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加藤シゲアキが『ピンクとグレー』で描いた“痛み”はどう映画化された? NEWSの作詞手がけるzoppが読み解く

2016年01月01日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2016「ピンクとグレー」製作委員会

 原作者はアイドルであり、小説家でもある加藤シゲアキ氏。そんな彼が2012年に上梓した小説デビュー作『ピンクとグレー』が映画化された。後に執筆された同じく渋谷と芸能界を舞台にした「閃光スクランブル」「Burn.-バーン-」とともに「渋谷サーガ」3部作として人気を博している。


参考:宮台真司の『アレノ』『起終点駅 ターミナル』評: 潜在的第三者についての敏感さが失われている


 アイドルの加藤氏とは、作詞家として13年前の付き合いになる。同時に彼が所属しているアイドルグループNEWSとも同じ月日をともにしている。彼らは様々な経験をしてきた。同作はそんなグループにいる彼だからこそ描ける物語だ。読書中、白木蓮吾や河田大貴の台詞に胸を痛めた。映画でも同じシーンで胸に痛みが走った。そして、この痛みこそが彼が作品を通して伝えたかったことだろう。


 なにを武器にしたら良いか迷子だった彼が「小説」という武器を得てグループに貢献している。その証拠に、彼の小説最新作『傘をもたない蟻たちは』は、来年1月にドラマ化され、主題歌はNEWSが担当する。彼自身は原作・出演・主題歌提供と一人三役をこなすわけだ。自分よりもメンバーを思うからこそ出来たことだと思う。そして、それを成し遂げた彼は、男から見てもかっこいい。現在、NEWSは4人で活動しており各自がストロングポイントを持ち、それをグループに還元している。今後の活躍に期待が膨らむ。個人的には同じ小説家としての一面を持っているので、彼の活躍はとても刺激になる。


 主演の中島裕翔氏を初めて目にしたのは『青春アミーゴ』のPVだった。あどけなかった彼がすっかり大人になり、過激なシーンに挑戦している姿は色んな意味で感慨深かった。ファンの方は衝撃を受けると思うが、彼の新たな一面が見られる、という点では他のジャニーズアイドルのファンからは羨ましがられるだろう。今作で彼を取り巻く役者は曲者揃いだ。その中でも一際目立っていたのは菅田将暉氏だ。彼の演技に引っ張られる形で、中島氏は急成長したに違いない。確実に役者としてのふり幅は大きくなった。今後、中島氏がどんな役を演じるのかが楽しみである。


 脚本は、監督である行定氏に加え、演劇界の若き俊英、岸田戯曲賞受賞の蓬莱竜太氏。原作を大胆にアレンジしたため、既読した方たちは混乱しないように気を付けてもらいたい。


 「幕開けから62分後、“世界が変わる仕掛け”で、もうひとつの物語が生まれる!」


 このキャッチコピーを目にしたとき、どんな仕掛けが施されたのか気になっていた。いくつかの予想を立てていたが、それを覆す内容だった。多くの著名人からコメントが寄せられているが、みなさん同じような意見だったのが納得である。文字通り“世界が変わる”ので、目を大きくして見ていていただきたい。未読の方は、小説を読んで監督の仕掛けを改めて感じ取ってもらいたい。


 「原作のまま映画にするなら原作を読めばいい」行定氏の思いが込められている。原作、映画を両方味わってこその『ピンクとグレー』ではないだろうか。この映画は行定氏からみたひとつの解釈に過ぎない。賛否両論あるだろうし、あるべきだ。原作を読んだ人の数だけ62分後の物語があるはず。他にも語りたいことは沢山あるが、それをしては台無しになってしまう。もどかしい。こんなに見終わった後、誰かと議論したくなる映画は初めてだ。(文=zopp)