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年末企画:小野寺系の「2015年 年間ベスト映画TOP10」

2015年12月27日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『妻への家路』© 2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

1. 妻への家路
2. マジック・イン・ムーンライト
3. 毛皮のヴィーナス
4. マッドマックス 怒りのデス・ロード
5. バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
6. GONIN サーガ
7. 雪の轍
8. キングスマン
9. 母と暮せば
10. 神々のたそがれ


参考:異端の日本映画『GONIN サーガ』が描く美学ーー根津甚八を蘇らせた石井隆の作家性とは


 コントロールされる大衆、迫害されるマイノリティ。政治や宗教や偏見や差別や資本家や暴力が一度に追走してくる地獄と、その「反撃」を描いた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、まさに2015年を代表する「現代の映画」であり、セリフに頼らない雄弁な映像は、サイレント映画をリスペクトした、映画の根源的感動にあふれています。私が映画を観ていて、「すごい!」と思わされるのは、世の中や自分の持っている既存の価値観をひっくり返すような力を感じた瞬間で、その源泉には、映像分野を開拓し改革する「新しさ」と、表面的なトレンドに惑わされない「普遍性」が存在しています。


 その観点において、その上位3作品はさらに衝撃的でした。マゾッホの原作から映画の始原的法悦世界へと至る悪魔的な傑作『毛皮のヴィーナス』。また、過小評価されている『マジック・イン・ムーンライト』は、『冬の光』などのベルイマン映画の裏返しとなる涜神的なロマンスで、いまこんな映画を撮るなんてすごすぎる!と思わされる、ウディ・アレン監督以外には撮れない、彼の近年の代表作といえる映画になっています。


 そして1位に選んだ『妻への家路』は、始まりから終わりまで、観客の涙を延々と絞り取り続けるという、催涙ガスのようなおそろしい作品でした。そこにはいかにもあざとい映画的な「仕掛け」があるわけですが、その裏には、文革時代への強い怒りが隠されており、チェン・カイコー監督の自伝的書籍「私の紅衛兵時代」で、時代の犠牲になって狂死した少女の孤独な無念を想起させるもので、監督のチャン・イーモウが、彼から受け継いだ、力強くやさしいまなざしを感じました。


 どれも素晴らしかった2015年のスパイ四大作で、一番のお気に入りは『キングスマン』。私が最も敬愛するスパイ映画であるコメディー、『カジノ・ロワイヤル』(1967)の精神を受け継いでいたのが嬉しかったです。また、レイモンド・カーヴァーを下敷きとした『バードマン』、チェーホフ文学をトリビュートし、「正しいこと」の暴力性を描く『雪の轍』、これこそ真の「スター・ウォーズ」と思わされた『神々のたそがれ』など、これ以外にもすばらしい映画が多く、2015年はベスト作品選定者を悩ませる豊饒の年だったと思います。


 『GONIN サーガ 』、『キングスマン』、『母と暮せば』については、リアルサウンド映画部の記事で詳細なレビューを書いていますので、ぜひご一読を。(小野寺系(k.onodera))