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織田哲郎✕ダイアモンド✡ユカイが語り倒す、ROLL-B DINOSAURの“ロックンロール哲学”

2015年12月29日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

ROLL-B DINOSAUR

 作曲家・プロデューサーとして数々のヒット曲を手がけてきた織田哲郎が、自身もギタリストとして参加するバンド=ROLL-B DINOSAURを結成。ダイアモンド✡ユカイをボーカルに迎え、GUNIW TOOLSのASAKI(Gt)、FUZZY CONTROLのJOE(Ba)、LINDBERGのCHERRY(Ds)と個性溢れるミュージシャンたちと共に、12月9日にアルバム『ROLL-B DINOSAUR』をリリースした。今回リアルサウンドでは、12月11日に東京・渋谷で発売記念インストアライブを行なった直後の織田哲郎とダイアモンド✡ユカイにインタビューを敢行。ロックンロールに対する織田の情熱が出発点となってバンド結成に至った話から、2人の音楽・バンド観まで熱い話を聞くことができた。(編集部)


・「ロールはどこに行ったんだ!と」(織田)


ーー先ほど『ROLL-B DINOSAUR』の発売記念インストアライブが終わったばかりですが、8月のお披露目ライブよりも演奏に躍動感があり、聴き応えがありました。ご本人としてはいかがでしたか?


ダイアモンド✡ユカイ(以下、ユカイ):今日はライブと言っても短かったからね。リラックスしてやった感じかな。さらにテンションがノッてくるまでにはもう少し、というところで終わっちゃったね。


織田哲郎(以下、織田):俺も同じ感覚かな。前回の初ライブ(8月6日@下北沢GARDEN)の時、相当勢いだけでアタフタしていたから、今回はちょっと落ち着いてやろうかなと。でもちょっと、リラックスしすぎたかなというところもありましたね。


ーー2016年は3月31日から春のツアーが始まりますが、その時にはさらに良い状態でライブができそうですね。あらためてROLL-B DINOSAURの結成の経緯から聞かせてください。織田さんはどんなプランを持っていたのですか。


織田:ロックバンドはいっぱいあるんだけれど、“ロール”するバンドはあまりない。それで、ロールはどこに行ったんだ!という思いがずっとあったんですよ。俺としては、ロールなギターを弾いている時が一番楽しい。でも、自分の歌を考えると、あまりロール向きじゃなくて。それで、最高のロックンロールが歌えるヤツはいないかと考えたら、頭のなかにはユカイくんしか思い浮かばなかった。だから、ちょうど1年前くらいから“やらない?”って話をしていたんです。


ユカイ:そうね。その時は“なに言ってんだろなぁ、このオッサンは”って思ったけど(笑)。


織田:まあ、そう思うよね(笑)。


ユカイ:でも、なんかすごく熱くてね。織田さんは作曲家としてJ-POPを引っ張ってきた一人じゃないですか。でも、日本の代表する作曲家になる前は、「WHY(ホワイ)」というバンドをやってたわけで。俺もRED WARRIORSではロックンロール一筋の男だったから、もともと共感する部分も大きいよ。
 ただ、考えてみると、それからもう30年とか経っててさ。自分もいろいろなことをやってきたけど、人生の中で一回りも二回りもミュージシャンやってるじゃない? だから“ロックンロールやろうよ”って言われても、最初はピンとこなかったんだよね。今の時代的なこともあるし。確かに、いまだにローリング・ストーンズは健在だし、ポール・マッカートニーもガンガンやってる。でも、日本という土壌を見るとさ、自分の憧れるロックバンドというのは、ひとつもないんでね。ビジュアル系とかメタル、ハードロックは進化して、今も生き続けているけど、ロックンロールバンドは死んじゃったのかな、みたいな。もうそういうことを忘れていたっていうか。


織田:だから、“ロックンロールはどこに行ったんだー!”って。ロックンロールが進化した形というのは、ほんとにあまりないですよね。それに、バラエティに出ているユカイくんも面白いんだけど、一番輝くのはロックンロールバンドのボーカリストとしてステージに立っている時なんだ。その輝き方はやっぱりハンパじゃないから、もっと見せてほしいなという思いもあった。


ユカイ:こういう感じでね、織田さんもしつこいわけですよ(笑)。でも、聞いているうちにこの人は本気なんだ、と思って。だってさ、作曲家としてもシンガーソングライターとしても、明確なポジションがすでにあるわけじゃないですか。それでも、本気でロックンロールやりたいっていうんだから。


織田:本気も本気!


