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スプラッターの匠=西村喜廣監督が、“血の量少なめ”映画『虎影』で挑戦したこと

2015年12月29日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

西村喜廣監督

 『東京残酷警察』(2008)『ヘルドライバー』(2011)など、血飛沫舞うスプラッター映画を数多く手がけてきた西村喜廣監督。斎藤工が主演を務めた映画『虎影』(2015)では、60年代に放送されたTV番組『仮面の忍者 赤影』を彷彿とさせる懐かしの忍者ネタと本格的な殺陣を融合させ、主人公・虎影の戦いの物語を、迫力のあるエンターテイメント活劇に仕上げた。監督業をこなす一方、『進撃の巨人』(2015)『シン・ゴジラ』(2016)では特殊造形プロデューサーを担当するなど、邦画の特殊造形に大きく貢献しながら、自身ではR指定映画を撮り続けてきた監督。一方で、1月6日にブルーレイ&DVDでリリースされる『虎影』は、全年齢対象となっている。その狙いとはなにか、そして監督が考える日本の特撮の今後とは。監督本人に直撃した。


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◼︎「『虎影』で使った古典的な手法も、若い世代には新鮮に見える」


ーー今回、『虎影』で忍者を題材にしたのはなぜですか?


西村喜廣(以下、西村):もともとプロデューサーからアクション映画をやりたいという要望を受けていて、当初は『必殺仕事人』のような内容を考えていました。ただ、海外の人に見せた時に、『必殺仕事人』と言われても伝わりにくいと思ったので、国内外問わず人気の高い「忍者」をテーマにしました。昔から忍者モノは好きで、特に奇想天外な忍者活劇が好きでしたね。『虎影』は僕が幼い頃に夢中になっていた特撮番組のオマージュや、古典的な演出が多いので、僕ぐらいの世代が見れば懐かしいし、若い人からすると逆に新鮮かもしれないです。いままでは映倫で年齢制限がつくスプラッター映画を中心に撮ってきましたが、今回は血の量を少なくしたので、G指定(全年齢対象)になっています。凝り固まった時代劇ではなく、「忍者」と「家族愛」という親しみのあるテーマを描きつつ、誰でも楽しめるエンターテイメントにすることが、『虎影』の一番大きなコンセプトになっています。


ーー監督がスプラッター表現を抑えたのは、意外にも思います。


西村:でも、スプラッター表現を抑えることへの抵抗は全然なかったです。血が大好きな人って思われがちだけど、血のりを大量に出す演出って、かなり大変なんですよ。冬は凍りつくから特に大変で(笑)。もちろん、ビジュアルの面で必要になれば、血のりを大量に使いますけど、今回の『虎影』に関しては求めているものが違うので、いつもと少し方向性を変えただけです。ただ、「誰も見たことがない映像を作りたい」という部分は、過去のスプラッター作品と同じく変わらずに続けています。


ーー新たな映像表現に挑戦するのは、苦労も多そうです。


西村:そうですね、新しいものを作るときはいつも苦労していて、とくに天候には困ることが多いです。ただ、天候で苦労した分、ラストの殺陣シーンは良いシーンになりました。突然降ってきた雨に加えて、血の雨を降らしていたら、そこがいつのまにか血の海になっていて。みんな雨の中で一生懸命撮ったこともあり、最終的に迫力のある良いシーンに仕上げることができました。


ーー先ほど、海外の人にもわかりやすくという話がありました。『ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭2015』など、海外映画祭での反応はいかがでしたか?


西村:海外のお客さんはすごく面白がって観てくれました。海外のお客さんは感情を表に出してくれるのでわかりやすい。上映中も「OH!」とか「YEAH!」とか、平気で声をあげてきます。きっとディズニーランドのアトラクションと同じような感覚で、映画を楽しんでいるんでしょうね。逆に、興味がないと本当に無反応なので、そこは怖い部分でもあります。


◼︎「スプラッター映画は、好きな人しか観ない文化になった」


ーー最近は、ドラマにせよ、映画にせよ、日本ではスプラッター系が少なくなってきているように感じます。


西村:昔はむちゃくちゃありましたけどね。『座頭市』や『子連れ狼』も、ものすごいスプラッターだったし、もっと一般的なジャンルだったと思います。今も少なくなったわけじゃなく、ただ一般に見えないように規制されてしまっただけ。求めている人にだけしか観られないようになった。少し前に『ガールズ&パンツァー 劇場版』というアニメ映画の本編開始前に、『グリーン・インフェルノ』(食人族を題材にした映画)の予告編を流したことが問題になっていましたが、昔ならここまで注目されることはなかったと思う。『グリーン・インフェルノ』はR-18指定ですが、オリジナル版である『食人族』には、何の規制もかかっていなかったし、僕も小学生の頃に観ました。


