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MURO×渡辺宙明が語る、ヒップホップと特撮・アニメ音楽の共通点「どの作品も実験的」

2016年01月01日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

左からMURO、渡辺宙明(撮影=竹内洋平)

 MUROが、『Super Animated Breaks & SFX~30 Years and still counting~』を2015年11月25日にリリースした。本作は、MUROの音楽活動30周年記念として制作されたアニメ・特撮音楽のMIX CDだ。MURO自らがセレクトした70~80年代のアニメ・特撮ブレイクビーツ全38曲、なかにはレコードで入手することができない貴重な音源も収録されている。今回リアルサウンドでは、MUROの活動30周年とリリースを記念して特別対談を企画。これまで多くの特撮・アニメ音楽を手がけてきた音楽家・渡辺宙明氏を招き、本作収録曲を中心に、当時のエピソードや特撮・アニメ音楽の魅力について語っていただいた。(編集部)


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■「道具を本来とは違う方法で使うという発想は、ヒップホップに通じる」(MURO)


MURO:僕は『バトルフィーバーJ』が放送されていたときに「バトルフィーバーJごっこ」をして遊んでいたので、リアルタイムで渡辺先生の音楽に出会っていました。多分、その頃はあまり音楽的な気づきはなかったと思いますけど、音楽にノリながら遊んでいたということは覚えていますね。それから、レコードを買い始めたのも僕はアニメがきっかけで。たしか、ソノシートとかで『仮面ライダー』の絵本になっているようなものが多かったですね。小さなポータブルプレーヤーも買ってもらって聴いていました。実家がガソリンスタンドだったので、庭をチョロチョロしていると危ないということで、買い与えられたんです。それが僕とレコードとの出会いで、今回のMIXは本当に念願叶ったところです。


渡辺:初めて『人造人間キカイダー』の音楽を頼まれたとき、レコード屋に行って「ヒーローものの先輩の仲間たちは、どんな音でやっているんだろう」といろいろ作品を聴いてみたら、全然気に入るものがなくて。僕は、現代でも通用するような分かりやすくて、しかも子供の音楽だけど、子供っぽくない音楽、その子がのちに青年になり大人になっても愛されるような音楽にしたい、ということを最初から心がけていたんです。こうして今、MUROさんみたいな方に紹介してもらえるのだから、振り返ってみると正しい判断だったかな。いやー、いい曲を選んでいただいた。


MURO:本当ですか、嬉しいです! 当時はどのような音楽を聴かれていたんですか?


渡辺:当時、息子(作曲家の渡辺俊幸氏)はドラムを練習していたので、その影響で、ブラスロックのシカゴとか、ブラッド・スウェット&ティアーズとか、あのへんも聴いていましたね。ちょっと音を聴いて、これいいな、と思ったら頭に叩き込むようにしていました。それと私の使う音階の、ひとつの特徴として「ラドレミソ」のように「シ」と「ファ」を抜いた音階がありまして。私はそれを26抜き短音階と呼んでいます。それはアフリカ系アメリカ人の音楽の基礎になった音階で、ブルースの元になったといわれています。それを意識していました。なぜかというと、その前は民族音楽に凝っていたんですよ。小泉文夫という民族音楽の学者がいまして、その人はインドに留学して、後に東京芸術大学の教授にもなった人ですが、昔、インドの戦争の話を題材にした映画を撮影するときに、インド楽器の音が必要で彼に頼んだことがありました。それから仲が良くなって、日本の音階はこういうふうにできているんだということを教わり、いつか作曲に取り入れたいと考えていました。黒人の「ラドレソラ」と日本の民謡の音階が同じということに気が付いて。それで、これは日本人にもうけるだろうなと思って使い始めたのです。日本流に言うと民謡風ですけど、それに現代風なリズムをつけるとすごくカッコよくなっちゃうんです。『宇宙刑事ギャバン』(1982)の主題歌なんかは26抜き短音階を使用しました。この音階は野性味もあり、しかもカッコいいので、特撮ヒーローものにはぴったりですね。


--ブラックミュージックと特撮・アニメ音楽がどのようにつながっていたのかという部分は、MUROさんも非常に興味深いところだと思います。MUROさんがお考えになる、宙明さんの音楽の魅力とは。


