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年末企画第2弾:牛津厚信の「2015年 年間ベスト映画TOP10」

2015年12月24日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

1. マッドマックス 怒りのデス・ロード
2. キングスマン
3. アメリカン・ドリーマー 理想の代償
4. 海街diary
5. セッション
6. サンドラの週末
7. ヴィヴィアン・マイヤーを探して
8. 恋人たち
9. 光のノスタルジア
10. ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション


参考:年末企画第1弾:宇野維正の「2015年 年間ベスト映画TOP10」


 今の時代、一つ揺るぎないものがあるとすれば、それは誰もが不安であるということ。映画メディアだって同じだ。一寸先は闇。そこにマックスが、そしてフュリオサが現れた。彼らは、一度は砦を離れる。が、いつしかもう一度、可能性を見出し、凱旋を遂げるのだ。その意味で『マッドマックス』は映画を体感する喜び、そして映画の多様性を再発見させてくれた。この先、リュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』と似た位置付けで語り継がれていくかもしれない。


 スパイ群雄割拠の年でもあった。『007 スペクター』も大満足だったが、同じ古参シリーズとしては個人的に『ミッション~』に軍配を上げたい。フィジカルな魅力の中にノスタルジーや重厚さをも加味し、プロットにも覇気が感じられたから。しかしそんな頂上決戦を尻目に、私の中では予想外にも『キングスマン』が下克上を果たした。伝統と革新を貫く英国らしさ。思い切りの良さ。実に痛快。


 『アメリカン・ドリーマー』も才気あふれる怪作だった。80年代のNYを舞台にした映像的な迫力と、役者陣の静かな凄みがたまらない。俊英J・C・チャンダー、見事に殻を破り、突き抜けた。


 『海街diary』は、観る者の身体にすんなりと染み込む岩清水のようで、人生の折々に見返したいと素直に思えた。一方、『セッション』における、ギリギリの精神状態に追い込まれ覚醒する、という筋書きは多くのジャンルに通底する普遍的なファンタジーでもある。心理的な衝撃度は今年ダントツ。


 現代版『十二人の怒れる男』とも思しき『サンドラの週末』では、素直にヒロインを「がんばれ!負けるな!」と応援した。そして『ヴィヴィアン・マイヤー』。ドキュメンタリーと思えない展開に目を丸くした。才能の神様に魅入られた凄い人は、案外、私たちのすぐ隣にいる。


 『恋人たち』は、この世の不安や絶望に微かな光を提示してくれた。多分私はこの映画を『マッドマックス』と同じ意味合いで愛している。また『光のノスタルジア』は、星空を望むこと、砂漠に埋もれた悲劇を掘り起こすことを静かに融合させていくドキュメンタリー。私にとって歴史書、哲学書、そして詩集にも匹敵する一作となった。(牛津厚信)