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音楽シーンを撹乱する異能バンド、バックドロップシンデレラ登場 10年のバンドキャリアを紐解く

2015年12月29日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

バックドロップシンデレラ。

 パンク、メタル、ハードコア、スカ、レゲエ、アイリッシュ……、 ごちゃまぜの音楽で聴く者を掻き乱し、破天荒なライブパフォーマンスで見る者の度肝を抜く。独自の道をひたすら突き進み、破壊力抜群のインパクトをまき散らしながら暴れているバックドロップシンデレラ。11月18日にリリースされた最新アルバム『OPA!!』はこれまで以上の攻撃性と得体の知れない引き出しの多さを見せつけた濃厚な作品であると同時に、異様なまでのキャッチーさを帯びた中毒性の高い愉快痛快な快作である。


 畳み掛けていくリズムからメロディアスなサビへと一気に開放される「激情とウンザウンザを踊る」をはじめ、耳について離れない印象的なリフとシニカルな歌詞が疾走する「COOLです」、なぜか漂うロシア臭「ベルリントロンボーン」、異国情緒ブルージーさを醸すアダルトな「アラスカアバンチュール」など、怒濤のキラーチューンの応酬。予測不能な楽曲構成「やってみよう」、十八番ともいえるアイリッシュな「陽だまり乙女のように馴染む」ではメロディーセンスがキラリと光る。ラストのレゲエナンバー「うたい文句」まで、聴きどころと突っ込みどころ満載の一切隙のない12曲だ。


 垣間見える緻密に練られたアレンジとメロディーの良さ。一見奇をてらっているようで、高い演奏力と抜群のセンスを持ち合わせる不思議なバンドなのである。


 バックドロップシンデレラとは一体何なのか?「ワーワー、キャーキャーしてるにぎやかなバンドです」とアサヒキャナコ(Ba/Cho)は言い、「どこよりも一番盛り上がるバンドになりたい」と豊島“ペリー来航”渉(Gt/Vo)は語る。2人の話を交えながら、このつかみどころのないバンドを紐解いていこう。

・“メルヘンチックハードコア”から“ウンザウンザ”へ


 結成は2006年。ペリーとキャナコのバンドと、でんでけあゆみ(Vo)と鬼ヶ島一徳(Dr)のバンド。この2つのバンドがほぼ同時期に解散し、残りの4人で結成された。


「お互い、バンドがポシャったわけですから(笑)。それでも音楽を続けるヤツ、解ってるヤツらだけで組んだら間違いないだろうと。向こうのバンドは、ボーカルとドラムがムチャクチャ目立つ、ステージ上の縦ラインがもの凄く強烈なバンドだったんです。そういうヤツらとやりたいというのはありました」(ペリー)


 以前のバンドではギター&ボーカルだったペリー。だが、あゆみの持つボーカリストとしての天性に惹かれたところが大きいという。


「あゆみは音楽的なものがまったくないところで勝負しているボーカリスト(笑)。それでも、なんかカッコイイというのがあったんです。本当は僕が自分で作って歌うほうが早いんですが、『コイツとやれば面白そう、オリジナリティが生まれそうだ』という思いがありました。あとは、やってみてから考えようと(笑)」(ペリー)


 バックドロップシンデレラの音楽にはオリエンタルな雰囲気やアイリッシュといった民族音楽・民謡要素が随所に鏤められ、オリジナリティを作り上げている。しかし、結成当初は“メルヘンチックハードコア”を名乗り、今とはまったく違う音楽性だった。


「あゆみが作ってきた曲に『コードは?』と訊くと『ない!』と即答されて(笑)」(キャナコ)


「はじめはそれも新鮮で面白かったんですけど、次第にこれでは通用しないなと思うようになって。最初にリリースしていたレーベルが無くなり、自分たちでレーベルを立ち上げることになったんです。ちょうどその頃、僕がアイリッシュやジプシー音楽にハマっていて。英語でも日本語でもない言語なので、アクセントやイントネーションが聴いたことのないもので新鮮だったんです。だから、こういうワールドミュージックの要素を持ち込んだら面白いんじゃないかと提案しました。たとえば、桑田佳祐さんは英語のニュアンスを日本語のメロディーに乗せていく形で、日本のロックはそういうものが多いですよね。ではなくて、ボスニア語とかロシア語とか、そうしたニュアンスを日本語ロックでやってみたらどうだろうと」(ペリー)


 その過程を経て作られたのが、2011年のアルバム『シンデレラはウンザウンザを踊る』である。タイトルにもなっている“ウンザウンザ”とは、バックドロップシンデレラの音楽を語る上で欠かせない言葉だ。


「エミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラというボスニアのアーティストに『ウンザ・ウンザ・タイム』という楽曲があるんですけど、それに触発されて生まれたのが『少年はウンザウンザを踊る』で、これがウンザウンザの始まりです。最初は仮タイトルだったんですが、言葉のインパクトと語感が気に入って使っていたら、いつのまにかお客さんにも拡がっていって、今ではライブでもみんな『ウンザウンザ踊れーっ!!』みたいな状態になってます(笑)」(ペリー)


