トップへ

大学1年から「自分に合った仕事」を探す意味はあるのか? リクルートキャリア「キャリフル」の担当者に聞く

2016年01月02日 12:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

写真

就活期間の短縮をねらった「後ろ倒し」が事実上失敗に終わった、2016年卒の就活戦線。17年卒は2か月の微調整が決まっているが、解禁日を守らない企業が続出する中で効果は疑問視されている。「選考自由化が始まった」と見る向きもある。

むしろ今後は学生にとって、いい意味での「長期化」へ頭を切り替える必要があるだろう。大学3年生でバタバタと準備するのではなく、1年生のうちから卒業後を意識した社会学習や体験を積んでおくということだ。

そんな低学年向けに社会体験の場を提供するサービスを、リクルートキャリアが提供している。2015年6月から「キャリフル」というウェブサイトを運営しているというが、どのようなものなのか。同社新サービス開発部の原田芳江さんに話を聞いた。

「就業観」がないまま就活を始めた人は、職場選びの納得感が低い

リクルートキャリアといえば、就活サイト最大手の「リクナビ」の運営でも知られる。新たに低学年向けサービスを始めるということは、優秀な学生を早期に囲い込み、大手企業の便宜を図るだけではないか。原田さんはこの疑問を否定し、こう説明した。

「当社としてはあくまでも、学生に自分の将来のキャリアについて早くから考えてもらうことをねらいとしています。企業との接点を持ってもらう場面もありますが、企業から学生へは実名を特定してアプローチできないようになっています。企業の採用活動のために、当社が学生の個人情報を提供することもありません」

同社には、多くの人の「働く喜び」の輪が新たな活力を生み出す社会を創りたい、というビジョンがある。その実現には、学生が「自分のありたい姿」と「仕事を通して実現したいこと」に気づき、納得感をもって仕事を選べることが重要と考えているという。

しかし現状では、就活開始時に「自分にとって仕事とは何か」「何のために働くのか」「どんな仕事をしたいのか」といった就業観を持った学生は多いとはいえない。同社が2015年3月に実施したアンケートによると、採用広報開始時に「自分の特徴・できること・伸ばしたいことをもとにした、将来やりたいこと、または仕事が明確になっている」と答えた人は22.1%にすぎない。熟考の時間や機会が十分に確保できてないようだ。

この就活開始時の就業観の有無によって、「生き生きと働ける場と出会えた」と感じている人の割合にも差が出ている。就業観あり(59.4%)と答えた人の方が、なし(19.8%)という人の約3倍も、仕事選びの納得感が高いという結果も出ている。

目玉は現役社員・職員も参加する「体験型イベント」

大学時代をモラトリアムとして漠然と時間を過ごすのも悪くないが、自分は将来どのような形で社会に関わりたいのかを早めにイメージすることで、学業への力の入れ方が変わってくるかもしれない。研究が本格化する前であれば、負担は大きくないはずだ。

現在の「キャリフル」は、自分に合った仕事をチェックできる「診断サービス」と、イベントやコンテスト、プロによるトレーニングといった場に参加できる「体験サービス」の2本立てで構成されている。

なかでも目玉は、1dayの体験型イベントに無料で参加できる「キャリフルCAMP!」だ。8月からの3か月で、野村総合研究所やA.T.カーニー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、JR東海やワコール、電通といった大手企業のほか、経済産業省や環境省、NPOのTeach For Japanといった官庁、団体がイベントを開催した。

イベントには現役社員・職員がメンターとして参加し、学生に実際のビジネスを想定した課題を考えさせたりアドバイスをしたりする。12月にはファーストリテイリングやデンソー、アサヒビールやYKKグループ、その後もアスクルやトヨタ自動車、三菱東京UFJ銀行といった人気企業が開催を予定している。

しかし学生に「仕事を通して実現したいこと」を考えさせる場で、有名企業との接点を持たせることに弊害はないのか。「大手企業への入社」が目的化するような研修であれば、携わりたい仕事や働く喜びについて自分の頭で考える機会を奪ってしまう。

この懸念について原田さんは、「イベントの仕事体験プログラムを工夫することで対応している」と説明。PBL(Project-Based Learning)という課題解決型の手法を使い、企業や仕事の説明にとどまらず、参加する学生本人が深く考え、気づきを得るものになっているそうだ。

「架空の缶コーヒーメーカーの成長戦略」を提案するお題も

9月に開催された野村総合研究所の場合、約100人の大学1・2年生が参加。コンサルティング事業本部で働く社員が語る「世の中の企業がコンサルティングファームを利用する理由」や「その仕事に携わる社員の想い」などに耳を傾けた。

さらに仕事体験として「架空の缶コーヒーメーカーの成長戦略を考え、提案する」というお題に取り組む。実際の課題解決を体験すれば、自分がその仕事を楽しいと思えるか、適性があるかどうかが分かる。

キャリフルCAMP!では、このような「社会を知る」パートに加え「自分を知る」パートも用意されている。会社や仕事に触れる体験を踏まえて、自分はどのような点にやりがいを感じたかを考え、社会人メンターとの対話を行っていく。

「このプログラムによって、その仕事が自分の興味や適性に合っているかどうかを確認できます。このことが『自分がありたい姿』や『仕事を通して実現したいこと』を考えるきっかけになるのではないでしょうか」

参加者へのアンケートでは、ほぼすべての学生が「満足」と答え、「大変満足」と答えた人が平均して約85%を占めているという。大学の講義よりも面白いと感じる学生も少なくないのではないか。

このほか「キャリフル」の体験型サービスとして、自分の腕試しができる「フェルミ推定コンテスト」や「学生プログラミングマラソン CODE RUNNER」「データサイエンティスト日本一決定戦 DATA LEAGUE」といったコンテスト系のサービスがある。また、第一線の社会人からスキルを学べるトレーニング系のサービスとして、データ分析スキルを学べる基礎講座や実践講座も開催されている。

「ウェブ診断」で自分に合った仕事を提案してくれる

ウェブサイトの「キャリアチェック」では、活躍しているビジネスパーソン2万人のデータから、仕事に求めるやりがいや条件などに関する自分の志向を診断できる。140職種から自分のやりがいを満たす可能性の高い職種も提案してくれる。

キャリフルは今後の展開として、学生に「業種」や「職種」に関する理解がより深まるプログラムを増やすとともに、都市圏以外の地方エリアの学生にも体験機会を提供できるようにしていきたいそうだ。

これまでの就活生は、「できるだけ大手を目指す」という漠然とした考えで就活を始め、就業観を十分に醸成してこなかったのが現実だ。企業側も余計な価値観を持たずに入社してもらった方が、会社の色に染めるのに都合がいいと考えていたところもある。

しかし就業観を持たない学生が入社してくることの弊害を、企業側も感じている。学生も入社後に耐え難いミスマッチがあることが分かったり、不本意な状態で会社に従わざるを得なかったり場合もあっただろう。

学生のうちに就業観を深め、大学に通いながら必要なスキルを高めることは、就職後の仕事のミスマッチを回避できる可能性を高める。早い時期から「働くこと」を考えるためのサービスは、今後増えるのかもしれない。

あわせてよみたい:仕事を辞めずに、成長企業の経営に「サンカク」する方法