではチョン・ウソンやソル・ギョングなど韓国の名優たちと共演。彼らに負けない強い印象を残し、映画『二十歳』でも、男子の日常を演じた。そしてやはり、ほかの演技ドルと同じく、彼も、日常に溶け込む自然さが魅力だと思う。2016年には、『ミセン』でシワンの上司役でこのドラマを引っ張っていたイ・ソンミンとともに、『ミセン』と同じtvNが制作のドラマ『記憶』に出演を予定しているのも注目だ。しかも、イ・ソンミン演じるアルツハイマーを患った弁護士の後輩弁護士役を演じるというのだから、『ミセン』の部長と部下の強い絆を持った関係性を彷彿させる枠組みに、大いに期待してしまう。
さて、最後は日本で映画『ネコのお葬式』が公開のSUPER JUNIORのカンインをあげたい。この作品でカンインは、監督から、感情をおおげさに出さないことを要求され、彼自身も役に自然に入り込むことを心がけたという。個人的に、イェソンがパク・ヘイルなら、カンインは、チョ・ジヌンに雰囲気が似ているように思う。チョ・ジヌンは『チャンス紹介』のような心温まる作品でも、『悪いやつら』や『群盗』のような、男くさい作品でも活躍できる俳優である。カンインも、そういったふり幅のある役を選んでいけば、ほかの演技ドルとは違う新しい演技ドルになれる可能性を秘めているのではないかと思うのである。(西森路代)