MURO:どの作品も実験的なところがあるのが、すごくヒップホップ的だな、と。たとえば『スパイダーマン』(1978)のライナーノーツには使用した楽器について書かれていますが、そこには「五寸釘を重ねて吊って、風鈴の仕組みを利用して音を作ったもの」と紹介されているものがあって。


渡辺:これは打楽器奏者の山口恭範さんという人のアイデアですね。他にも、ヴァイブ(ヴィブラフォン)を弓でこするとか、ティンパニの上に丸いボールを置いて叩くとこんな音が出るとか。DJは、アレでしょ? レコードをこすって音を出しますよね。


MURO:そうです。道具を本来とは違う方法で使うという発想は、ヒップホップなどに通じるものがありますね。


渡辺:そういう意味で僕がいちばん刺激を受けたのは、トランペット奏者でアレンジもやるジェリー・ヘイという人かな。角松敏生のアルバムで彼の名を知りました。素晴らしいブラスアレンジに惹きつけられました。他の日本のシンガーソングライターでもブラスのアレンジを彼がやったのはかなりの数があるようです。「こんなすごい人がいるんだ」と思って買ってみましたけどね。ユーミンとか小田和正のLPにも入っていますね。リズムのメリハリが素晴らしい。


MURO:たしかに渡辺先生の楽曲はメリハリがすごいですよね。80年代のレコードは音も良くて、今の高性能なシステムで聞くと本当に驚きます。


渡辺:僕がリズムにこだわりを持ったのは、ドラムも上手かった息子の影響もあるでしょうね。自分自身もウキウキしてきて、頭で作曲するだけでも、そういうフレーズを考えるだけでも楽しいという感じで。リズムセクションではないものをリズム的に使うということもよくやっていました。例えば、トロンボーンがメロディー的なものを演奏したときに、トランペットで「パッパパ」とリズム的な動きをするというようなこともよくやりましたけどね。常に大人でも楽しめるということは意識していました。


■「結局は大人が聴くんだ、ということが初めから分かっていた」(渡辺)


ーー今回のアルバムに収録されている渡辺さんの楽曲について、一曲ずつ話し合っていただきます。まずはM5.「侵略のテーマ」について。これは『エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン』からの一曲です。


MURO:当時のレコードを見ると、曲ごとに解説がついているのがすごいですよね。「ティンパニーのロールのグリッサンドで始まり、それにウッド・ブロック、ビブラスラップなどの音がからまり、中段からティンパニーとマリンバがかみ合って、正邪の対決を物語ります」(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)って。子供が読んでも絶対に分からないですよね(笑)。


渡辺:レビューはライターの方が書くこともありますが、その時期はレコード会社のディレクターから僕に依頼されることもよくありました。一般のライターだったら別の観点から書いたでしょうが、作曲家として書く以上は、楽器の使用法から書きました。これも結局は大人が聴くんだ、ということが初めから分かっていたんですよ。


ーーM9.「嵐を呼ぶ選抜試合」とM28.「天下無敵のガキ大将」については。


渡辺:どちらも『おれは鉄平』(1977)の曲ですね。真剣勝負の物語だったので、ちょっと行き過ぎたかもしれないけれども、ロック的というか、ビートの利いた音楽がわりと多いです。


MURO:僕、これはレコードで持っていなかったので収録できることになった時は感動しました。この前、CDでリイシュー(再発盤)されて。MIX CDに収録されている音源は、リイシューCDを使わせていただきました。ドラムのソロの部分だったりとか、あまり音が重なっていないところを探す習慣がヒップホップにはありまして。それで聴くと、この曲はすごいいいドラムだったんですよね。レコードは、地方も含めて探し回りましたが見つからなくて。