ユカイ:その“本気度”に打たれ、今だったらできるかな……と思ってからは早かったですね。


ーー織田さんは先ほど“ロックはあるけれども、ロールはない”とおっしゃっていましたが、“ロール”とは具体的にどんなものだと捉えていますか。


ユカイ:これ、キース・リチャーズの有名なセリフね。


織田:まさにその通りで。“ロールは何なのか”っていうのは、音楽的な理屈じゃないんですよ。単純に音楽的なことで言ってしまうと、“ジングジャング、ジングジャング”というギターのリズムだったり、こういうパターンだよね、というものはあるけれど、それだけじゃない。だから、やっぱりニュアンスの話になってしまう。俺が一番思っていたのは、ロールしている昔のロックンロールバンドは、“人生、それでいいんだ!”と思わせてくれる、絶妙な“ゆるさ”みたいなものがあったんじゃないかって。最近のロックって、やたらマジメじゃないですか。それはそれでいいものもあるけど、“トータルでカッコよければいいんじゃねえの?”という気分が、ロールな感じがするんだけどね。


ーーなるほど。それがバンドの醍醐味でもあるような気がします。ユカイさんはこのバンドで歌ってみて、忘れていたロックンロールへの思いがよみがえってくるような感覚はありましたか。


ユカイ:みんなで“せ~の”で音を出した瞬間に感じたね。なんか、テンション全開で、とにかくすげえなって。


織田:意外と最初からカチッとはまったよね。


ユカイ:なんにも示し合わせたことはないんだけど、みんなが足りないところを補いあっているみたいな。普通、最初は音がかち合っちゃったりとかするじゃないですか。そういうのがないんだよね、みんな別の方向を向いているんだけど、ひとつにまとまるのが早かったり。これはさすが、プロデューサーの織田哲郎の力ですよね。こんなにうまくパズルが噛み合うものなのかと驚いた。


織田:メンバーもパッと集まったから、そういう流れがよかったんじゃないかな。音を出してみても、バチン!といきなり最初からきましたから。


ーー非常にスキルの高いメンバーが集まりましたが、このバンドでは織田さんがおっしゃった“ゆるさ”が大切なところだと思います。プレイヤーを選ぶ上で重視した部分は?


織田:やっぱりグルーヴですね。


ユカイ:そうそう。決してコンピューターで作られたタイトなリズムじゃない。“ゆるさ”というのは人間臭さでもあって、そういうグルーヴがROLL-B DINOSAURのメンバーにはあるんですよ。それと、織田さんも“新しい形”と言ってたけれど、みんな古臭いものをやるつもりはないというか。自分が表現する上で、体に流れているのは70年代のロックだったりするんだけど、それをそのまま出すんじゃなくて、新しいものとして出さなければいけない。それも、50歳過ぎのメンバーが3人もいる中で(笑)。過去の栄光とか歴史を再び見せる“再結成”ではなく、新しいバンドを作って切り拓いていくっていうのは大変なことだけどね。でも、今の時代に、織田さんを先頭にスカーン!とやってみると、気持ちよさがある。“こんなヤツら、いなかったよな”って。


織田:古いロックンロールなんてやる気ないからね。俺は50年代の音楽も60年代の音楽も、そして今の音楽も同じように、単純に好きなもの/嫌いなもの、面白いもの/面白くないもの、という感覚で聴いていて。名前を隠してボカロやって、ニコ動に出しちゃう……みたいなことも楽しいな、と思っちゃったりね(笑)。昔の音楽も今の音楽も、面白いと感じるものは同列なんです。だから今ROLL-B DINOSAURでやるロックンロールは、決して自分にとっての昔のロックンロールじゃない。そしてこういうものが素敵だと思うヤツって絶対にいるよね、と思っているわけ。


・「バカになった時のロックって最強」(ユカイ)


