2016年01月04日 10:52 弁護士ドットコム
勤務中に「おやつ」を同僚たちと分け合って食べる――。東京在住の男性Sさんがつとめるベンチャー企業は、そんなアットホームな雰囲気の会社だ。しかし、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。
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ある日、Sさんの後輩であるMさんが職場近くのスーパーから、消費期限が迫るシュークリーム(6個入り)を買ってきた。購入した理由は、値引きで安くなっていたからだが、Sさんたちは気にせず、同僚4人で分けて食べた。
ところが、その直後からシュークリームを食べた全員が下痢や吐き気、発熱に見舞われて、うち1人が病院で「胃腸炎」と診断された。その週は、4人がダウンしたために、仕事が滞ることになってしまった。
Sさんは「シュークリームが原因だ」と憤っている。今回のような場合、もし法的な責任があるとすれば、シュークリームを販売した店だろうか。それとも、シュークリームを買ってきたMさんの責任になるのだろうか。石川直基弁護士に聞いた。
「食中毒の主な原因は、細菌とウイルスです。細菌とウイルスは、食品中にあるだけでなく、人の身体にも付着していることがあります。
今回のケースでは、シュークリーム内にあった細菌やウイルスが食中毒の原因であったことを前提に考えます」
石川弁護士はこう切り出した。まず、店の責任はどうか。
「食中毒の原因がシュークリームにあったとしても、そのことで直ちに、販売した店の責任になるとは限りません。
そもそも細菌は、時間の経過や気温、湿度などで増殖します。なので、購入した時点で、すでに食中毒を起こす程度に細菌が増殖していたならば、店の責任となります。
しかし、容器包装に記載された保存方法や消費期限を守らなかったために細菌が増殖していた場合、店の責任とはなりません。
一方、ウイルスは食品中で増殖せず、体内で増殖しますので、食品にウイルスが付着していること自体が問題です。したがって、消費者が保存方法や消費期限を守っているか否かにかかわらず、店の責任となります」
つまり状況によって、店の責任になるかどうかが変わるということだ。では、Mさんについてはどうだろうか。
「安売りをしているからといって、食中毒になるかどうかはわかりません。したがって、食中毒になるような食品を買ってきただけで、Mさんに過失があるとはいえません。
ただ、保存方法や消費期限を守らずに細菌を増殖させて、同僚に食べさせたような場合であれば、過失があるとして不法行為責任が認められる可能性があります」
石川弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
石川 直基(いしかわ・なおき)弁護士
平成10年弁護士登録。民事・商事・家事・行政・刑事各分野を取り扱うほか、雪印乳業食中毒事件、茶のしずく石鹸事件などの消費者製品被害弁護団に参加。日弁連消費者問題対策委員会委員として食品安全・表示問題、景品表示法等の表示規制の研究、立法提言に取り組んでいる。
事務所名:米田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yoneda-law.com/