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INKT率いる田中聖(KOKI)、バンド活動への決意を語る「ポジティブな意味で、一寸先は闇!」

2016年01月04日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

田中聖(KOKI)(撮影=竹内洋平)

 田中聖(KOKI)がボーカルをつとめるロックバンド、INKT。2014年11月に1stアルバム「INKT」でデビューした彼らは、2015年、ライブに重点を置いた活動を展開し、『AOMORI ROCK FESTIVAL'15~夏の魔物~』『肉ロックフェス2015』『SuGフェス2015』などのフェスに出演。また『AnimeFriends2015』(ブラジル)、『SKECHERS SUNDOWN FESTIVAL2015』(シンガポール)といった海外のイベントにも参加するなど、活動の幅を確実に広げている。ヘビィロックを軸にした独特のミクスチャーサウンド、KOKIのエモーショナルなボーカルを共存させた音楽性も、徐々に浸透してきていると言っていいだろう。今回リアルサウンドでは、KOKIへの単独インタビューに成功。INKTの成り立ち、これまでの活動の手応え、将来的なビジョンから彼自身の音楽観まで、たっぷり語ってもらった。(森朋之)


(関連:INKT・田中聖の新たな挑戦 元ジャニーズの“良き兄貴分”は再び輝けるか?) 


■「生音でやってると、グルーヴがハマったときの気持ち良さがすごくある」


ーー今回はINKTについてじっくり聞きたいと思っています。まずは12月から1月にかけて行われたライブハウスツアー(『Re:birth of INKT TOUR 2015-2016』)の手応えから教えてもらえますか?


KOKI:僕らはバンドとしては特殊で、まずワンマン(ライブ)からスタートしたんですね。その後フェスや対バンを経験させていただいて、課外授業じゃないですけど、そのなかでいろいろなことを少しずつ吸収して。今回のツアーは、そこで得たものを整えている感じだったんです。ようやく“まっさら”な状態が出来そうなのかなっていうか…。やっぱり、対バン、フェスの経験が大きかったですね。アウェイだなと感じることもありますけど、ワンマンとは違う場所でライブをやるのがすごく楽しくて。対バン相手のステージを見て「ここがカッケーな」って気付くことも多いし、もっともっとやりたいって思います。


ーーINKTとしてライブが始まった頃は、緊張が勝ってしまったこともあったとか。


KOKI:いまも緊張はメッチャしてるんですけどね。ただ、ステージに出ちゃったらーーもちろん、きちんとやらなくちゃいけないこともあるんですけどーーそれよりも楽しんでライブをやりたいし、それがいちばんお客さんに伝わる部分なのかなって気がするんですよね。そういう意味では、まず「音楽、こんなに楽しいぜ」って自分自身が感じることがいちばんなのかなと。メンバーと一緒に「ここのイントロ、こう変えてみない?」とか「曲間はこういうふうにしてみよう」って模索する作業も楽しいんですよね。もちろん苦しいときとか、上手くいかなくてモヤッとすることもあるんですけど、基本はずっと楽しい。


ーーメンバーとの関係性もさらに密になった?


KOKI:最初は“友達”みたいな雰囲気が強かったんですよね。もちろんプレイヤーとして尊敬はしてるけど、ステージに一緒に立ったときにどう接していいかわからないこともあったし。いまはアーティストとして同じ方向を見ている実感も出来ていて、やっといい関係性が築けてきたのかなって思いますね。


ーー特にギターのKeiさんとは友達同士からのスタートだったんですよね。


KOKI:最初はただの友達でしたね。飲みに行ったり、ダーツやったりするだけの関係というか、音楽のことも「こんなギター買ったんだけどさ」という程度だったんですよ。その後「バンドやりたいね」という話を少しずつするようになって、「じゃあ、あいつらに声をかけてみるよ」って、mACKAz(ベース)、SASSY(ドラム)、kissy(キーボード)を連れてきてくれて。


ーーKOKIさんとしても「音楽をやるなら、バンド」というのはハッキリしてたんですか?