--リイシューCDが初商品化とのことです。主題歌しか当時のLPはないみたいで。


MURO:やっぱり、蔵出しなんですね。「天下無敵のガキ大将」もグルーヴが気持ちよくて、ループしてずっと聴いていたい気分になります。


渡辺:この曲は思い切ってロック的に、そしてメロディーはちょっと戦闘的にする、という風に作りました。この漫画の表紙のイメージでは喜劇的な印象がありましたけど、真剣に戦う剣道のお話でもあるので、そのイメージに合わせてサウンドを作りました。剣道にロックを使うというのもどうかと思うけど、絵にぴったりすぎる音楽は印象に残らなくなってしまいます。私の場合は、少々絵から飛び出してもギリギリ合っていて、音楽だけを聴いても楽しいところにもっていきたい、という気持ちがあって。最近のアメリカ映画のように、絵には合っているけれども音楽の印象が残らないような、意図的に音楽を押し殺しながら入れていくというやり方もありますけど、僕はそういう方法はあまりとらないんですよ。アニメの場合、だいたい半年から1年くらいは溜め録りしますから、選曲者が何とかやるだろうと、面白そうな曲をいっぱい作っておくやり方をしていました。でも、それが良かったんでしょうね、この世界では。ぴったりと密着したような音楽だと、絵には合うし監督さんも満足するかもしれないけれども、何十年もたって、再発売され、演奏会でも取り上げられる、というようなことは少ないのではないでしょうか。


ーーM.19「正義の旗のもとに」は、冒頭でも話があった『組曲「バトルフィーバーJ」オリジナル・サウンドトラック』からの一曲です。レビューを引用してみましょう。


 5人のヒーローたちは若いエネルギーにあふれている。彼らはオートバイや乗馬が得意であり、事件のない時には、郊外に繰り出して青春を謳歌する。トライアングルとカウベルによるサンバ調のリズムに乗って、突然ピアノがグリッサンドで降下すると、弦楽器群のユニゾンによってきらめくようなフレーズが聞く者を圧倒する。続いてラテンソウルのリズムが躍動する中を、弦楽器群がうねりながら、青春の歌を華麗に歌い上げる。
 だが敵エゴスは、その間にも着々と地球侵略の計画を練っているのだ。リズムセクションが執拗に反復するフレーズをバックに、チェロ等の低音部が不気味に鳴る。
 悪の計画がクライマックスに達した時、いち早くそれをかぎ付けた5人が突然姿を現したのだ。ドラムが緊迫したビートで迫ると他のリズムセクションがそれにからむ。息詰まるような対決の中で、遂に金管群が炸裂する。バトルフィーバー隊対エゴス怪人の痛快極まりない大乱闘である。5人はそれぞれ得意の剣技を使って、チームワークよろしく群がる敵を手玉にとるのだ。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)


MURO:ヒップホップの楽曲では、正義の味方のテーマより、悪者のテーマのほうが圧倒的に多いと思うんですね。この曲にはそうした悪い要素も入っているのがいいですね。


渡辺:マーチ風な曲もあることはあるんですけど、どちらかと言うと少ないですね。『ウルトラマン』の主題歌なんかは出端からマーチ風でしょ。それを最初に聴いたときに、僕だったら違うやり方をするかな、と思ったんですね。正義の味方でも、ちょっとこう、影があるという感じで。それとね、この曲もですが、BGMの場合は僕が付けた題名と違うものになっている場合があるんです。


MURO:そうなんですね。


渡辺:レコードの場合は、ライターか、あるいはディレクターが付けてしまうことが多いんですね。M1、M2ではなく、題名を付けておかないと。だからもともと「正義の旗のもとに」というテーマで作った曲というわけではないんです。


MURO:解説を見ると、この時点で「ラテンソウル」というジャンルが出てきていますね……すごいなぁ(笑)。


渡辺:あと、この頃は……そうそう、『サタデー・ナイト・フィーバー』という映画がヒットして、そこからヒントを得て“フィーバー”と付いたんです。


MURO:その“フィーバー”だったんだ。ヤバいっすね(笑)。


渡辺:『バトルフィーバーJ』(1979)は、初めの企画で、踊りながら戦うという設定だったんですね。それでやってみると、やっぱり踊りながらでは戦えないので、音楽だけでも踊るような感じにしてくれ、と言われて。日本、フランス、アメリカ、あとはその他の国でということでしたが、フランスの代表的な音楽で戦う雰囲気というのは難しかったので、フラメンコ風なスパニッシュにしましたけど。だから、『バトルフィーバーJ』は今回のようなMIX CDに合う楽曲が多かったのかもしれません。面白い企画だったと思いますね。


