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『ちびまる子ちゃん』はなぜ愛され続ける? 23年ぶりの映画に見る、“憎めない”キャラの魅力

2015年12月30日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015さくらプロダクション/フジテレビジョン 日本アニメーション 東宝

 1990年にアニメがスタートし、その独特の面白さやキャッチーなテーマ曲『おどるポンポコリン』で一世を風靡し、お茶の間の人気作品となった『ちびまる子ちゃん』。テレビ放映25周年を迎えた2015冬、23年ぶりとなる劇場作『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』が公開された。


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 『ちびまる子ちゃん』劇場作は、すべて原作者・さくらももこが脚本をみずから書きおろしており、第1作目から最新作までいずれもハートフルなふれあいの物語が描かれている。第1作では、クラスのやんちゃな少年コンビの友情が描かれ、第2作は、絵描きのおねえさんとまる子の交流がテーマだった。そして、3作目となる本作は、イタリアからやってきた少年・アンドレアとまる子の友情の物語だ。


 花輪くんのところへ遊びにやってきた世界五カ国の少年少女たち。まるこ、たまちゃん、はまじらは、花輪くんから彼らのホームステイを頼まれるが、そのうちの一人・アンドレアはなぜかまる子の名前にただならぬ反応を見せ、まる子の家を強く希望。さくら一家に数日滞在することになる。


 学校の授業にアンドレアたちが参加したり、週末、みんなで旅行に出かけたりして、楽しい日々を過ごすまる子たち。しかし、滞在期間はあっという間に過ぎていき、帰国の前日、まる子とアンドレアは一緒にお祭りに出かけ、「また会えますように」とお願いを書いた灯ろうを川に流す。そして、ついにアンドレアたちがそれぞれの国に出発する日がやってくる…。


 本作を見て、何よりも印象的に感じたのは、原作者・さくらももこの分身である作品の主人公・まる子の愛すべき姿だった。


 まる子は、いわゆるかわいい女の子ではないし、何か優れた才能があるわけでもない。性格がいいかといわれると、それも微妙なところ。面倒くさがりでお気楽で、楽をしようと悪巧みをするもしばしばだが、お調子者で詰めが甘く、失敗してばかりだ。しかし、この欠点だらけで人間味あふれるところが、まる子の何よりの魅力でもある。夏休みの宿題をなまけて8月31日にあわてたり、マラソン大会が嫌で仮病を使おうとしたりするまる子。お正月にお年玉のお札を数えてほくそえむまる子。彼女の行動の数々に共感したことが、視聴者はみな一度、二度、あるのではないだろうか。見ている側がどこか共感する、まさに等身大のキャラクター。だからこそ、彼女は25年もの間、お茶の間で愛され続けてきたのだろう。


 脇役たちもしかりである。クールなおねえちゃんやお人よしで天然ボケが冴える祖父の友蔵、いいかげんな父のひろしらさくら一家。まる子のクラスメイトも、やさしいたまちゃん、キザな花輪くん、「ズバリ」が口癖の丸尾くん、お調子者のはまじに食いしん坊の小杉、辛辣な永沢くんに卑怯な藤木、暗いけれどお笑い好きの野口さんなど、個性豊かで、一見ありえないようなのに、どこかありえる気がする絶妙なキャラクターたちばかりで、まる子と彼らが繰り広げるエピソードには、いつかどこかで見たような風景が存在している。


 今回の映画では、海外からやってきた友人たちが、まる子たちの日々に新たな友情のワクワク感をもたらしていく。アンドレアと登校しながら、富士山を眺めるまる子。旅行に出かけておいしいものを食べたり、観光を楽しんだりする面々。富士山を見ることも旅行に行くことも、素敵な友達がいるだけで、いっそう楽しい。誰かと仲よくなり、一緒にすごすうれしさをアンドレアとの交流を通してまる子は実感し、だからこそ、アンドレアを喜ばせようと一生懸命になる。


 劇場の大画面で見たときに、主人公・まる子の魅力が改めてわかったような気がした。欠点だらけで、でも不思議と憎めない、そして、普段はなまけものなのに、友達思いでここぞというときひたむきなまる子の姿は、映画を見た人の心にきっと刻まれるはずだ。


 なお、本作品は、ゲスト声優として多彩な顔ぶれが登場しているのも見所の一つだが、中でも注目は劇団ひとり。『ちびまる子ちゃん』のスピンオフ作品である『永沢君』の実写版で主役をつとめた彼が演じるインド人の少年・シンは、作品に笑いの味を加える非常にスパイシーな存在となっているので、これから見る方は、ぜひチェックしてほしい。(文=田下愛(たおり あい))