KOKI:そうですね。もともとバンドの音は好きで、お客さんとしていろんなライブに行ってたんですよ。フロアでぜんぜん知らない人をリフトしたり、モッシュピットに入ったりしてたし。まあ、その頃はただ暴れに行ってただけですけどね(笑)。フロアで汗かいて、ライブ終わった後は「さっきはリフト、ありがとうございました!」「いやいや」みたいな感じで知らない人と仲良くなって帰ったり。楽しんでましたね、普通に。


ーー以前はヒップホップが好きという印象もありましたけどね。


KOKI:そういうイメージが強かったみたいですね。実際、音楽が好きだなって感じたのは、ヒップホップからだったんです。その後、ロックを聴くようになって「ヒップホップとロックって、通じる部分があるな」って気付いて。いまはボサノバやジャズやブルースも聴きますけど、やっぱり生音がいいなというのがあるんですよね。だから、必然的にバンドをやろうという意識になったんだと思います。


ーーソロではなく、あくまでもバンドとして活動したいと。


KOKI:はい。いまのメンバーはプレイヤーとして尊敬できるヤツらだし、生音でやってると、グルーヴがハマったときの気持ち良さがすごくあるんですよね。メンバーとひとつになる感覚だったり、お客さんを含めて、会場がいっこになる瞬間だったり。それはひとりでは感じられないものだし、他に替えが効かない気持ち良さがあるので。


ーーライブにおいては、すごい一体感が生まれるときもあれば、そうじゃないときもありますよね?


KOKI:そうですね。歯車がなかなか噛み合わなくて、ステージの上で戦ってることもあるし。本当は安定しなくちゃいけないんですけど、戦ってる感じも楽しいんです。そういう経験も、成長につながるだろうなって。もちろん、ライブが終わったあとはすぐに反省会というか「あの部分、ちょっとフワッとしてたよね」みたいな確認をしてますけどね。今回のツアーもそうですけど、鉄を熱いうちに打つことで、強い刀が出来上がると思ってるので。


ーーその効果は確実に出てきてる?


KOKI:そうだと思います。まあ、難しいところもありますけどね。やっぱり人間なので、体調やテンション、睡眠時間によっても出てくると音が違うし。だからこそ、全部のバランスがひとつになったときが凄いんですけどね。


■「初めての状況ばかり、それもいいと思う」


ーーINKTの音楽性についても改めて聞きたいのですが、結成当初の音楽的なビジョンはどんな感じだったんですか?


KOKI:そこまで明確ではなかったんですけど、いちばん最初にこのメンバーで出した音だったり、個々のメンバーのキャラクターを含めて、「こういう感じだよね」というイメージは何となくあって。あと、いろんなジャンルからメンバーが集まってきてるのも大きいと思うんです。ひとりひとりルーツが違っていて、パンクが好きってヤツもいれば、メロコアが好きってヤツもいて。俺もヒップホップから始まってるし、kissyはクラシック、ジャズから来てますからね。だからINKTの音楽は、本当の意味でのミクスチャーなのかなって思いますね。全員が曲を作れるっていうのも、自分たちの武器だと思うし。


ーーメンバー全員でINKTの音楽を作り上げている感覚なんですね。


KOKI:うん、まさにそういう感じですね。それぞれに積み上げてきたものがあって、それをINKTとしてどう表現するかっていう。ソロプロジェクトではないので、みんなで積み上げて、叩上げていくしかないのかなって…。


ーーバンドのボーカリストとしてステージに立つ意識は、グループのときとは違いますよね?


KOKI:違いますね。ワンステージ、全部ひとりで歌い続けることもなかったですし。もちろん難しいところだったり、考えなくちゃいけないことも多いんだけど、逆に「すごく単純なことだな」と感じる部分もあるんですよ。要は自分の全部をさらけ出して、全力でぶつかればいいんだっていう。こっちが全力で向かっていけば、お客さんも全力で返してくれるってことも、この1年のライブで感じられたんですよね。あと、ライブを見てくれた友達やスタッフが「今日、良かったね」って言ってくれるときって、自分も楽しかったときだったりするんですよ。さっきも言いましたけど、やるべきことをやったうえで、楽しむのがいちばん大事なのかなって。


ーーINKTでのライブ活動を通して、ボーカリストとしての新たな発見もありましたか?


KOKI:うん、それはたくさんあると思います。ボーカルの楽しさをメンバーに引き出してもらってるし、音楽の奥深さ、幅広さを教えてもらってる気もするので。同じ曲を100回やっても全部違う歌になるし、「いい歌が歌えた」と思っても、常にそれより上があるっていう。メンバーは「歌って、ラップしてシャウトも出来るっていうのはKOKIの武器だよね」って言ってくれるんですけど、自分としては「メンバーから吸収したものをステージでどんなふうにぶつけられるか?」というところにやりがいを感じてますね。


