2015年12月26日 09:01 弁護士ドットコム
成人男性がお金を払って、18歳未満の少女と会い、性的な行為を行う「援助交際」が社会問題化したのは、20年近くも前のことだ。しかし今もなお、「援助交際」は10代の少女を取り巻く深刻な問題となっている。
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「13歳のころから援助交際をしているが、この生活から抜け出したい」。買春やアダルトビデオへの強制出演など、性的搾取の被害者を支援する「NPO法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」には、このような相談が寄せられるという。
援助交際をする生活から抜け出せない背景には、どのような事情があるのか。「ライトハウス」代表の藤原志帆子さんと広報・アドボカシー マネージャーの瀬川愛葵さんに話を聞いた。(取材・構成/瀬戸佐和子)
――女子中高生は、何がきっかけで援助交際を始めてしまうのでしょうか?
藤原:まず、「援助交際」という言葉ですが、少女たちと大人が同等の立場で取引をしていて、少女たちが自分の判断で行動をしている、というような表現ですよね。児童買春という犯罪をこのような言葉に置き換えてしまう社会こそ、問題だと思いませんか。
また、どうして少女は援助交際をするのかという質問ですが、買われる少女たちにのみ焦点が当てられる傾向も違和感を感じます。なぜなら、買春をする大人たちはいつの時代も「匿名」だからです。
日本における児童買春の処罰は、他の先進国やアジア隣国と比べて軽度なもので、社会的な制裁もほとんどありません。処罰されるリスクが低く、社会的にも「買う側」を問題視する意識が希薄な状況では、買春者は繰り返し10代の性を買います。
瀬川:少女たちがなぜ援助交際に巻き込まれてしまうのかと問うとき、日本にはこのように「児童が買われ続ける土壌」があることをまず理解する必要があります。
援助交際を強いられる少女たちの背景は様々ですが、家庭内で性虐待を受けていたり、家庭環境が複雑な女の子たちがいます。家が安心できる安全な場所でないため、彼女たちは家に帰りたくない、帰れないのです。そして、そのことを相談できる大人が周りにいないとき、一晩だけでも家に帰らずに済むようにと、援助交際にたどり着くケースがあります。
自分を守ってくれるはずの大人や信頼していた大人からの暴力により、子どもたちは人間関係への不安を常に抱くようになります。その孤独感から、ときに自分たちを利用するような人が近づいてきても、それを受け入れることがあります。その相手が自分を必要としてくれたり、寂しさを埋めてくれるのならば、なおさらです。
援交相手や、性産業のスカウトマン、彼女たちを買う客が、その寂しさや孤独感を満たす存在になってしまうのです。「優しくしてもらったから、援交したけどお金はいらない」という子もいました。
藤原:援助交際をするか、自分の居場所がない家に帰るかの二者択一の中で、援助交際から抜け出せない子は多いです。
瀬川:相談支援をしていて出会う子の中には、「家で性虐待を受けるくらいなら、援助交際のほうがまだマシだ」と考える子もいるようです。家での性虐待は、自分の意志に関係なく毎日同じような時間帯に被害を受けるもので、拒否できない。でも、援助交際は自分で少しはコントロールできるし、お金ももらえる場合が多い。
もちろん、赤の他人と一緒に過ごすことには恐怖を感じていると思います。「これから援交するよ」とLINEで私たちに伝える子もいます。連絡をするということは、他の人に知っておいてほしいといった複雑な想いがあるのでしょう。何も怖くないなら、他の人には言わないと思いますから。
――援助交際について、「買った側だけが処罰されるのはおかしい」「子どもが自ら援助交際を持ちかけていたら、その子にも非があるのでは」という声があるようです。
藤原:どんな状況の子であっても、大人が「その子が自ら援助交際をしたから悪い」とは、絶対に言えないと思います。
しかし、私たちの社会には、子どもたちに自己責任論を押し付ける風潮があります。「彼女たちが16歳や17歳だとしても、性を売ると決断した事実を尊重するべきだ。だから被害者ではない」という世論も、一昔前までは特に強くありました。主に買春者、そして少女たちをビジネスにする斡旋者たちの詭弁ですね。
しかし、児童買春・ポルノの被害が深刻になり、被害児童の若年化も明らかになった上、子どもの貧困という大きな問題に日本中が直面している中、そんな認識は通用しません。
すごく切なかった話ですが、「援交する代わりに、コンタクトレンズの消毒液とレンズを買ってもらう」「メイク道具を買ってもらうために援交した」という子もいました。貧困は、子どもたちが性産業に取り込まれるひとつの大きな背景になっていると思います。
