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ジャニーズWEST、山下智久、ドリカム……なぜJ-POPの歌詞には“物語”が必要なのか?

2015年12月20日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

zopp。

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家やコトバライター、小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。連載第1回では、中田ヤスタカと秋元康という2人のプロデューサーが紡ぐ歌詞に、第2回では“比喩表現”、3回目では英詞と日本詞の使い分け、第4回は“風諭法”に注目してもらった。今回は歌詞の“物語性”について、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらった。


(参考:zoppのプロフィールなどが分かるインタビュー


――今回のテーマは「歌詞の物語性」ですが、実際に物語性のある歌詞を書くときに重要な要素とは?


zopp:タイアップ先の作品を見て「もし自分が主人公だったらどうなのか」とか、主人公に自己投影して、作品に合わせた歌詞にする場合もあれば、その作品の先にある話を描くこともある。自作自演型のアーティストは内面的な描写や、日常の一部分を切り取ることが多いのですが、その分ストーリー性のあるものは少なかったりするんです。でも、職業作詞家が書く詞は、大げさな物語や非日常的なもの、それこそ地球から飛び出ちゃうとか、宇宙にいる話とか、まるで映画のような歌詞を書くんです。


――ファンタジー感ですね。


zopp:はい。だから職業作詞家が書かなきゃいけないのって、映画で言うならば“ドキュメンタリー以外の全て”なんです。ドキュメンタリーを描くべきなのはシンガーソングライターで。その人が書いて歌って、ファンも歌手のパーソナリティを含め、楽曲に共感や感動を覚えるからです。


――作詞家が書く詞も、共感を大事にすると思うのですが。


zopp:作詞家は共感を与えることもすごく重要なのですが、憧れや教訓など、歌詞を通して何かを学んでもらうのも大切だなと考えています。ただ、単純にそれを羅列してもリスナーはなかなか入りづらいので、僕の場合は物語性を入れ、ストーリーを通してメッセージを伝えるんです。小説を書いてみて、やっぱり作詞をする時に必要なのは物語だということがわかりました。


――物語を通して教訓を伝えるのが大事ということですね。ただ、アーティストと作詞家の書く歌詞には、技法的なものを含めて違いがあると。


zopp:僕が講師を務める『作詞クラブ』の学生も、「作詞家をやりたい」と言いながら、自作自演のアーティストが書く歌詞にあこがれ、同じようなものを書いた結果“ふわっとした概念”だけが残り、「何を伝えたいの?」と訊いても「物悲しさ」という一言しか返ってきません。表面的なものしか捉えられずに歌詞を読み解いちゃうんですね。同じ物語性のある歌詞でも、自作自演で表現できないならばそれを武器にして、主人公を高校生やホスト、老人と変えてみることで、作詞家の個性を出すことはできるんです。この連載で何度か伝えている比喩表現が末端の個性とするならば、根本の個性は物語性だと思うので。


――物語を通して色を変えつつ、普遍的なメッセージを伝えるわけですね。


zopp:ポップミュージックに込められたメッセージって、昔からほとんどブレていないんですよ。「幸せになりたい」とか「あの人が好きだ」という概念は変わらず、伝える方法だけが変化し続けているだけで。そうなってくると、やはり物語性が大事になってくるし、その根幹になるものをテクニックでいかにいい歌詞に見せるかが重要だと考えています。


――そんななかで、今回取り上げるのは、ジャニーズWESTが12月9日にリリースしたアルバム『ラッキィィィィィィィ7』に収録されている「Eternal」です。この曲は「Criminal」「Can't stop」から続く物語の続編として書いたものだとか。


zopp:そうですね。僕が書く続編ものの歌詞には、前例として「青春アミーゴ」(修二と彰)→「抱いてセニョリータ」(山下智久)→「口づけでアディオス」(山下智久)という自称“スペイン歌謡曲三部作”というものがありまして。「Criminal」が制作チームとファンの両方から、良い評価をいただいたことを受け、「続編ものを書いてください」と依頼されました。“スペイン歌謡曲三部作”は、時系列がまっすぐ進むように、常にその後の話を描いているのですが、「Can't stop」はエピソード・ゼロ的な、「Criminal」の前日譚を描写していて、「Eternal」では「Criminal」の直後にあたるシーンを題材にしました。伝えたい内容は全て同じで、時系列も「Criminal」から「Eternal」までは半日くらいという設定で、自分の中では“狂愛三部作”と呼んでいます。


