イスラエルでは誕生日の祝辞に「120歳まで」という言葉を添える慣わしがあります。これは聖書の創世記に、神が「人の寿命は120歳としよう」と述べたとされていることに由来していますが、その年齢まで長生きする人は実際にはほとんどいません。
しかしイスラエル出身で米ニューヨークのアルベルト・アインシュタイン医学校の加齢研究所長ニール・バルジライ医学博士は「10年か20年後には、長生き薬を飲めば大半の人が110歳から120歳まで生きられるようになるだろう」と語っています。(文:夢野響子)
1900年の米国の平均寿命は50歳。医学には実績がある
この話は、12月22日付けのスタートアップ・イスラエル紙にシモーナ・ワイングラス氏が寄稿したもの。この薬があれば長生きできるだけでなく、人生の終わりの5年間を医者に通うことなしに、比較的健康に過ごせるようになるというのです。
これまでにも科学は、うじ虫やネズミの加齢速度を落とすことに成功しています。1900年に米国の平均寿命が50歳だったことを見れば、医学がすでに人間の寿命を延ばしてきたことは明らかです。
バルジライ博士たちは、開発中の加齢を遅らせる薬の試験許可を、米国食品医薬品局(FDA)に求めています。ただし老化は病気ではないため、バルジライ博士は加齢に伴って起こりうるガンや心臓病、脳卒中、アルツハイマー型認知症のようないくつかの疾患を同時に対象とした薬として、承認を得ようと働きかけています。FDAがこれを治療の領域だと判断しない限り、研究資金は集まりません。
「この薬がそれらの疾患を防ぐか、遅らせることができたら、承認が下りるでしょう。どうして人生末期の5~10年間に、人は複数の疾患を併発するのか。現在は、複数の治療が老人たちの身体の中で相互作用している状態です」
バルジライ博士の同僚でシカゴ大学のS.ジェイ・オルシャンスキー氏は、20世紀の寿命の延びは肺炎、インフルエンザ、結核のような感染症の治療の結果であると説明します。しかし現在、人々の死因となっているのは、心臓病、ガン、脳卒中、アルツハイマー型認知症であり、これらには異なった取り組みが必要です。
「疾患の経路を妨害する薬」を研究
イスラエルから米国へ招かれたバルジライ博士は、95~112歳の500人以上の高齢者の長寿の秘密を探っています。彼は100歳以上の老人の生活習慣を調査し、彼らが特別の健康維持方法をとっていないことを発見しました。
彼らの半数は肥満で、半数は運動をせず、男性の6割、女性の3割が喫煙しています。しかし彼らは病気にかかりにくい遺伝子を持っています。科学者は遺伝子を変更することはできませんが、疾患の経路を妨害する薬を設計することはできます。
100歳以上の人々は若い人同様、感染症や心臓病や脳卒中で、長く苦しまずに亡くなっています。ですから、加齢を遅らせればいいわけです。
この薬の実現に大変楽観的なバルジライ博士ですが、あと10年は研究を続ける必要があると言います。将来発売される薬は高くて、裕福な人にしか手が届かないのではないかという疑問には「最初の5~10年は高いかもしれないが、その後はジェネリック化されるだろうし、その頃にはまたよりよい薬が出てくるはずだ」と予想しています。
「そんなに生きて何をするのか」が問われる時代になる
しかし実際に100歳以上まで健康に生きられるとして、その余分な時間をどう使うのか、というのが本当の疑問ではないでしょうか。博士はある100歳以上の人の答えを引用して、これに答えています。
「私のやりたいことのリストが、私がやり遂げたことのリストよりも長い限り、私はまだ若くて何でもできるのだ」
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