ーー本格的な活動スタートから1年が過ぎて、バンドとしてもボーカリストとしても、スタンスが明確になってきたのかも。


KOKI:今年はずっと手探りが多かったし、今回のツアーを通して、土台が出来上がればいいなっていう感じだったんですけどね。メンバーそれぞれの音楽観、ステージに対する感覚も違うので、それをひとつにまとめていくのはけっこう大変で。まず、1回もステージに立ってないときにアルバムを作り始めましたからね。とにかく「これがINKTです」と言える曲が欲しかったんですよ。そういう曲がないと、音楽勝負になったときの自分たちの軸が見えないなって。結果的にはそれが「Trigger」だったんですけど、そこにたどり着くまでに時間がかかったかもしれないですね。


ーーまずはバンドの指針になる曲を提示する必要があった、と。


KOKI:バンドといっても、いろんなジャンルがあるじゃないですか。ポストロックもあるし、パンクもあるし、ビジュアル系もあるし、アイドルがバンドをやって、それがすげえ本格的だったりもするので。そんななかで、自分たちがブレずに打ち出せるものは何だろう?という模索はありました。「Trigger」はいま聴いても、すごくバランスがいいと思うんですよね。ガムシャラにすべてを注ぎ込もうとした曲だったし、それが良かったんだろうなって。


ーー「バンドを象徴する楽曲を作る」って、すごく高いハードルですよね。そういうシビアな制作も初めてだったのでは?


KOKI:初めての状況ばかりですね。それもいいなって思うんですよ。30歳になって、まったく初めてのことに挑戦するっていうのも、なかなかないだろうなって。みんなが「結婚して、安定した仕事をして」ということを考える時期に新しいことを始められるっていうのは、すごい幸せだなって感じてますね。僕らはある程度いい年齢になってますけど、INKTとしては初めてやることばかりですからね。


■「いまはとにかく、音楽という共通言語で会話が出来るのが楽しい」


ーーKOKIさんは30歳になりましたし、SASSYさん、mACKAzさんもメジャーシーンでバンド活動を経験していることを考えると、このタイミングで新しいバンドを結成すること自体、大きな決断だったのかも。


KOKI:うん、たぶん勇気も必要だったと思います。そういう意味では、フロントマンとしての責任も感じてます。「俺のせいで失敗した」と自分自身も思いたくないし、メンバーに対しても必死で食らいついていかないとなって。そこで生まれる相乗効果もあると思うんですよね。いまのツアーも、マネージャーさん、物販のスタッフさん、メンバーで一緒のバスに乗って移動してるんですよ。「機材もグッズも全部乗せてみんなで九州まで行く」みたいなこともあるんですけど、それもぜんぶ楽しいんですよね。


ーーまったく苦にはならない?


KOKI:青春してるなって思います(笑)。ライブが終わって、みんなで機材をバラして車に詰め込んで。物販コーナーに立ったりもしてるんですけど、要は「バンドマンとして、(現状に対して)どうぶつかっていけるか?」というところだと思うんですよね。いまの音楽シーンはライブ勝負じゃないですか。もちろん盤(CD)も出したいし、それをたくさんの人に聴いてもらえたら嬉しいですけど、大事なのはライブでどれだけカッコいいものが見せられるか、どれだけお客さんに刺さるかというところだと思うので。やり方はいろいろあると思うけど、やっぱりいちばん見せたいのはライブなんですよね。


ーーライブハウスやイベントで勝負していく以外に道はない、と。


KOKI:あとは人と人とのつながりですよね。バンドっていう新しい道を進み始めてから出会った音楽仲間がたくさんいて、対バンをやらせてもらったりしているので。SuGの武瑠くんもそうですね。ライブを見に来てくれて、打ち上げで話をして、「何か一緒にやりたいね」っていう話になって。それが11月に実現したんですけど(11月13日、SuGが主催するライブイベント『SuGフェス 2015』に出演)、そのときもすごく良かったんですよね。人という部分でつながって、次に音楽家の部分でつながれて。そういうことが刺激になるんですよ、やっぱり。武瑠くんの活動を見ていると「あいつ、言ってた通りのことをやってるな」とか「次はこんなおもしろいことをやるのか。負けてられないな」って思うし。


ーー武瑠さんは「SuG=ビジュアル系」というバンドのイメージを脱却しようといろいろなトライを行っていて、それを達成しつつあると思うんですよね。KOKIさんも似たところがあると思うのですが、自分自身の知名度の高さやパブリックイメージに対してはどんなふうに考えていますか? メリット、デメリットの両方があると思いますが…。


KOKI:(INKTに対して)思うことは人それぞれでしょうけど、自分としてはメリット、デメリットみたいな考え方はしてないですね。新しく出来た仲間のなかにも、最初は「どう接していいかわからない」っていう人がいたり、「もちろんバンドマンとして付き合うよ」って言ってくれる人もいて。自分としては「バンドマン1年生として、当然やるべきことをやる」というだけですね。いままで自分が積み上げてきたものを武器にして、それをどうぶつけられるかを考えて…。


