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ビートルズ『1+』と共に聴きたい、ブリティッシュ・ポップの秀作5枚

2015年12月20日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ビートルズ『1』

 「究極のベスト」を謳った『1+』がリリースされてから、街に出掛けるとビートルズを聴くことも多い今日この頃。クリスマスにはジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」を聴くだろうし(こういう時代だし)、今年はビートリッシュな年末になりそうだが、ビートルズの魅力のひとつは、技巧的で洗練された英国的ポップ・センス。というわけで今回はビートルズ好きにも楽しんでもらえるような、そして、大人な味わいのブリティッシュ・ポップが詰まった新作をまとめてみた。


 まずは何と言っても、E.L.O.(エレクトリック・ライト・オーケストラ)の14年振りの新作『アローン・イン・ザ・ユニバース』。70年代には数々のヒット曲を送り出して洋楽ファンを虜にしたE.L.O..だが、今回は“ジェフ・リンズE.L.O.”という名義になっていて、リーダーのジェフ・リンのソロ・ユニット色を押し出したアルバム。というか、リンがほとんどの楽器をひとりで演奏して多重録音した宅録アルバムだ。リンはビートルズ・フリークでもあり、ジョン・レノン以外の3人の作品のプロデュースも手掛けてきた男。本作ではビートルズ直系のポップ・センスとリンの持ち味のファンタジックなテイストを純度100%で大放出。とくにメロディーの美しさが際立っていて、そこにはこれまでの人生を振り返るようなメロウネスが漂っている。


 ビートルズと同時期にデビューしたもののアルバム2枚で解散。かつては「ふたりのシーズン」で知られる一発屋的な扱いだったゾンビーズ。しかし、90年代に再評価され、ついに再結成までしてしまった。そんな彼らの最新作『Still Got That Hunger』は、彼らの名盤『オデッセイ・アンド・オラクル』を手掛けたテリー・クワークが再びアートワークを担当。といっても、『オデッセイ・アンド・オラクル』的サウンドを期待して聴くと、ギターが激しく掻き鳴らされるオープニング曲に不安がよぎるかもしれない。でも『オデッセイ~』のイメージを忘れてじっくり聴けば、ゾンビーズらしい繊細なメロディーやジャジーで陰影に富んだポップ・センスが楽しめるはず。コリン・ブランストーンの歌声も70歳と思えないほど艶やかで、大人のブリティッシュ・ロックが堪能できるアルバムだ。


 ゾンビーズと同じく、ファンには嬉しい復活を果たしたのがスクイーズ。80年代にはXTCなどと並び、ブリティッシュ・ポップの伝統を受け継ぐバンドとして愛された彼らの17年振りのオリジナル・アルバムが『Credle To The Grave』だ。現在オリジナル・メンバーはグレン・ティルブルックとクリス・ディフォードの二人で、新メンバーのうち2人はティルブルックのソロ活動を支えるバンドのメンバー。ティルブルックは一人で様々な楽器を演奏していてティルブルックのソロにクリスが合流した形だが、80年代のレノン&マッカトニーと謳われたグレンとクリスのチームワークは健在だ。ソウル、カントリー、クラシックなど様々な要素で味付けしながら、スクイーズらしい人懐っこいポップ・センスが曲の芯にしっかりと息づいている。ちなみに本作は同名のTVコメディ番組のサントラとして制作されたらしく、日本でも放映してくれないかな、と独り言。


 そのスクイーズとはひとまわり下の世代で、90年代にイギリスでは国民的バンドとして人気を誇っていたのがビューティフル・サウスだ。彼らは2007年に惜しまれながら解散したが、現在バンドの中心人物だったポール・ヒートンとヴォーカルのジャクリーン・アボットは男女デュオとして活動中。『Wisdom, Laughter And Lines』は彼らにとって2枚目のアルバムで、二人の息が合ったヴォーカルの掛け合いはビューティフル・サウスそのままだ。そして、なんといっても素晴らしいのがヒートンのソングライティング。60年代ポップスのフレイヴァーを漂わせながら、美しいメロディーと巧みなアレンジでドラマティックに物語を盛り上げていく。思えば今年、ベル・アンド・セバスチャンのスチュワート・マードックが初監督したミュージカル映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』が公開されたが、ヒートンの撮るミュージカル映画もぜひ観てみたい。


 最後は隠れた名盤を。80年代UKギター・ポップ・シーンで異彩を放つジャズ・ブッチャーのギタリスト、マックス・アイダーが87年に発表したソロ・アルバム『キス上手』がリイシューされた。ジャズ・ブッチャーは、ジャズ、ボサノヴァ、ロカビリーなど、なんでもありな駄菓子屋的サウンドでマニアックな人気があったが、『キス上手』ではアイダーの人の良さが全開。メロディーもギター・プレイも親しみやすく、肩の力が抜けていて心地良い。そんななか、ノスタルジックなジャズ・ナンバーが本作の隠し味。「The Best Kisser In The World」なんて原題からもアイダーのロマンティストぶりが伝わってくるが、アルバムを包み込む甘酸っぱさこそ、本作がギター・ポップ・ファンに長い間愛されてきた理由だろう。さらに今回のリイシューでは、未発表曲「Fireflies」のデモ音源をボーナス・トラックとして収録。この自家製ドゥワップ・ナンバーがアルバムにドリーミーな余韻を与えていていて、ほんと和みます。(村尾泰郎)