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TheピーズとTOMOVSKY大木兄弟を取り巻く“幸福なしつこさ” 生誕50周年ライブレポート

2015年12月27日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=たたみ

 毎年下北沢CLUB Queで行われてきたはること大木温之(Theピーズ)とTOMOVSKYこと大木知之の双子兄弟誕生日イベント、今年は50歳ということで「大木兄弟【生誕50周年】特別記念LIVE!」と題し、キャパ1,300強の渋谷TSUTAYA O-EASTで開催。誕生日に合わせているんだからしょうがないとはいえド平日の月曜日、にもかかわらずチケットはソールドアウト。ホールの両側の壁にはスクリーンが設置され、大木兄弟の幼少時代の写真が次々と写しだされている。


 まず怒髪天増子直純の前説。「50歳って、戦国武将だったら死んでるよ?」「(グッズで作ったというスノードームを出して)これ作ったって言うから限定100個くらいかと思ったら、1000個作ったんだって!わかっているね! ひとり1個ずつ買ってかえるように!」などなどのトークで十二分にあっためたところで(自然体でしゃべって人を笑わせる能力、ロック界でトップだと思います、この方)、先攻はTOMOVSKYから。メンバーはおなじみ、サードクラス&はる。「ハッピーバースデー」から始まり、トモの「幸せだー! おまえらもさっさと50になりやがれ! 今夜一晩でこの先50年分吸い取ってやる!」というフリから、「スポンジマン」でライブはスタートした。

1 スポンジマン
2 脳
3 ムカシミタイニハアソベナイ
4 あのハナシのつづき
5 いい星じゃんか
6 こころ動け
7 人生は無限だ
8 SKIP
9 映画の中
10 無計画とゆう名の壮大な計画
11 ほめてよ


 トモ、「ずっとやりたいね、毎日やりたいねこんなこと。でも1日だからみんな(お客さん)天使なんだよね」などと言いながら、本当に楽しそうにうれしそうに幸せそうに、ステージを縦横無尽に動きながら歌いまくる、いつもながらの自由きわまりないステージ。後半、「SKIP」でthe pillows山中さわおを呼び込み、「本番10分前じゃなくて、前もって言ってください。曲は好きですけど、ギターは弾けません!」と渋る本人にはかまだ卓からギターを渡させ、弾くよう無茶ぶり。トモがコードを弾きながら歌い、さわおは「はいっ、弾いて」「はいっ、ストップ」と指揮者のように手で指示するはかまだ卓にしたがってリードギターを弾くさまにみんな拍手喝采。


 さわおが去ったあとは、「映画の中」で巨大クラッカーを発射し、続く「無計画とゆう名の壮大な計画」では靴と靴下を脱いで(そして一瞬自分の足のにおいを嗅いだ上で)最前のガタイのいいお客さんに肩車してもらってフロア中央まで進出し、歌いまくる。曲が終わり、あおむけになって「(ステージに)戻してー、ゆっくりと、ていねいに! 50なので!」と叫びつつ、その言葉どおりにそおっと運ばれていくさま、大笑いでした。シメは初期の名曲「ほめてよ」。見事にステージの上と下が一体となったシンガロングをくり返した末、ステージにバタリと倒れて動かなくなる。そこで「ガッツだぜ、ガッツだぜ!」と超懐かしいコールをくり出して爆笑を誘うはるさんでした。

 続いて再び増子直純登場、トモを褒め称えつつ、はるも立てつつ、「でもあのふたり、まっすぐ立てないんだから」などとまたひと笑い起こしたあとでTheピーズを呼びこむ。はる、「月曜なのに、こんなに……月曜日にアビさんがライブやるのは今日が最後です」「佐藤先輩とアビさんに歌ってもらおうかな」などと言いつつ、はるがハープを吹いて「ハッピーバースデー」の歌のあと、スタート。

1 底なし
2 ゴーラン
3 ドロ舟
4 血の丸
5 絵描き
6 3度目のキネマ
7 リトルボウズ
8 幸せなボクら
9 焼めし
10 日が暮れても彼女と歩いてた
11 キャロ
12 脱線
13 とどめをハデにくれ
14 真空管