MURO:貴重なお話ですね、すごく面白いです。


■「まだチャンスもあると思いますから、さらに印象的なものを作りたい」(渡辺)


ーーM20.「暁光のもとに」は、先述の『スパイダーマン』からです。


 巨大な敵に立ち向かうスパイダーマンの怒り。ジャングル的なバスタムの乱打に始まって、さまざまな打楽器の音が重なり、大きな怒りを盛りあげます。その打楽器に、さらにジャズフルートのアドリブが重なりますが、ここがききどころです。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)


MURO:聴きどころに関しても、しっかり解説をされています。


渡辺:BGMのレコードは、子供はあまり買わないと思ってましたから。その頃から20歳くらいのファンも私のうち(マンション)によく遊びにきてましたし。僕のファンの中には、好きなジャンルの幅の広い人たちがいて、クラシックから他のポップスまで幅広く知っているような人がいますね。だけど、最初の頃に遊びに来たような人たちは特撮アニメファンで。「ヤマト」のブームもあったから「ヤマト」のファンまでうちに遊びに来たりして(笑)。そういうこともありましたね。


ーーM21.「スパイダーマンのテーマ」もレビューが素晴らしいです。


 ティンパニーの重々しい音が、地球侵略の悪だくみを表現し、不気味な音がうねっていきます。ヒューンという音は、ティンパニーの上に仏壇で使う鉦(鉢型の鉦)をのせ、ティンパニーのピッチを上下させるという珍しい奏法を使っています。また、コンコンコンという音は、スモール・ゴングという東南アジアの打楽器で、いっそう不気味さを強調しています。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)


MURO:『スパイダーマン』のメインテーマですよね。これはリアルタイムでテレビで観ていたので、すごく覚えていますね。音も絵も。


渡辺:このときは録音が大変で、コロムビアの1スタと2スタを使って、大きな楽器は2スタのほうに置いといて、それ以外は1スタの広いところで演奏するという感じでした。狭いスタジオといってもある程度の広さはあるんですけど、ティンパニーを2台置いて、マリンバとヴァイブ(ヴィブラフォン)と、ドラなどを置いたら、それでいっぱいになっちゃうんです。このころからマルチ・トラック・レコーディングでしたが、ドラムは今みたいに別録りではなくて、同時に録っちゃったんですね。それで、ドラムだけは専用のブースがあって、そこに入ってもらって、小さい音の楽器は別室に入ってやってましたね。行ったり来たりして大変でしたよ(笑)。


ーーM27.「「アクション」よりギャバン活動開始」は、『宇宙刑事ギャバン』(1982)ですね。


MURO:「ギャバン」も本当にリアルタイムでしたね。よく観てました。この曲は、結構、勢いがあるといいますか。ちょっと元気でレアなグルーヴのレコードと一緒にかけても、全然引けをとらないようなグルーヴでしたね。ライナーノーツのタイトルも面白くて、「BGMの作曲はしんどい仕事なのだ」って書いてあります(笑)。


渡辺:たしかに書いてありますね(笑)。そりゃあね、しんどいですよ。1年分、全部録るでしょ。それで、しまいには、ある日もう辞めたいなと思って「もう歌だけにしてください」とテレビのプロデューサーに言ったことがあるんですけど。そうしたら「何言ってんの、あんたのBGMがいいから頼んでんだ」と言われて。


MURO:カッコいいですよね、やっぱり。ピアノもすごくいいです。


渡辺:この頃のリズムセクションはよかったですね。全部が譜面に書いてあるとは限らないんですよ。ピアノその他のキーボードなんかはだいたいコードネームだけ。ドラム、ベースも場合によっては、大体はこんな感じということを初めの小節にだけ書いておいて、それでやってくれと。ワンテストで本番でも、みんなやれる腕を持っていましたから。例えば、ラテンパーカッションなんかは、アタマの部分だけ書いておいて、あとは大体同じようにという感じで、ずーと棒を引いておいて。ただ、ブラスだけはきちっと書いてありましたけどね。