・打首からMERRYまで、異色共演


 『OPA!!』は打首獄門同好会のニューアルバム『まだまだ新米』と同じリリース日だった。シーンの中で異彩を放つもの同士、親交も深く、両バンドが好きというファンも多い。


「以前、お互いの大きめのライブが重なって、お客さんも「どっち行けばいいんだ」という声が結構あったり」(キャナコ)


「僕らも打首もシーンではある意味で浮いてたバンドだから、お互い一緒にやると面白いんじゃないかということに始まり、結構ガッツリやることが多いです。今回も同時期にリリースすることは解ってたので、一緒にツアーやろうという話になり、予定を組んでいくうちに『どうせだったらリリース日も一緒にしたほうがいいんじゃね?』という話になりました」(ペリー)


 「お客さんがいない頃から色んな対バンからのウケは良かった」と語るように、他ジャンルから誘われる異色共演も目立つ。最近では、スラッシュメタルの重鎮バンド・Gargoyleのツアー<狂い咲きジャパロック>に参加。ボーカル・KIBAが「僕がいまいちばん好きなバンドです! 」と紹介し、<KIBA生誕50年記念イベントライブ>にも出演した。そして、ヴィジュアル系ロックバンド・MERRYとの共演は、「両バンドに通ずるものがある」とファンの間で以前より話題になっていたことから実現したものだ。


「MERRYのファンの方がウチのCDをメンバーさんに渡してくれたのがきっかけなんです。最初、対バンツアー<NOnsenSe MARkeT 1F>でご一緒させてもらったのですが、反応もよくて、主催イベント<NOnsenSe MARkeT 3F -ラムフェス->にも呼んでいただきました」(キャナコ)


「正直ちゃんと聴いたことはなかったんですけど、改めて聴いてみたら『あ、なるほど!』と(笑)。みんなが騒いでいた理由が解りました」(ペリー)


・自分たちのペースで活動できる自主レーベル


 音楽のみならず、ミュージックビデオなどのこだわりも強く、クオリティも高い。埼玉県旧与野市非公認ゆるキャラ“よのっしー”をはじめとし、メンバー発信の斬新なアイデアはとどまることを知らない。自主レーベルという機動力の高さを活かしている。


 「自分の性格でもありますね。自分のバンドで起きていることは全部把握しておきたい、みたいな(笑)」そう語るペリーはバンドのギタリストであると同時に、自主レーベル・NaturalAfroRecordの代表を務める。


「メジャーにいったバンドが大きなことやったり、派手なことをやったりするのを見て、羨ましさを感じることもありますけど、こっちは少人数のチームで緊張感を持ってやっていく面白さがありますから。試行錯誤しながら切り開いて、ひとつひとつ積み上げて行かなければならないので、大変なことも多いんですけど。捕らわれない、制約のない中で、自分たちの出したいタイミング、やりたいペースで活動できるとことが、バンドのモチベーションとして健康ですね」(ペリー)


・結成10周年を迎える2016年


 ライブの盛り上げ方、ライブとは何たるかを知っているバンドでもある。良いバンドのライブは曲を知らなくとも、楽しめるものだ。正確には「怖くて数えていない」らしいが、2015年のライブは100本は越えているという。「バックドロップシンデレラ、ヤバイぞ」という声は耳の早いリスナーの間で以前から囁かれていたが、今年はその声を着実に増やしてきた。それを裏付けるかのように、結成10周年を迎える来年2016年3月より、ワンマン・ツアー<10周年でウンザウンザを踊る>を行う。東京はバンド史上最大規模となる渋谷クラブクアトロである。


「発表がWレコ発イベントでの、打首のZepp TOKYOワンマン発表の直後になったので霞んでしまった感もありましたが…(笑)。クアトロワンマンは3~4年前に掲げていた目標でもあって、むしろ最終目標でもいいくらいの途方もないものでした。それが実現するわけですからね。まぁ、やってみないとどうなるか解りませんけど」(ペリー)


 結成10周年を迎えるバックドロップシンデレラはどこに向かおうとしているのか?


「フェスやイベント、いろんなところで演りたいです」(キャナコ)


「今後も人間の持つ本能的なリズムを以て、この4人のシンプルな編成で、聴く人が一瞬「ん?」となりつつも、気分が昂揚するものを作っていきたい。そしてやっぱり、もっといろんな人に届けたいですね、海外とか。『ベルリントロンボーン』もまだベルリンに届いてないので、ちゃんと届けなければいけない。そして、ベルリンの人に怒られたい。『おまえら、“アイン・ツバイ”って言いたかっただけだろ』って(笑)」(ペリー)


 アングラ感があるのにどこかメジャー感があり、気持ち悪さと心地よさが共存する。最高にくだらないけど、最高にカッコイイのがバックドロップシンデレラだ。2016年は、今以上にいたるところで“ウンザウンザ”が鳴り響くであろう。(冬将軍)