ーーそれが今回のアルバムであるということなんですね。今作はパンキッシュな面もあって、UKロックの香りが強い印象がありました。


ユカイ:自分の憧れた世代的なことを考えると、まあ、全部イギリスのバンドだったんだよね。だから自然と、少なからずパンクの影響を受けた自分の表現方法というものも出ているのかな。RED WARRIORSもデビューした頃はパンクみたいな面もあったし、それも含めてロックンロールっていうか。だから、「Roll-B Dinosaur」という曲は、ブルー・ノート・スケールの、ロックのおいしいところがみんな入っている楽曲で。面白いのは、それでもポップなんだよね。こういう楽曲って今時あるようでないなと思う。それは自分の得意な場所でもあって。


――確かに、ロックンロールを追求すると渋くなってしまうケースもあるかもしれませんが、今回の作品はとにかく弾けています。


織田:俺にとって、ロックンロールってずっとポップな音楽だったからね。今でもそうじゃなければいけないと思ってる。同時に、ロックンロールはあくまでブルースがメインで進化してきた音楽だから、それを表現できるボーカリストは、やっぱりユカイくんくらいしかいないと今も思う。ポップさはあっても、ブルースがきちんと感じられる歌じゃないと、やっぱりイヤなんですよ。結果としてポップなものでありたい、というだけで。その時その時にいい音楽って、俺は全部ポップだと思っていて。例えばピストルズなんて、大ポップだしね。


ユカイ:すごいよね。今聴くと、みんなポップな曲だと思う。


織田:普通にポップスだよね。だからハードロックであれ、パンクであれ、どういうジャンルでも、やっぱりいい曲はポップなんだ。そういう“アピール力”っていうのは、強いものじゃないとやっぱりつまんないなと思うから。だから、あくまで俺はそういうもののつもりで作ってる。制作も神懸かり的な勢いでできていきましたね。作詞は特に一日おきにできるっていう感じで。


ユカイ:ドライブから帰ってきたら、もうできてる(笑)。


織田:コースがあるんですよ。あのコースにドライブすると一曲書けちゃうっていう。


ユカイ:その詞がすごくいいなって思って。俺はとにかくいい曲を歌いたいという気持ちが強いから、うれしい限りだよね。


織田:でもね、例えば「教訓」なんかにしても、「Roll-B Dinosaur」にしてもね、ユカイくんは歌詞を作るにあたって面白いことを言うのよ。特に「Runaway from Chicago」はすごかったね。“アル・カポネから逃げてるストーリーで!”なんて言われて、俺そんなこと頭になかったから、かなり新鮮だった。それで、バーと書いちゃったんだけどね。


ユカイ:アル・カポネから逃げる男。そこにもしかしたらラブストーリーもあったりして……とか、映画的な感じで言ったかな。そういうテーマみたいなのを言ったら、“いいね~!”とか言うからさ(笑)。そしたら、次の日にはもう歌詞ができてた。 


ーーユカイさんのイメージが曲になっていることも多いんですね。


織田:いいコンビネーションで面白いものができたなって思いますね。


ーー「馬の耳に念仏」はユカイさんが詞を書かれたんですよね。


ユカイ:最初に聴いた時、いいメロディーだなっていうか……何処にもないようなメロディーだと思ったんだよね。で、すごいエンターテイメント色も強いし、ジャジーで、それでいてロックなんだ。歌詞について言うと、“バカなオトコ”がテーマになって。みんなそういった側面は持ってるじゃない? フェイセズのアルバムの邦題で『馬の耳に念仏』(1971年)というのがあったのを思い出して、たまたまライブで「馬の耳に念仏」って言ったら、それがタイトルになっちゃった、みたいな(笑)。歌っているのはオトコの情けない部分なんだけど、それが自分の世界だし、バカになった時のロックって最強だしね。バカみたいなことが素敵で、それがすべてなんだ、ということを歌いたかった。シャンパンの泡みたいにすぐに消えちゃう瞬間がすべて。『あしたのジョー』が燃え尽きて白い灰になるみたいに、馬鹿でカッコよく刹那に歌おうと(笑)。


・「ロックンロールはもがき続けることなんだ」(ユカイ)