――「狂った愛」ですか(笑)。ファンの間でも様々な反応がありますよね。


zopp:続編もので大切なことって、共通語があることだと考えていて。たとえば“スペイン歌謡曲三部作”には<あいつ>というワードが出てきて、いずれも同じ人を指しています。で、今回の場合は<止められない愛>。「Criminal」は<この愛はもう止められない Criminal...>、「Can't stop」は<Can't stop lovin’ you>、「Eternal」のサビは)「愛が止められない止めたくない」と。これ全てに「愛が止められない」という言葉が根幹にあって。あとは舞台設定として、「ハイウェイ」や「車」という名詞があり、前回から続いていることがわかると思います。


――続編で歌詞を書いていく際、まずはキーワードが当てはまりそうな場所を探すのでしょうか。


zopp:入れたい言葉は決まっているので、そこのメロディーに合うようにして探しますし、見つからなかった時は言葉を変えたりもします。サビの頭にキーワードがそのまま嵌ったらラッキーですね(笑)。


――「Criminal」「Can't stop」ときているので、次も「C」を頭文字に入れてくると思ったのですが。


zopp:それをやっちゃうと、今後続編を作ろうと思ったときに「C」縛りになっちゃいますからね……。


――zoppさんの手掛けた歌詞だと、テゴマスの作品も同じ主人公の物語で構成されている、と以前に伺いました。


zopp:テゴマスに関しては、「テゴマス君」という架空のキャラクターの14歳から28歳くらいまでの人生を、各楽曲で描いていますね。あと、アーティストが描く続編的な歌詞だと、THE 虎舞竜の「ロード」や、DREAMS COME TRUEの「未来予想図Ⅱ」が挙げられます。多分これらは、大きな物語を最初から考えていて、その一部を歌詞にしたところ好評だったため、続編を考えたものーーつまり、足し算より引き算的な手法で作られた物語だと考えられますし、その方が洗練されたシーンが残るんです。受け手としても、見始めてしまったら、その物語が完結するまで気になることもあるでしょう。そのワクワクをあからさまに伝えられたらいいなと思っています。


――“スペイン歌謡曲三部作”は、関しては、修二と彰から山下智久へ、別アーティスト名義で続いています。ほかにzoppさんが手掛けた歌詞で、歌唱しているアーティストは違うものの繋がっているという例はあるのでしょうか。


zopp:アニメ『神のみぞ知るセカイ』のキャラクターソングで、中川かのん starring 東山奈央名義の「想いはRain Rain」は、テゴマスの「アイアイ傘」と同じ物語で繋がっていて、前者は女の子目線、後者は男の子目線です。


――確かに、「相合傘」というキーワードも入っていて、同じ雨の情景を描いていますね。


zopp:「アイアイ傘」の主人公は、“相合傘”というすごく密接した状態なのに告白できないで雨が止んじゃったこと、「想いはRain Rain」は女の子目線で「雨が止む前に早く言ってよ」と思っているもどかしい気持ちをそれぞれ描いていて……。昔は作詞家が「先生」と呼ばれ、阿木燿子さんや、阿久悠さんが活躍していたころは、この人が作詞したから聴いてみたいというファンも沢山いましたよね。その人たちからはまだまだ遠いですが、少しでもそういう楽しみを受け手の人たちに見つけてほしくて、このような仕掛けを作っているんです。自分を媒介にして、ファンの人たちが物語を広げていってくれたら、こんな面白いことはないというか。


