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土屋太鳳、門脇麦の『まれ』コンビが再共演 『美しき三つの嘘』の注目ポイント

2016年01月04日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『女性作家ミステリーズ 美しき三つの嘘』公式サイト

 フジテレビ『女性作家ミステリーズ 美しき三つの嘘』(1月4日放送)は、湊かなえの『ムーンストーン』、三浦しをんの『炎』、角田光代の『平凡』という3つの短編を映像化した、フジテレビのオムニバスドラマだ。〝大人の鑑賞に堪えうるミステリー〟をテーマに、数多くの興味深い役者やスタッフが集結している。本稿では、そんな本作の見どころを書いていきたい。


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 湊かなえの『ムーンストーン』は、市議会議員の妻である“私”が主人公だ。夫と閑静な高級住宅街に暮らしている“私”は、夫から日常的にDVを受けていた。そしてある日、夫の暴力から娘を守ろうとした際に、“私”は夫を殺してしまう。キャストは、“私”を演じる永作博美を筆頭に、檀れい、村上淳、滝藤賢一、柄本明など、評価を確立している面々が揃っている。監督は深川栄洋が務め、脚本は深川と山室有紀子が担当している。特に注目なのは、個性が強い役者陣を、深川栄洋がどう見せるのかというところ。深川は、会話劇を前面に押しだした作風を得意とし、役者に細かな演出を施すことで知られている。丁寧なコミュニケーションによって、深川は演者の新たな一面や表情を浮かびあがらせていくのだ。2013年の映画『くじけないで』は、そんな深川の手法が活かされた一作で、役者歴60年以上の大ベテラン八千草薫を主演に迎え、チャーミングな側面を存分に引きだしていた。今作ではどのように役者の個性を抽き出していくのか、楽しみである。


 三浦しをんの『炎』は、高校生の香川亜利沙が主人公の作品。ストーリーは、亜利沙が憧れる先輩・立木尚吾が焼身自殺し、その真相を探っていくというもの。真相が明らかになるにつれて高まる緊張感が魅力だ。見どころは、亜利沙役の土屋太鳳をはじめ、門脇麦、村上虹郎、柄本佑など、いま注目の若手たちが集結しているところ。ベテラン勢の演技バトルを楽しめるであろう『ムーンストーン』とは対照的に、『炎』では若い才気のぶつかりあいが見られるはずだ。また、土屋太鳳と門脇麦は、連続テレビ小説『まれ』以来の共演となる。ふたりの掛けあいこそが『まれ』の面白さでもあっただけに、その面白さが『炎』でも見られるのか注目だ。監督を務める廣木隆一は、これまでいくつもの賞を受賞し、『ヴァイブレータ』といった話題作も多く手掛けている。好きな男のすべてを知るために、男が捨てたゴミを拾い集める少女の物語を描いた『東京ゴミ女』や、歌舞伎町のラブホテルを舞台にした群像劇『さよなら歌舞伎町』など、鮮烈な作風も特徴だ。今作では、若い役者たちの感情をどう切り取るのだろうか。


 角田光代の『平凡』は、宮本紀美子という主婦を主人公にした作品。結婚生活が20年を超えた紀美子はある日、テレビで中学・高校の同級生であり、現在は人気料理研究家として活躍する榎本春花を見る。平凡な日常が変わるかもしれないと考えた紀美子は、ツイッターを介して春花に連絡すると、すぐに返信は来なかったものの、ある日、春花から会いたいと連絡がくる。20年以上ぶりに会ったふたりだが、そこで春香が「人を殺したかも」と告白する……というのが物語の大筋だ。中心人物である紀美子と春香は、それぞれ鈴木京香と寺島しのぶが演じ、染谷将太や寺脇康文などが脇を固めている。この作品の見どころはやはり、紀美子と春香の奇妙な関係性だろう。夫との関係は冷め、退屈な毎日を送る紀美子に、連日テレビに出演する人気者の春香。異なる人生を歩んできたふたりが、20年以上ぶりに会い、どう心境を変化させていくのか。その心の機微に、ぜひ注目してほしい。また、監督の瀬々敬久についても特筆したい。瀬々敬久といえば、上映時間4時間30分を超え、全9章からなる映画『ヘヴンズストーリー』を作るなど、突飛なアイディアが目立つ監督なので、その斬新さを『平凡』でどう発揮するかに期待がかかる。


 ここまで、全3作品の見どころを書いてきたが、3人の監督には共通点がある。それは、構成が精緻であるということ。2時間近い映画作品でも、いっさいの中だるみがなく、心地よい緊張感を保ったまま物語を転がしていく。このような側面は、短編というフォーマットを通すことによって、さらに際立つのではないか。華やかな役者たちに注目をしつつ、制作側の技巧にも目を向けると、ドラマの楽しみ方も広がるはずだ。


 最後に、三浦友和についても書いておこう。三浦友和は、全3作品に刑事として出演するという、特殊な立ち位置から『女性作家ミステリーズ 美しき三つの嘘』に絡んでいる。3作品はそれぞれ独立した物語であり、個別に楽しめる作りにもなっているが、三浦友和演じる刑事は、その3作品を接続する役割を担っている。いわば、3作品が一連のドラマに見える仕掛けがあるというわけだ。この仕掛けが、どのように作られているのかも、『女性作家ミステリーズ 美しき三つの嘘』を楽しむうえでの大きなポイントとなるだろう。(文=近藤真弥)