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Acid Black Cherryが武道館公演で融合してみせた、不変のエンタメ性と『L-エル-』の世界

2015年12月21日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

Acid Black Cherry

 どんなスタイルも全て自分のものにしてしまう、ロックアーティストとしての“円熟”--そんな堂々とした姿を見せつけるステージだった。バンドJanne Da Arcのヴォーカル・yasuのソロプロジェクトであるAcid Black Cherry(以下、ABC)が2015年2月リリースのアルバム『L-エル-』を引っ提げて行ったアリーナツアーのファイナルが12月14日、日本武道館にて開催され、超満員の観客が熱狂の渦に包まれた。


 アルバム『L-エル-』は一人の女性の人生を描いたコンセプトアルバム。悲鳴のような歓声とともにステージが暗転すると、『L-エル-』の物語の序章となる映像が流れ、yasuのハイトーンボイスで語るように唄われる「Loves」で公演が始まる。続き披露された「versus G」では早くも会場全体が一斉にヘドバンの嵐となり、ステージで特効が爆発した「liar or LIAR?」でも観客の折り畳みが止まらない。そんなオーディエンスの熱に応えるように、yasuとサポートメンバー(YUKI(Gt/from DUSTAR-3、Rayflower)、HIRO(Gt/from Libraian、La’cryma Chisti)、SHUSE(Ba/from †яi¢к、La’cryma Chisti)、淳士(Dr/from.SHAM SHADE、BULL ZEICHEN 88)たちもパワフルなステージングで飛ばし、序盤からボルテージは最高潮だ。


 2015年のABCは、まさに精力的な活動という言葉がぴったりの一年だった。2月のアルバムリリース後、3月から全国25本のホールツアーが始まり、夏には3カ所で10万人を動員した国内最大規模のフリーライブを開催。そして9月からはアリーナツアーを行い、10ヶ月をかけてアルバム『L-エル-』の世界を作り上げてきた。「ファイナルだけど、みんな元気ある!?」とyasuが問いかけると、オーディエンスからは大きな大きな歓声が。それを聞いたyasuも思わず笑う。


 SHUSEのグルーヴィーなソロから始まり、サビで会場中がクラップで盛り上がる「黒猫~Adult Black Cat~」、アダルトな雰囲気でyasuが熱っぽく唄い上げる「指輪物語」など、『L-エル-』の楽曲とこれまでのABCの楽曲を織り交ぜながら、ステージの色は変化自在に変わっていく。そしてオープニングの続編ともいえる映像と、それから披露された「Round & Round」で、オーディエンスは『L-エル-』の物語にまたぐっと惹き込まれていった。


 アリーナツアーを廻ってから武道館公演があったことで「やっぱり武道館は近くていい」と感じたというyasu。そんな大規模会場が続いたツアーでも欠かさず行われてきたのがTwitter上でファンから寄せられた質問にメンバーが答えていくコーナーだ。さっきまでのステージの怒濤の展開はどこへやら、ざっくばらんなトークタイムが観客を和ませる。この飾らなさもまた、ファンを惹き付けて離さないABC の大きな魅力だ。


 「君がいない あの日から…」からライブは再開。yasuのヴォーカルの力強さと、それをしっかりと支えるサポートメンバーのタイトなサウンドは、まさにベテランたちの底力をしっかりと感じさせるものだった。そして「7 colors」では、それまでのダークな世界観から一転、ポップで明るい雰囲気が会場を包んでいく。


 2回目の質問コーナーを挟み、ライブ終盤はまさに怒濤の展開に。「お前らこんなもんじゃねえだろ!!もっと声だしていくぞー!!」というyasuの叫びとともに「ピストル」、「少女の祈り」が立て続けに披露され、ひたすら続くヘドバンと熱気で武道館はカオス状態。「coad name【JUSTICE】」では炎がステージを取り囲み、本編ラストナンバーの「エストエム」で大熱狂のうちに本編は終了した。


 鳴り止まないアンコールに応え登場したメンバー。ミラーボールで美しく会場が照らされる中披露されたのは「L-エル-」。さらにカラフルなカラーテープが飛び、温かな空気が包んだ「& you」のあと、一度はステージを後にしたメンバーたちだったが、その後もABCを呼ぶオーディエンスの声に応え、再度ステージに登場。「一枚のアルバムでこんなに長いツアーを廻れることはとても幸せ」とyasuはこの一年を振り返り、「この年になるまで音楽ができていると思っていなかった。僕がもっと年をとったとき、このアルバムとツアーを思い出して色々感じるんじゃないかと思う」と感慨深げに語った。さらに一人の女性の人生を描いた『L-エル-』というアルバムになぞらえ、「人生のピークを決めるのは自分次第。愛されることを諦めずに、夢があるなら頑張ってほしい」と、yasuはオーディエンスにエールを送ってくれた。その後は「少女の祈りⅢ」、「SPELL MAGIC」、と、ABCの代名詞とも言うべきヘドバン必至のキラーチューンが続き、「20+∞Century Boys」で大団円のうちにライブは終了した。


 一枚のコンセプトアルバムを丁寧に表現するということと、これまでのABCらしさを失わないこと。このツアー、ひいてはファイナルであるこの日の公演には、そういった高いハードルが課せられていたのではないかと思う。しかしyasuは見事にそのふたつを融合させることに成功していた。それはサポートメンバーを含めた演奏力やパフォーマンススキル、そしてyasuの何よりもオーディエンスを楽しませたいという、エンターテイナーとしての変わらない姿勢があってこそなのだろう。このツアーの横浜アリーナ公演の音源化、そして並行して行われた、数百人規模のレアなライブハウスツアーの映像化、そして武道館公演の映像化が決定している以外、来年以降の活動予定はまだ発表になっていないが、2016年もまた、ABCはシーンを最前線で走り続けてくれるはずだ。(文=岡野里衣子)