――なるほど。ちなみに、物語性のある歌詞をスムーズに書けるようになるためのトレーニングなどはあるのでしょうか。


zopp:インプットに関しては、小説を読むよりも30分アニメを見るほうがわかりやすいと思います。30分アニメって前半と後半に分かれているものが多く、間にCMを跨いでも見させてしまうような展開を盛り込んでいますよね。これって、歌詞でいう1番と2番の関係性に近いと思います。今回のテーマのように続編があったとしても、「この後どうなるんだろうな」という状況で一話一話をしっかりと終わらせているので。


――アウトプットの練習には何が適していますか?


zopp:「サプライズ」ですね。友達や恋人の誕生日に仕掛けるのって、起承転結を設定して、プライベートから常に物語を作っていることが多いと思うんです。同じものをプレゼントするにしても、相手や状況に応じて表現の順番も感動の与え方も違うので、やればやるほど鍛えられますし、作詞のときにも自然とその経験が生かされてきますよ。


――歌詞というのはポップミュージックの中で始まって終わる短いドラマということですよね。ただ、これが小説となると、とてつもない量になりますが、作詞とどこまで使う筋肉が違いますか。


zopp:小説の方が作詞よりも親切じゃないといけないような気がします。歌は長くても3、4分なので、放っておいても耳に入ってくるし、我慢すれば聴ける範囲ですが、小説は長丁場だから、少しでも雑になると読み進めてもらえなくなるんです。そう考えると、歌詞は意外と無責任で、表現しなくてもいい所はたくさんあるんだなと感じました。


――表現しなくても、楽曲を通して伝わるメッセージもありますもんね。


zopp:小説は迷子にさせないためにも、ちゃんと説明を補足しなければならず、書き方によっては、キャラクターの目線が変わるシーンもあります。しかし、作詞の場合は、頑張っても主人公の目線に神様の目線が加わるかどうかで、もう一つ視点を入れると3分じゃ足りなくなってしまいますよね。小説の良さは、長いぶん自由度が高く、目線を多様に持たせることができることだと思います。あと、歌詞の場合はメロディーありきなので「音に合いつつ、良い言葉でなければならない」というのが難しい。職業作詞家じゃない人が書く作詞って、ワードセンスはあるけど、音符の伸びや跳ねという性質を無視しているので、曲と合わせると歌いづらいものが多いということからも、作詞独特の難しさがわかると思います。


――そこと小説を書いた理由は繋がっているのでしょうか。


zopp:はい。作詞っていろんな職業の人が書くじゃないですか。タレントさんもアイドルも脚本家も書いていて、言葉の中でも一番キャッチーな職業に見られているように思えたんです。その次にキャッチーだと思われているのが小説家で、こちらも色々な職業の方が執筆をしていますよね。だから、僕は逆転の発想で、作詞家でも小説を書けるし、しっかりとしたブランドを作れることを証明したかったんです。


――そのなかで来年発売される小説「ソングス・アンド・リリックス」で作詞家を題材に選んだ理由は?


zopp:今回はいい機会だったので、作詞家ってこんな人生で、こんなことを考えて、こんな苦労をして生きているんだよと知ってもらいたかったんです。アーティストという媒介を通している以上、作詞家の良さを歌詞で伝えるのは難しいですし。あと、ハードカバーではなく文庫にしたのは、安いので1人でも多くの人に手に取ってもらってシェアしてもらえたらと思ったからです。


――この作品は、作詞家が成り上がっていく過程をzoppさん自身のドキュメントとフィクションの虚実を混ぜながら綴っていますよね。特に後半になればなるほど、過激なテーマに触れていますが、どこまでが本当なのでしょうか?


zopp:前半も後半も虚実のバランスは変えていないので、全体を通して半分半分くらいだというところまでしかお話できないです(笑)。


――なるほど(笑)。また、文中では日本語詞と英詞の違い、言葉の壁なども題材にあがっていますが、これはzoppさんが留学をしていた際に体験したことを踏まえた内容ですよね。


zopp:はい。向こうの歌詞は日本のものと全く違う世界観で奥深いものだということを、訳詞を通じて学びました。だからと言って日本語詞で表現することをあきらめるのはいけないと思うので、僕は少しでもその掛け橋になれればいいと思います。


(取材・文=中村拓海)