2016年01月01日 09:41 弁護士ドットコム
正月に届いた年賀状を見て、新年を迎えたことを実感する人は多いだろう。ただ、マンションやアパートに住んでいると、同じ棟に暮らす「別の住人」あての年賀状が郵便受けに紛れ込んでくることがままある。
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約100戸のマンションに住む、東京都内のチヒロさん(30代)は、例年、別の世帯あての年賀状が間違って届くのを楽しみにしているそうだ。「お隣さんの勤務先がわかったり、見ず知らずの家族写真を見たり、悪いことをしている背徳感もあるんですが、正月恒例のことなので、今年も期待しています」という。
チヒロさんは「じっくり眺めたあと、あて先の部屋の郵便受けにちゃんと戻しています」というが、年賀状の誤配があったとき、どんな対応が望まれるのだろうか。また面倒くさがって、勝手に処分や保管してしまった場合、法的な責任を問われることはあるのだろうか。富永洋一弁護士に聞いた。
「郵便物の誤配があったときの対応について、日本郵便のウェブサイトをみると、『郵便物の表面に誤配達である旨記載した付せん等を貼っていただき、郵便差出箱(郵便ポスト)に投函していただくか、郵便物の誤配達があったことを最寄りの郵便局、又はお客様サービス相談センターにご連絡ください』と書かれています」
富永弁護士はこう説明する。
「このことは、郵便法42条1項で『誤配達郵便物の処理』として、『郵便物の誤配達を受けた者は、その郵便物にその旨を表示して郵便差出箱(郵便ポスト)に差し入れ、またはその旨を会社に通知しなければならない』と定められており、法律上も義務付けられています」
もし、そのように対応しなかった場合、法的な問題に発展するのだろうか?
「郵便法77条は、『郵便物を開く等の罪』として、『会社(郵便局)の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、き損し、隠匿し、放棄し、または受取人でない者に交付した者は、これを3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する』と規定しています。
しかし、この規定は、あくまでも郵便局の『取扱中に係る』ケースにのみ適用されます。誤配されてしまった場合はもはや『取扱中」ではないため、適用されません。
したがって、誤配された年賀状のようなハガキを誤配先でそのまま保管したり、破棄してしまった場合でも、郵便法77条の罪に問われることはありません」
思わず、ホッとする人がいるかもしれない。しかし、富永弁護士はもう1つの法律について指摘した。
「他方で、刑法263条は『信書隠匿罪』として、『他人の信書を隠匿した者は、6月以下の懲役もしくは禁錮または10万円以下の罰金もしくは科料に処する』と規定しています。
誤配された年賀状のようなハガキも、ここでいう『信書』となります。したがって、誤配先で保管してしまった場合は、『信書隠匿罪』が適用されて罪に問われる可能性があります。
そして、さらに破棄してしまった場合は、『器物損壊罪』(刑法261条・3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料の罪)として、罪に問われる可能性があります」
誤配されてきた年賀状のようなハガキの文面を読むことも、罪に問われるのだろうか。
「郵便法80条は 『信書の秘密を侵す罪』として、『会社(郵便局)の取扱中に係る信書の秘密を侵した者は、これを1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する』と規定しています。
しかし、この規定も郵便法77条と同様に、あくまでも郵便局の『取扱中に係る』ケースにのみ適用されますので、誤配されてしまった場合はもはや『取扱中』でなくなり、適用されません。
したがって、誤配されてきた年賀状のようなハガキの文面を読むことは、郵便法80条の『信書の秘密を侵す罪』は適用されません。
また、年賀状などのハガキを読んだとしても、封を開いたのでなければ、刑法133条の『信書開封罪』は適用されません。このように、誤配された年賀状のようなハガキの文面を読んだからといって、罪に問われることはなさそうです」
ハガキではなく、誤配された「封書」の年賀状を読んだ場合は、法的な責任を問われることがあるのか?
「この場合も、既に誤配されてしまっている以上、郵便局の『取扱中』とはいえませんので、郵便法77 条の『郵便物を開く等の罪』に問われることはありません。
しかし他方で、刑法133条は『信書開封罪』として、『正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、1年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する』と規定していますので、誤配された封書入りの年賀状の封を開けると、信書開封罪が適用されて、罪に問われる可能性があります」
もし誤って開封してしまった場合は、どうしたらいいのだろうか。
「日本郵便のウェブサイトには次のように書かれています。
『万一、他人さまあての郵便物が配達され開封してしまった場合には、お手数ですが、郵便物を補修の上、郵便物の表面に誤って開封したこと、氏名、住所を記載した付せん等を貼っていただき、郵便差出箱(郵便ポスト)に投函していただくか、郵便物の誤配達があったことを最寄りの配達局、又はお客様サービス相談センターにご連絡ください』
郵便法42条2項でも、『誤ってその郵便物を開いた者は、これを修補し、かつ、その旨ならびに氏名および住所または居所を郵便物に表示しなければならない』と定めていて、法律上も対応が義務付けられています」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
富永 洋一(とみなが・よういち)弁護士
東京大学法学部卒業。平成15年に弁護士登録。所属事務所は佐賀市にあり、弁護士2名で構成。交通事故、離婚問題、債務整理、相続、労働事件、消費者問題等を取り扱っている。
事務所名:ありあけ法律事務所
事務所URL:http://ariakelaw-saga.com/