ーーかなり強力な武器を持った1年生ですよね。


KOKI:そうですかね?(笑) まあ、いままで恵まれた環境のなかでやってきた部分もありますからね。いまはとにかく、音楽という共通言語で会話が出来るっていうのが楽しいんですよ。最近もSKY-HIのライブをZepp Tokyoで見たり、WHITE ASHの代官山UNITのライブに行かせてもらったりしてるんですけど、すごく刺激になるんですよね。昔は人のライブを見るのが好きじゃなかったんです。負けず嫌い過ぎて、ライブが盛り上がってると途中で帰っちゃったり(笑)。いまは素直に「すげえな」って思うし、ホントに勉強になるなって感じています。それはどのジャンルでも同じですね。映画(『サンブンノイチ』)でご一緒させてもらった窪塚洋介さんの卍LINEもそうだし、自分がいいなと思った音楽やアーティストは、何を見ても何を聴いても勉強になるので。


ーーそういう多方面のつながりも、KOKIさんの武器になるでしょうね。


KOKI:ありがたいですよ、ホントに。いろんな人たちの音楽観を聞けるのも、すごくデカいんです。ロックのなかでも考え方はいろいろだし、ジャンルが違えば、また違う感覚があって。かと思えば「ここは似てるな」って共通点が見つかることもあるっていう。


ーーなるほど。この1年の活動を経て、INKTとしてはどんな音楽を打ち出したいと考えてるんですか?


KOKI:自分たちが掲げているのは、いま風に言うと「どれだけエモいか」というところだと思うんですよね。たとえば2日連続ライブがあったとして、「明日、歌えなくなったとしても、とにかく今日は全力でやろう」とか。バンドに懸けてる感じだったり、攻めてる感じは忘れたくないなって思いますね。僕はボカロも聴く人なんですけど、ああいう音楽のカッコよさもあるじゃないですか。そんななか、生身の人、生身の歌で勝負するにはやっぱりエモさが大事なのかなと。


ーーそういう意識でライブを続けることで、KOKIさんのなかでも変化が生まれてきてるのでは?


KOKI:ふだんから素直にいたいなって思うようになりましたね。それが音楽やパフォーマンスにも出ると思うので。歌詞の作り方もそうですよね。自分が思っていなことを歌詞にしても、聴いてる人には刺さらないとだろうし。たとえばMCの「ありがとう」というひと言も、本気で感謝の気持ちを持っていないと伝わらないと思うんですよ。


ーーロックバンドのボーカリストは、生き方、考え方のすべてが表現につながるところがありますからね。


KOKI:そうですよね。いままで出会ったバンドのボーカリストも、素直な人が多いんですよ。いい意味で中2感があるというか、若い頃からブレない気持ちを持っていて。楽器隊の人にすると「ボーカリストってめんどくさい」って思うみたいですけど(笑)、そういう部分が見えるのも大事なのかなって。


ーーKOKIさんはエモさを持ちつつ、バンド全体を俯瞰しているような印象もあります。


KOKI:やっぱり、 INKTを大きくしたいですからね。そのためにはいろんなことを考えなくちゃいけないし、熱い気持ちを持ったまま、もう一段大人になっていかないとなって。たとえばライブ中も「ここは自分が前に出たほうがいいな」というタイミングもあるし、「ここは自分じゃなくて、ギターが出たほうがカッコいい」ということもあるんですよ
。誰かひとりだけがカッコ良く見えても、バンドとしては意味がないなって思うので。


ーー1月4日には渋谷CLUB QUATTROのワンマンライブも行われますが、2016年の活動はどうなりそうですか?


KOKI:フットワーク軽く、いろんなことをやりたいですね。ワンマンも増やしたいし、アウェイの場所にもどんどん挑戦して攻めの年の出来たらなって。観たことがない景色がまだまだあるし、探検家の気持ちで進んでいきたいです(笑)。もちろん、音源も作りたいですね。既に曲は作り始めてるんですけど、ライブで力を付けて、それを曲に落とし込んでいくのがいいのかなと。今回のツアーで初めてアコースティック。コーナーをやってるんですけど、意外にハマりがいいんですよ。そこから「音源にもそういうテイストを入れてもいいね」っていう話になったり。


ーー音楽の幅も広がっていきそうですね。


KOKI:来年の今頃、どんな感覚でライブをやったり曲を作ったりしてるのか、自分たちも楽しみですね。明日も見えない状態なんですけど、とにかく楽しいので。ポジティブな意味で、一寸先は闇です(笑)。