僕は嫌いなタレントが多い。恐らく日本一と言っても良いぐらいで、いつも勝手にレッテルを貼って一方的に嫌う。一番めんどくさいタイプの視聴者だと思う。そんな僕が数少ない「好きなタレント」として挙げているのが、ドランクドラゴンの鈴木拓だ。
お笑いタレントとしては相方の塚地武雅の方が活躍しているが、鈴木もかなり頭の回転が速く、弁が立つ人物である。ところがその才覚を発揮できる舞台がなかなかない。あるいは本人も意図的にその素顔を見せないようにしているのか。
悲しいことに、ドランク鈴木という名前を耳にして、多くの人が思い浮かべるのが、フジテレビの「逃走中」で見せた態度絡みの炎上ネタ芸人だろう。(文:松本ミゾレ)
学生時代は文句ばっかりだった鈴木、おとなしかったさかなクン
12月18日放送の「中居正広のキンスマスペシャル」(TBS系)をぼんやり眺めていると、いつもハイテンションな魚博士、さかなクンとドランク鈴木が登場した。意外な組み合わせだが、2人は中学・高校の同級生。そして今回が初の共演だという。
「あれ? さかなクンって年齢は非公表じゃなかったっけ?」と思っちゃったけど、鈴木は現在40歳なので、さかなクンもまあ、そういうことになる。さかなクンの秘密を、1つ解き明かした気分になれた。
20秒に1回は生じるさかなクンの嬌声を聞き流していると、撮影班は2人の故郷に向かっていた。神奈川県綾瀬市。ここでさかなクンと鈴木は青春時代を過ごしたのである。目的地は北の台中学校。言うまでもなく2人の育った母校だ。
懐かしの校内に足を踏み入れると、2人の恩師である鈴木先生との素敵な再会が待っていた! 鈴木先生は、さかなクンの部活の顧問でもあり、鈴木の担任でもあったという先生。鈴木が2人登場して、ちょっと書いてて頭がこんがらがってきた。
鈴木先生によると、さかなクンは在学中、とっても静かで大人しい子だったという。これには先生じゃない方の鈴木も「そうそう、すげえおとなしかった」と賛同。一方で生徒だった頃の鈴木はと言うと、授業中文句ばっかり言う生徒だったそうだ。
大学受験に失敗したさかなクンへの一言がずっと心残りだった
せっかく母校を訪れた2人。いい機会なので生徒たちの前で特別授業を行うこととなった。
このときの鈴木の様子が、なんとも目に優しい。生徒の前でカサゴの説明をするさかなクンに促され、「んだよ手ぇ洗ったばっかなのによぉ」と言いながらも、カサゴの大きな口を開いてみせる鈴木。
その後も息の合ったやり取りを見せる2人。普通に鈴木が良い人間に見えてくる。ほとんどのバラエティでは見せることのない顔だ。さらに印象的だったのが、さかなクンに対して鈴木が「謝りたいことがある」として、長年胸に秘めていた思いを吐露する場面だ。
それは高校3年生のさかなクンが、一芸入試である大学を受けたときのこと。当時さかなクンは、その大学の面接で「あなたの一芸は何ですか?」と問われた際に「魚です」と答えていた。
今でこそさかなクンの知識は日本中に知れ渡っているが、当時はまだまだそんなことほとんど知られていない。「魚です」という答えは、大学側にとっては理解しがたいものだったようで、さかなクンはこの受験に失敗してしまった。
その話を耳にした鈴木は、落ち込むさかなクンに対して「お前、魚で受かるわけないだろう」と茶化した。すると普段は大人しいさかなクンが、珍しく鈴木に対して怒りをぶつけてきたという。
20年以上前の発言を謝罪する鈴木はいいやつ
鈴木は、いつもは言葉を荒げることのないさかなクンのその様子を見て、彼が一生懸命やってきたことを馬鹿にしてしまったことを、かなり悔いたそうだ。そして卒業後もずっとこの一件は心残りになっていたと言う。
今回の共演は、かつての自分の発言でさかなクンを傷つけたことを謝罪する、良い機会だったのかもしれない。鈴木は真摯に、「本当に申し訳なかった」と謝罪していた。
何十年も前の自分の発言を覚えていて、その発言で誰かを傷つけたかどうかを気にかける。
そんなことをずっと長いこと胸に留めていたということは、やはり鈴木は巷で言われるほど酷い人間ではないように思える。
というか世間には、普段は良い人の仮面をかぶっておきながら平気で他人の心を傷つける人間が多いだけに、むしろ皆が見ている前で子供の頃の至らない言動を謝罪する鈴木はまともな大人に見えた。
まあ、肝心のさかなクンは、そもそもそんな話を一切覚えていなかったんだけど。自分の非を感じて、傷つけた相手に対して謝る。たったこれだけのことだけど、それが出来ない人を僕は大勢見てきた。たったこれだけのことなのだから、僕はそれが出来る人になりたい。
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