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高橋優が、全身全霊の笑顔で届けた歌の力 『笑う約束』ツアー日本武道館レポート

2015年12月26日 14:41  リアルサウンド

リアルサウンド

高橋優

 デビュー5周年を記念したベスト・アルバムを引っ提げて臨んだ『笑う約束』ツアーは、<ホール編><アリーナ編>を含め全箇所SOLD OUTという大成功を収め、12月23日の神戸ワールド記念ホールをもって無事に終了した。よりアグレッシヴにより直接的に、たくましさを増した高橋優の姿を見せつけた今回のツアーは、5年間の集大成というよりはここから始まる未来へのスタート地点と言えるものだった。ここでは12月6日に行われた日本武道館2DAYSの二日目、“約束の武道館”と題した公演の模様を、あの大きな空間を埋め尽くした熱気を思い起こしながら振り返ってみよう。


 とにかく冒頭の3曲、「今を駆け抜けて」「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」「陽はまた昇る」の、ラウドロックか?と思うほどに爆音のバンドサウンドにいきなりのけぞる。これまでのツアーよりはるかにデカくパワフルな音像。驚くべきはサウンドよりも高橋優のボーカルがさらにデカく、スクリーンに歌詞の字幕が付くのだが、まったく不要なほど言葉がはっきりと届いて来る。フォークソングのイメージもある高橋優だが、ライブでは完全なロック・シャウターだ。オーディエンスの反応も、ここはフェスか?と思うほど熱狂的で、「パイオニア」の強烈な四つ打ちに合わせて飛びはね、「こどものうた」の激しくたたみ掛けるリリックに大歓声を上げる。「現実という名の怪物と戦う者たち」も、原曲の持つ痛みや鋭さよりもサウンド全体の包容力や共感が強調されて、明るく前向きな応援歌のように聴こえる。四の五の言わせずパワーでねじ伏せるように、前半は圧倒的なパフォーマンスが続く。


 メンバー紹介と軽いジョークを交えたトークをはさんで、空気が少し変わった。後半のヴァイオリン・ソロの艶やかな音色が印象的な「誰がために鐘は鳴る」や、明るく軽やかに弾む「花のように」など、ミディアム・テンポの曲調にほっこり心和んだところで、5周年記念ライブらしく、過去を振り返るドキュメント映像がスクリーンに映し出される。舞台は、約13年前のアマチュア時代にストリートで弾き語りをしていた場所、札幌の狸小路商店街のシャッターの前。続いてアコースティック・ギターを持った弾き語りで3曲歌った中で、特に「誰もいない台所」は圧巻だった。青春期の鬱屈、淋しさ、愛、希望などがないまぜになったナイーヴなこの曲を、泣きながら叫ぶようなド迫力で歌いきった。バンドだろうと弾き語りだろうと、歌のパワーと言葉を届ける強さにまったく変わりがない。ボーカリストとしての自負を見せつけるように激しく歌う高橋優を、オーディエンスは身じろぎもせずに聴いている。


 「未だ見ぬ星座」からは再びバンドが戻り、背後には星空を模した無数の灯りが美しく瞬く。曲が終わると静かに語り出し、秋田を離れて10年以上ずっと自分の居場所を探してきました、でも最近は“誰かの居場所になるのも、大事な目的だと思うようになりました”と前置きして歌った「おかえり」は、その包容力と共感力の高さ、飾らない親密な歌いぶりのおかげで、この日最も深く強く胸に沁みた曲の一つになった。リアルタイムシンガーソングライターというのは、デビュー当時の高橋優のキャッチコピーだが、デビュー当初に「おかえり」のような歌詞が書けたとはちょっと想像できない。今だからこそ歌うことのできる歌を作る、リアルタイムを更新してゆく。それが高橋優というシンガーソングライターのアイデンティティだ。


 “ここから熱くなろうぜ武道館”、という雄たけびと共に後半が始まり、再びバンドのロック魂に火がついた。明るい「BE RIGHT」もシリアスな「太陽と花」も、狂騒的な「オモクリ監督~9時過ぎの憂鬱を蹴飛ばして~」も、猛烈にラウドに激しく一気に駆け抜けてゆく。その終着点が「泣ぐ子はいねが」で、秋田名物ナマハゲの巨大な面がステージ後方で睨みを利かす中、タオルを振り回しながらステージを左右いっぱいに走り回る高橋優。アリーナ、一階、二階を巻き込んで繰り返されるコール&レスポンス。もはやライブでは絶対に欠かせない、笑顔で盛り上がる定番曲に、大歓声が鳴り止まない。そして本編を締めくくる22曲目「明日はきっといい日になる」。ベスト・アルバムに収録されていた、これが高橋優の最新の気持ちだ。吹っ切れたように明るいメロディと軽やかなビートに乗せて、明日はきっといい日になる、と歌う言葉が幸せのおまじないのように響いてくる。オーディエンスも笑顔で大合唱だ。


 アンコール。これもベスト・アルバムに初収録された楽曲で、ファンからのリクエストで選ばれた「リーマンズロック」。実話に基づく極めてシリアスな歌詞ながらも、さぁ胸を張れ、生きていけ、という明るい言葉が救いを生む、力ある応援歌だ。2曲目は、明るいシャッフル・ビートの「微笑みのリズム」。そして最後の1曲を歌う前に、高橋優が客席に呼びかける。


「みなさんがそれぞれの日常に戻ったあと、日常の中に今まで以上の笑いがたくさん溢れていますように、という願いを込めて」


 最後の1曲は「福笑い」だった。途中で高橋優がマイクを客席に向ける。湧き上がる今日一番の大合唱。どこを見渡してもみんな笑顔だ。『笑う約束』というテーマにふさわしく、最後にみんなが笑顔になるために全身全霊を傾けて歌われた全25曲、約3時間。歌の持つ力とはどういうものかということを、あらためて感じさせてくれるメモリアルなライブだった。(文=宮本英夫)