トップへ

二宮和也とビートたけし、『赤めだか』で師弟愛をどう描く? キャスト陣の実力を読む

2015年12月27日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『赤めだか』公式サイト

 年末年始は大型の特別ドラマが最も多い時期だが、今年は超目玉の作品がある。12月28日(月)に放送される立川談春原作の『赤めだか』は、累計18万部のベストセラー。「不世出の天才落語家」立川談志と、「平成の名人」立川談春ら弟子たちの師弟愛を描いた名作が、発売から7年半の歳月を経て、いよいよ映像化されるのだ。


参考:二宮和也『赤めだか』、東山紀之『信長燃ゆ』……年末年始のスペシャルドラマを一挙紹介!


 期待感をかき立てるのは、意義深いキャスティング。談春を演じる二宮和也は、『拝啓、父上様』『フリーター、家を買う。』のようなヒューマン作に相性が良く、落語家を演じるために必要な話術においても、同世代を凌駕するスキルを持ち合わせている。さらに二宮は、年始の特別ドラマ『オリエント急行殺人事件』で野村萬斎、西田敏行、佐藤浩市と共演したときのように、大物と対峙するほど輝きを増すタイプの俳優だ。


 『赤めだか』での大物は、もちろん談志を演じるビートたけし。もはや説明不要の重鎮だが、かつてたけしは談志に弟子入りして「立川錦之助」という高座名をもらい、本人の前で落語をかけたことがあった。毒舌とブラックユーモアを押し出す芸風に加え、照れ屋で不器用な人柄もどこか似ている。談春が「談志の弱さまで演じられる唯一の人」と絶賛しているように、芸への真摯な愛とムチャクチャな言動がシンクロした、まさにハマリ役だ。


 実質上のダブル主演となる初共演の2人がどんなかけ合いを見せるのか……というより、「上の者が白いと云えば黒いもんでも白い」のが落語界のならわし。とりわけ談志の立川流は、どの流派よりもその傾向が強いため、「高圧的に攻めるたけし」と「タジタジになりながら守る二宮」という関係性が見物となる。談志をよく知るたけしも、談春との共演歴がある二宮も、本人の佇まいをリアルに再現できるだけに、落語シーンを含め、その一挙手一投足に注目してほしい。


 2人を取りまく登場人物も個性派ぞろいだが、最注目は同じ前座として修業に励む仲間たち。ライバル的な存在の立川志らくに『釣りバカ日誌』の好演が記憶に新しい濱田岳、のちに『たけし軍団』のダンカンとなる立川談かんに柄本時生、さらに、立川談々に北村有起哉、立川ダンボールに新井浩文、立川関西に宮川大輔と、芸達者なコメディ巧者が並ぶ。談春を含めた前座の6人が、談志から無理難題を言われ、家事を押しつけられるドタバタ劇は、やたらおかしく、どこか哀しく、彼らのお笑いセンスが引き出されている。


 さらに、兄弟子の立川志の輔に香川照之、高田文夫にラサール石井、談春の両親に寺島進と岸本加世子、本人役として春風亭昇太、春風亭小朝、中村勘九郎、三遊亭円楽が出演するなど、年末の特別ドラマらしい豪華なキャストがそろった。


 肝心の物語は、「談志の破天荒な人柄と生き様を弟子の視点から見つめる」という図式。しかし、スタッフが本当に描きたいのは、「どんな世界よりも濃密な落語界の師弟関係」だろう。一般企業ではパワハラでしかない師匠の振る舞いも、談志と談春の関係においては当てはまらない。談志の理不尽な言動にどれだけ戸惑っても怒っても、結局、談春の心は師匠への憧れで満ちているからだ。また、両者には“落語への絶対的な愛”という揺るぎない共通点があり、「クセのある師匠をあえて選んだ」弟子と「選ばれて入門を許可した」師匠の間には計り知れない信頼関係がある。そんな2人の不器用でまっすぐな愛情表現が、このドラマの醍醐味と言ってもいいだろう。


 プロデューサー・伊與田英徳と脚本家・八津弘幸は、『半沢直樹』『下町ロケット』などを手がけた名コンビ。一方、演出はドラマから映画、バラエティ、MVまで、さまざまな映像作品を手がけ、業界内でのファンも多いタカハタ秀太が務める。タカハタ監督の基本スタイルは、「リハーサルなしでいきなり本番を撮る」というもの。その上で「一発OKが多かった」のは、緊迫感のあるムードの中、キャストの研ぎ澄まされた集中力とスキルが発揮されたからではないか。


 『赤めだか』は、単に特殊な世界を描いただけではなく、「師弟関係とは?」「仕事に挑む姿勢とは?」という普遍的なテーマを考えさせてくれる作品。落語に興味のない人にもぜひおすすめしておきたい。(文=木村隆志)