と同時に、先ほどお話しした通り、家庭の経済状況にかかわらず、家庭環境や孤独感が背景にある場合もあります。子どもたちは、援助交際をせざるを得ない状況に追い込まれているのです。
――日本社会の構造にも何か原因があるのでしょうか。
藤原:自分の尊厳や権利、また、体や性のことに関する知識を身につける機会を、私たちは子どもたちに十分に与えていないと思います。学校や家庭で、自分の性や恋愛に向き合って話し合う機会は、日本では文化としても、制度としても、確立されていません。
子どもたちと性の話をしていると、いかに子どもたちが、漫画やネットで得る性の情報を頼りにしているかがわかります。商業目的で作られた大人の男性向けの性の情報に翻弄され、混乱しています。小学生でも性的搾取被害に遭っている現状がある今、性の権利や性と体の情報は早い段階から子どもたちに伝えていきたいものです。
瀬川:日本の過激なアイドル文化にも問題があると思います。未成年を含む若い女性が露出度の高い服を着て、テレビや雑誌で取り上げられ、社会的に大きな支持を得ているのを見ると、「ああいう見せ方が普通なんだ」「私もあんな風に注目されたい」と思う女の子も多いのではないでしょうか。
子どものときから女性を性的商品として宣伝するメディアや広告に触れていたり、日常的に痴漢被害にあっていたり、大人に援助交際を持ちかけられたり、裸の写真を送るよう要求されたりしていると、自分の体は需要があるとか、商業的価値があるということが、幼いながらもわかるんですよね。
――援助交際がきっかけで、犯罪に巻き込まれてしまうケースもあるのでしょうか。
瀬川:子どもの性を買う行為である「援助交際」自体が犯罪だと思いますが、たとえば、性行為の様子が撮影され、ネットで配信されてしまった、というケースもあります。
藤原:「自分の裸の写真を送った相手から、恐喝されている」という相談も、2009年ごろから増えはじめました。お小遣い稼ぎや「周りの友達がみんなやっているから」という軽い気持ちで写真を送った結果、「ばらまかれたくなかったら、今度会わせろ」と脅されるなどの被害にあってしまうのです。
瀬川:アメリカでは、未成年ではない童顔のモデルが、ヌードで雑誌の表紙をかざると、「これは児童ポルノではないか」と一般市民から声があがって問題になります。
藤原:一方、日本では、「着エロ」と呼ばれる、15歳以下の女の子にヒモのような小さな水着を着せ、わいせつな行為をさせて撮影した動画の配信サイトやDVDレーベルが多数あります。需要もあります。そういう現状に対して、私たちのような団体はもちろん声をあげますが、一般の人が声をあげず、野放しにされているのが、アメリカなどとの大きな違いではないでしょうか。
日本では、電車の中吊り広告やコンビニで、水着を着た16歳の女の子が普通に雑誌のグラビアを飾ってますよね。欧米ではもちろんですが、他のアジアの捜査官からも、「これはうちの国ではあり得ない」と言われます。「日本のペドファイル(児童性虐待者)”文化”は深刻だ」と指摘されています。
――ライトハウスに相談を寄せた人に対しては、どのようなサポートをしているのですか。
藤原:お話をうかがい、必要であれば、病院や弁護士などにつなぎます。親から極限までネグレクト(育児放棄)されていて、繁華街で男性に声をかけられて援交していたような子に対しては、児童相談所などの福祉につなげたこともあります。
また、相談を寄せてくれた子と引き続きつながっていくために、定期的にLINEで連絡を取っています。そのとき、「また援交するの?」「ダメだよ」などと責めるようなことを言うと、向こうから連絡を絶ってしまいます。本人を否定するようなことは言わず、「今日ご飯食べた?」とか、体調を気遣ったり、危ない目にあったらどこに連絡・相談すべきかといった、身を守る方法を伝えています。
瀬川:援助交際をしたり、性虐待を受けている子をそのままにしておくことが良いとは思っていません。本当は、すぐに駆けつけて、どうにか環境を変えてあげたい。もどかしいです。ただ、アクションを起こすタイミングは、すごく大事だと思っています。
親や周りの大人から暴力や性虐待を受けて、どんな大人も信じられなくなっている子が多いです。また、本人にある程度「この生活から抜け出したい」という意志がないと、私たちが介入しても、すぐ元の状態に戻ってしまったり、親との関係が余計に悪化する可能性もあります。
支援が途切れないように、少しずつ関係を深めていって、この先どういう支援につなげるべきかを慎重に考えながらサポートしています。
※ライトハウス・人身取引被害専用ホットライン
電話:0120-879-871(月~金/10時~19時)
メール:soudan@lhj.jp(24時間365日受付)
LINE: LH214(http://line.me/ti/p/VkQXNT_gFeよりアクセス)
(弁護士ドットコムニュース)