ーーなるほど。“カッコよく歌う”ということですが、同時に先ほどのライブでは「Showtime」という曲で歌われているように、ショーアップされた要素もあって、今後のライブも楽しくキラキラしたものになるのかなと想像しました。


織田:そうですね。何と言っても、ユカイくんは、エンターテイメントとしてキラキラした方向でお客さんを楽しませることができるロックンローラーという、稀有な存在だから。そこはやっぱり活かさない手はないよね、という。


ユカイ:ジョン・レノンの『心の壁、愛の橋』(1974年)っていうアルバムに「愛の不毛」という曲があるんだけど、これが“この世の中はすべてエンターテインメントなんだ”という内容で。それを思い出してさ。


織田:ほら、ユカイくんが歌うと思うと、ポンポンイメージが出てくる。


ユカイ:まさに表裏一体の素晴らしい歌詞だよね。曲はT・レックスみたいなのに、こういう歌になるんだから驚きだよね。


ーー現在のユカイさんのステージはまさにエンターテインメントですが、デビュー当時と今では感覚の違いはありますか?


ユカイ:そうだね。最初の頃は無我夢中で、好きなことをやっているだけだった。自分がロックの世界にしか存在していないような感覚で、24時間、ずっとロックンローラーだったわけで。だから、全然寝ないし、毎日朝まで、酒を浴びるように飲んだりね(笑)。俺はロックバンドでロックスターになりたい、と思ってデビューしたけれど、当時は世の中には歌謡曲やニューミュージックみたいなものがあふれていて、そういう音楽はスターダムへの道筋が決まっていたけれど、ロックにはそれがなかった。だからずっと“ロックンロールだぜ!”って言い続けるしかなかったんだよね。そうしていくうちにちょっと道のようなものが見えてきて、“ああ、これがロックンロールバンドの道なのか”と思ったりもするんだけど、気づけばその道も途絶えていて。そういう壁に何度も何度もぶち当たるんだけど、その都度、道を自分で作っていくしかないんだな、という答えに行き着いた。
 当時からずっと変わらないのは“諦めちゃいけない”という気持ちだね。そうやってもがき続けているのは、今もあんまり変わらない。ロックンロールはもがき続けることなんだ、とも思うよ。ローリング・ストーンズだって、そうやってきたんじゃないかな。ロックンロールの火を消さず、やり続けなきゃいけない。


織田:燃えるね。“道を作る”という話だけど、俺も基本的に、そういうことをやっていた人が前にいない、というなかで燃えるところがあって(笑)。例えば作曲や編曲でいろいろなシーンとかかわってきて、“今まではこういうものはなかったよね”というものを作って、それが普通になっていくのが楽しかった。だから、音楽を作る時に一番大事なことって、やっぱり湧き上がるもののパワーでしかない。そう思い続けて俺はやっているから。


ーーその“燃える”状態をこれからも続けていくということですね。ユカイさんは、このROLL-B DINOSAURをどんなプロジェクトにしていきたいですか?


ユカイ:あまり力を入れてやっても……と思うけど、やっぱり力は入っちゃうね。案外50代トリオが一番力が入ってて。そうだね、これからずっとロールしていきたいなと思う。これからのツアーも楽しみだし、まずROLL-B DINOSAURを知ってもらうってところが、第一だね。今の時代さ、いろいろ難しいじゃない。CD売るのも難しいし、新しいバンドを知ってもらうのもさ。ダイアモンド✡ユカイが歌っているとか、織田哲郎が作曲してるとかじゃなくて、ROLL-B DINOSAURの「くずの詩」がいいとか、そういう形で世の中に広まれば、いいなと思う。あくまでもバンドだからね。


織田:とりあえずライブを人に観てもらうっていうことが、一番大事なんじゃないかなって思っています。これからライブをやっていきながら、バンドの形がどんどんできていってて、変化もし続けていくでしょうね。


ユカイ:このアルバムでもどんどん変化して、進化していっちゃったからね。いきなりビートルズの「Twist & Shout」から、『Revolver』までいっちゃって。そういうのが全部詰まったアルバムです。果たしてライブが、そこまでの進化についていけるかが、楽しみだね(笑)。


(取材=神谷弘一)