MURO:たしかに即興的なところがありますね。


渡辺:ベースのフレーズなんて、プレイヤーのほうがずっといろいろなフレーズを知っているわけで、アレンジャーが書いたものなんて、たかが知れてますから。最近は、面倒くさいけど全部打ち込みでやってくれというと、スコアを書くでしょ。そうすると平凡なフレーズしか書けないけれども、ナマのベースだったらコードネームを書いておいて、大体こんな感じで、と言えば、すごいカッコいいフレーズで演奏してくれるじゃないですか。そういう時に、やっぱりナマでやるのはいいな、と思いますね。


ーーM29.「戦士の掟」、M30.「追跡大作戦」は『バトルフィーバーJ』2連発です。


MURO:「追跡大作戦」は、カウベルの音が印象的です。レビューには「カウベルが他のリズムセクションと共にせわしなげなリズムを打ち始めると、ギターが追跡のテーマを奏し、やがてアドリブソロがスリリングに展開してこのシーンは一段と緊迫の度を加えて行く」(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)とあります。ギターも本当に素晴らしいです。


渡辺:これもアドリブですね。


--M31.「「ハードトレーニング」より新しい世界への旅立ち」、M32.「技と力、そして美しい別れより強敵鉄五郎」。これは『野球狂の詩』からですね。


MURO:僕がいちばん初めに海外に行ったのはニューヨークだったんですけれど、アニメーションのレコードとしてこれが壁にかかっていたんですよ。40ドルの値段が現地で付いていて、いま考えてみても結構な値段でした。僕、お恥ずかしいことに当時は聴いたことがなかったのですが、聴いてみたら曲もカッコ良くて。


渡辺:バラード風の曲も多いですけど。堀江美都子さんが歌った『野球狂の詩』の主題歌で、スキャットの曲があるじゃないですか。あの最初のクラビ(クラビネット)は松岡直哉さんのフレーズでした。


MURO:へえー……。この曲は「野球狂の詩」という作品に対して、どういうイメージで作っていたんですか。


渡辺:「ハードトレーニング」でしょ? なかなか難しいんですよ、訓練しているところの音楽を作るということは。でも、ロック的なビートが利いていれば絵に合う。普通のメロディだと「ハードトレーニング」という感じではないし、リズムだけでも難しい。すべて絵が無い状態からの音楽の溜め録りですから、だいたいを予想しながら書いていくわけです。


MURO:かなり自由な発想で作らなければ、なかなかこういうフレーズは出て来なそうです。


渡辺:しかも、野球のトレーニングとサッカーのトレーニングでは、また違うでしょうし、サッカーだったらこういう感じでなくて、もっとスピード感がある曲になるんじゃないかな。野球だと、ものすごいスピード感というのは無いから、これくらいがいいだろうと。そういう感覚は必要ですね。


ーーM34.『「ミステリー」より忍び』もまた、『ギャバン』ですね。


渡辺:これもよく使われていましたね、忍び込むようなシーンで。


MURO:結構、リズムが面白いものが多いですよね。どんなレコードを聴いても。こういう音って探せないです。昔のアニメーションでは、すごく独特な音楽が作られていて、そこが本当に魅力的だと思います。レコードとしても、溝も細かいですし、いわゆるライブラリーのレコードに近い感じで、世界中のレコードマニアが探しているのはよく理解できます。音のクオリティーもしっかりしているし。


渡辺:何か参考になる音楽は無いかと探すでしょ、でも、ほとんど無いんですよ。だから、ちょっとしたフレーズをつかんで、自分の中で発酵させていくという感じで作っていました。例えば海外でも、リズムセクションだけ聴いていて、いいなと思うのもわりとありますけど、メロディーに歌、言葉が入って成立しているから、メロディーをインストにしちゃうと、ちょっとつまらないものになってしまうんですよね。だから自分で独自にやるしかなかったんです。自分で言うのもなんだけど、ちょっとしたフレーズから展開できるということが、アレンジャーと作曲家の違いかな、と。ただ、外国の音楽で『スパイ大作戦』のテーマは別格でした。ラロ・シフリンの作曲ですけど、彼は天才ですね。あのような曲はかんたんには発想できないです。ああいう音楽が書けるようになるのが、理想ですわ。まだチャンスもあると思いますから、さらに印象的なものを作りたいな、と。


MURO:すばらしい! ぜひ新曲を作ってください。