ーーグロテスクな描写に慣れていない人が観ると、驚くかもしれないですね。


西村:もちろん、一定の配慮は必要なのかもしれないけれど、普通にテレビで流れていたものが規制されたことによって、スプラッターというジャンル自体を知らずに育ってきている人がいるのは寂しく思います。だんだん、好きな人だけしか観ない文化になりつつある。自分の好きなものを調べて見る行為と、何気なく目に入ってくる行為は全く意味が違うので、予期せぬものと偶然出会う機会が減っているのは、果たして本当に良いことなのかなって疑問もあります。


◼︎「特撮ならではの良さが、CGの限界を表している」


ーー本格的な殺陣や血の演出があるのに、子供も見られる『虎影』は貴重な映画かもしれないですね。迫力のある殺陣や出演キャラクターのユニークなビジュアルからは特撮への愛を感じました。


西村:特撮モノは子供の頃から大好きです。劇中で使われているアイデアも、いままで観てきた特撮がもとになっています。あと、これは最近知ったことなんですけど、戦隊シリーズや仮面ライダーを手掛けている監督たちが、僕の作品を見てくれているらしいんですよ。例えば、『ヘルドライバー』のカーアクションが、戦隊シリーズの『烈車戦隊トッキュウジャー』で使われたことがあって、話を聞いたら特撮の監督が自分の映画をすべて観てくれていました。自分の作品が形を変えて、今の子供に届いてるのは嬉しいですね。


ーー監督業を行う一方、劇場版『進撃の巨人』(2015)や、来年公開予定の『シン・ゴジラ』の特殊造型プロデューサーを務めています。VFXの技術が発展しているにも関わらず、特撮を使うのはなぜですか?


西村:『進撃の巨人』や『シン・ゴジラ』の制作に携わる中でわかったのは……というか薄々感づいてはいたんですけど、現時点で日本はハリウッドのCGに到底太刀打ちできないなと。それは、技術が劣っているという意味ではなくて、単に予算と人員におけるスケールの違いからです。ざっくりと言うと、日本はハリウッドの1/10の予算で映画を作る必要があって。予算が限られると、当然かけられる時間にも制約がでてきます。むこうは何年もかけて良いCGを作っているかもしれませんが、日本の場合は同等のものを数ヶ月で作ることが求められるので、仮に同じやり方で作ったとしても物理的に追いつかない。限られた時間の中で作るために、着ぐるみやマペットといった特撮の技術が必要になってきます。


ーー監督が考える、特撮ならではの強みとは。


西村:モーションキャプチャーや着ぐるみではできない動きに、マペットで挑戦したのが『進撃の巨人』の超大型巨人でした。モーションキャプチャーを使えばよりリアルに動くCGを作れますが、一方で特撮にしか出せない味もあります。むしろ、CGでは作れない特撮ならではの良さこそが、CGの限界を表しているんじゃないかと。すべてをCGで作ろうとしても、制約があって理想的な動きにならないこともあるんです。特撮の技術で、人間にはできない動きができた時の驚きや、着ぐるみやマペットを使った時にチープに見えないようにする工夫などは、今後、特撮が追求していかなければならないポイントだと思います。


ーー西村監督はインディペンデント(メジャー系配給ではない)映画を多く撮っています。海外や国内で気になるインディペンデント映画の監督はいますか?


西村:『ABC of death』(アルファベットのA~Zから連想する死をテーマにした短編映画集)の制作に参加したとき、世界各国の若手監督に会いました。その時に『ターボキッド』(2015)を監督したROADKILL SUPERSTARSと話しましたが、彼らは過去の表現を再解釈して新しい作品を生み出していて、素晴らしいセンスだと思いました。あと気付いたのは、インディペンデント映画を撮っている監督は性格が明るいってこと。映画作りに対して素直というか、視聴者へのウケを考えるよりも、自分のやりたいことを全部やっている感じですね。そういう姿勢には、いまも学ぶものは多いなと思います。(取材・文=泉夏音)