12月18日に日本生産性本部が「日本生産性の動向 2015年版」を発表した。それによると、2014年度の物価変動を加味した実質労働生産性上昇率はマイナス1.6%。5年ぶりのマイナス成長となっており、前年度からは2.8ポイント低下している。
そして、この数字をOECD加盟国と比較したところ、日本は34カ国中21位だった。主要先進7カ国では最も低い水準だ。日本の労働生産性は就業1時間あたり41.3ドルで、先進国トップのアメリカ(66.3ドル)より25ドルも低くなっている。
ただ長時間働いているだけで「勤勉」と言えるのか
日本の労働生産性の低さは以前から知られたことではあるが、産経新聞が、この結果を受け、都内で会見した日本生産性本部の茂木友三郎会長のコメントを紹介している。
「日本は勤勉な国で、生産性が高いはずと考えられるが、残念な結果だ」
「労働人口が減少する日本が国内総生産600兆円を達成させるためにも、生産性の向上が必要で、特にサービス産業の改善が求められる」
労働政策研究・研修機構のデータを参照すると、日本の平均年間実労働時間(2013年)は1735時間で、先進国中だとアメリカ(1795時間)、イタリア(1752時間)に次いで3位。しかし、長時間労働者の割合を見てみると、21.6%とトップになっている。2位のアメリカは16.4%なのでダントツだ。たしかに、日本人が一生懸命働いていることは間違いなく、見方によっては勤勉性が高いといえる。
だが、勤勉性と生産性は比例するのだろか。このコメントに対して、ネットからは疑問の声が寄せられている。そもそも日本は単に労働時間が長いだけで、効率が悪いというのだ。その理由として無駄な残業や会議、手書き文化が未だ強いことなどがあがっている。
「だらだら仕事してボンヤリ残業するのが美徳とされてる国が生産性いいはずがない」
「今だに履歴書手書きとかいってる段階で生産性悪いの当然」
「稟議書(笑)打ち合わせ(笑)持ち帰って検討(笑)タイムカード(笑)」
サービス産業は「頑張れば頑張るほど生産性が下がる」という指摘も
他に、「また根性論かよ。頑張れば効率性あげると思ってんの?」という声もあがっていた。日本企業では、短い時間で成果を出した人にさらに業務を押し付けてくる可能性もあるため、「だって、真面目に頑張るほど、馬鹿見るし損するんだもん」と訴える人もいた。
労働政策研究・研修機構の主席統括研究員の濱口桂一郎氏も、産経新聞の記事を受けて「勤勉にサービスしすぎるから生産性が低いのだよ!日本人は」というブログを19日に更新している。
茂木会長は「特にサービス産業の改善が求められる」と語っていたが、濱口氏は「(サービス産業は)頑張れば頑張るほど生産性が下がる一方」と指摘。サービス産業の生産性は製造業のように物的生産性がないため、そのサービスがいくらで売れたかによって決まる。
サービス産業が生産性をあげるためには、「もっと少ないサービス労務投入量に対して、もっと高額の料金を頂くようにするしかありません」という。そのため、茂木会長が出したコメントについては、
「日本生産性本部のトップともあろうお方が、こんな認識であったのか、といういささかの絶望感でありました」
と落胆した様子を見せている。
ちきりん「生産性が高いというのは、頑張ってないのに成果物の価値が高いこと」
濱口氏のブログ記事には、はてなブックマークで多くのコメントが付き、「言いたいことを全部言ってくれた感。安く労働させて安く売ってたら付加価値の生産性上がるわけないよね」など賛同の声が寄せられている。
ちなみに、労働生産性に関しては、社会派ブロガーのちきりん氏(@InsideCHIKIRIN)が、2015年の5月に、興味深い内容を投稿している。
「生産性低いですよね?」と指摘すると多くの人が「一生懸命やってる」「毎日遅くまで働いてる」とか答えるが、そうした人はそもそも「生産性」の概念を分かっていないという。
「『生産性が高い』というのは、『頑張っている』ということではなく、『頑張ってないのに、成果物の価値が高い』ってことだと、理解できてないらしい」
やはり、生産性を高めるためには「勤勉性」や「頑張り」といった精神論的なアプローチではダメということだろう。
あわせてよみたい:それでもやっぱり「残業代稼ぎ」をやめない人々