 やはり、普段のライブよりもかなりハイでご機嫌な様子のはる、「盛り上がってますかアビさん?」と問いかけ苦笑いされ、「盛り上がってますか佐藤センパイ?」と問うたらしんちゃんにかわいく「イェイイェイ!」と返されて場内爆笑になったり、なぜか途中で突然クリスタルキングの「大都会」を熱唱し始めたり、いつの間にかトモがドラムセットに座っていてツインドラム状態になったりと、いろいろやり放題なステージなれど、シンプル&ラフなロックンロール日本最高峰の3ピース=ピーズだけあって、やはりキマるべきとこはびしびしキマる、そして基本シリアスな歌しか持っていないバンドなのでどうしたってかっこいいことにならざるを得ない、そんなライブだった。圧巻だったのはやはり、後半にさしかかったあたりで歌われた「日が暮れても彼女と歩いてた」から「キャロ」あたりか。22年前の曲とつい最近出た曲が自然に並んでいるさま、何かとても、くるものがあった。


 そして毎年恒例、全員で第3部。三度目の「ハッピーバースデー」からピーズの「生きのばし」、そしてTOMOVSKYの「我に返るスキマを埋めろ」では山中さわお再び登場、一緒に歌う。次のピーズ「グライダー」の途中では、はる、ベースをローディのQ太郎に預け、トモと共にいなくなったと思ったら2F客席中央に登場、ふたりで下に紙飛行機を投げるというサービスも。シメは初公開時から14歳増えた、トモの「歌う50歳」でした。文字数が合わないので「♪歌う50歳50歳」と2回くり返すことでメロディにはめておられました。

1 生きのばし
2 我に返るスキマを埋めろ
3 グライダー
4 歌う50歳


 で、アンコールは、これも毎年恒例、ビートルズ関係のカバー。なのだが、スーツ姿でハルトモが登場したと思ったら、コック帽に白衣の男がケーキを押して登場、「パティシエのグレートマエカワです」。と自己紹介。「はるさん、トモくん、50歳おめでとうございます!」とケーキを差し出してろうそくを吹き消してもらおうとするも「なんではるは『さん』で俺は『くん』なの?」と超細かいクレームをつけられる。が、「似合ってる、武道館もその格好で出たらいいじゃん」と誉められもする。で、そのままグレートがベースを弾いて、ビートルズ、ジョン・レノン、またビートルズ、の3曲でシメ。3曲目「Birthday」では、さわお&増子も登場し、ステージから紙飛行機を飛ばす。ベースをグレートに預けたこともあり、ラストのふたり、自由すぎてグダグダ寸前な感じもなくもなかったが、その分、ステージから放たれる幸せなエネルギーも増していた。

アンコール
1 In my life
2 Happy Xmas -War is over-
3 Birthday


 3部でトモ、「グライダー」の「10年前も10年先も同じ真青な空を行くよ」を「50年前も50年先も」にもじって、「50年先は無理! 60歳、還暦パーティーをまたやろう。だからみんなもあと10年生き延びろよ! 9年と364日は死んだように眠っててもいいから」とゲキを飛ばし、フロアを笑わせていた。が、大木兄弟が50歳まで揃って生きているどころかこうして現役で活動していて、それを祝うためにこんなにファンが集まっている、そんな2015年が来るとは想像してなかったなあ、俺。と、ちょっと、いや、かなり、しみじみした。


 ファンはご存知のとおり、はるは一度はピーズを活動休止し、音楽の世界から完全に足を洗い、調理師免許をとって和食屋→中華料理店で何年も働いていた人である。そして、それ以前もそれ以降も、常に「生きることと死ぬこと」と「自分が常にその両方に直面していること」に、正面から向き合い続けて、歌を作ってきた人である。再始動後はそんなことなくなったが、活動休止前は、はっきり言っていつ死んでもおかしくない人だと僕は思っていた。


 片やトモは、どんなギリギリな状況でも、発想の転換や新しい視点の導入によって、人生を楽しくしたり、どうにもならないことを笑い飛ばしたりする方法を歌にしてきた人だ。


 TOMOVSKYになってから、ではない。バンドブームの寵児だった頃からずっとそうだ。カステラのボーカリストとして世に登場した頃、つまりかわいくて過激でおもしろいバンドだと思われていた時代の「ビデオ買ってよ」や「チェンジちゃんのテーマ」といった曲たちも、実はそういう歌であることを、後年本人はインタビューで明かしていたし、ちゃんと聴けばそれはあきらかだろう。


 カステラ→コングラチュレイションズで8年、活動をTOMOVSKYに絞ってから20年の大木知之。Theピーズ結成から28年、度重なるメンバーチェンジや5年近い活動休止など本当にいろいろあったが、2002年の再始動以降は不動のメンバーでコンスタントに動き続けている大木温之。50歳になってまだやっている大木兄弟のしつこさ、そして10年経っても20年経っても30年近い年月が流れても、そんな彼らをまだ観に来るファンのしつこさ。双方のしつこさが、本当に幸福な空間を作り上げた3時間でした。(文=兵庫慎司)