トップへ

DISORDERとCHAOS U.Kーー伝説的ノイズコア・バンドの来日公演をISHIYAが徹底考察

2015年12月19日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

川崎クラブチッタ「KAPPUNK」でのDISORDER。左:ベースのタフ。右:ギターのアレックス。( 撮影:菊池茂夫)

 ノイズコア・バンドのDISORDERが2015年10月に、CHAOS U.Kが12月に、続けて来日を果たした。この2バンドにAMEBIXを加えた3バンドこそが、世界中に「ノイズコア」というジャンルを広めたバンドである。AMEBIXをノイズコアと表現することに違和感を感じる人がいるかもしれないが、後述するように、AMEBIXがいなければ、CHAOS U.KとDISORDERのサウンドも生まれなかったはずである。


 彼らは共にイギリス・ブリストル出身のバンドだ。ブリストルと言えば、他にもVICE SQUAD、CHAOTIC DISCORD、LUNATIC FRINGEなどの多くのハードコア・バンドを輩出した街として知られている。今回は、今年来日を果たしたDISORDERとCHAOS U.Kを中心に書いていきたいと思う。


 70年代後期、パンクシーンではそれまでSEX PISTOLSなどのパンク・ロックが主流だったが、CRASSの出現によりハードコア・パンクが台頭し始めた(参考:CRASS映像コラージュ集が伝える、伝説のパンク・バンドからの生々しいメッセージ)。その中でも、DISCHARGEの登場は世界中を衝撃の渦に巻き込み、ハードコア・パンクは一気に広まっていった。その後、GBHやEXPLOITEDなどの素晴らしいバンドが台頭する中、CHAOS U.KとDISORDERは、そのノイジーなサウンドで群を抜き、「ノイズコア」というジャンルを新たに確立していった。ハードコア・パンクスのバイブル的ビデオ『UK/DK』や、当時のイギリスのハードコア・バンドを集めたオムニバスシリーズ『PUNK AND DISORDERY』にも収められたCHAOS U.KとDISORDERは注目を集め、現在でも熱狂的なファンが世界中に多く存在している。


 『UK/DK』の中には、DISORDERのメンバー達が生活する通称“DISORDERハウス”と呼ばれたスクワットでの生活の一部が収められており、そこにはAMEBIXのメンバーも登場するなど、当時のブリストル・パンクス達の生活が垣間見えた。そのようなシーンやCHAOS U.K、DISORDERのライブ映像は、日本のハードコア・パンクス達にも非常に大きな影響を与えた。


 1985年に初来日を果たしたCHAOS U.Kは、そのライブパフォーマンスで日本中のパンクス達の度肝を抜き、一気に日本でのファンを増やした。それまで日本では、DISCHARGEの来日中止があり、CHAOS U.K来日の少し前にGBHが初来日を果たしたのみで、本場のハードコア・パンク・バンドを身近に感じることが出来なかった。


 90年代に入り、DISORDERもついに初来日を果たすが、彼らはCHAOS U.Kと同じブリストル出身のノイズコア・バンドでありながらも、全く違ったタイプのバンドだった。初来日から今回の来日に至るまでの両バンドを比較すると、如実にカラーの違いが現れている。


 筆者は両バンド共に大好きなのだが、「CHAOS U.Kは好きだけど、DISORDERはダメだ」という声もよく耳にする。おそらくDISORDERの全面に渡る“クズっぷり”が、ひとによっては受け入れがたいのだろう。


 DISORDERのハチャメチャさはサウンド面でも現れていて、世界中にある音楽の中でも群を抜いている。ヘタクソでノイジーでグチャグチャで、一般の音楽好きには到底受け入れることの出来ないサウンドだ。人間性もかなり大雑把で、初来日のときにはギターのSTEVEがライブ中に抜け出し、近くの酒屋までビールを買いに行く始末だった。中心人物であり唯一のオリジナルメンバーであるTAFに、イギリスで日本のハードコア・バンドをブッキングしてくれるよう頼んだものの、当日行ってみたらライブそのものがなかった、ということもある。度を越した適当さこそが、彼等の特徴でもあるのだ。


 その“クズっぷり”は今回の来日でも現れていて、楽器はおろか、ピック、シールド、ストラップすら持って来ない。そして演奏もグダグダのクズだったのだが、これぞまさにDISORDERといったライブで、ファンの期待を裏切らなかった。DISORDERのファンは、かなり楽しめたことは間違いない。事実、筆者はかなり面白かったし、変わらぬ態度に感激し、安心もした。泥酔してラリったパンクスが、ゲロまみれになりながら、グチャグチャの演奏で踊りまくるのが、DISORDERのライブの醍醐味ではなかろうか。


 一方CHAOS U.Kは、初来日ライブの衝撃により、日本のハードコアの中心で活動していたバンドに多大な影響を与え、それを期にブリストルと日本のハードコアの交流が始まった。その後、4度の来日を果たし、今回5度目の来日となったが、中心人物であるギターのGABBAは別バンドのFUKでも何度か来日しており、個人的にも来日するなど、日本全国に友人がたくさんいる日本通でもある。


 2度目と3度目の来日では、オリジナルメンバーであるCHAOSがボーカルをとり、パンク・ロック的要素も取り入れた独自のCHAOS U.Kサウンドで、いわゆるノイズコアとは一線を画していたが、初来日時のボーカルMOWERが4度目の来日から復活し、今回の来日では初来日時を上回るほどの完成された演奏とステージパフォーマンスを披露し、日本全国のパンクスにその存在を刻み込んでいった。選曲や曲順も素晴らしく、MCや曲間がなく一気に疾走するライブは圧巻そのもの。往年のファンを唸らせ、新しいパンクスを虜にしたことは間違いないだろう。


 当初、今年この2バンドは一緒に来日する計画があったが、CHAOS U.Kの事情により来日時期がずれてしまった。もし一緒に来日していたらと思うと残念でならない。日本にひとつの歴史が刻まれるほどの凄まじいライブが行われたであろうことは容易に想像できる。それほどブリストル出身のこの2バンドは、ハードコア・パンクスの中では特別なバンドなのである。


 以前CHAOS U.KのギタリストであるGABBAは「AMEBIXがいたからこそCHAOS U.Kがあるんだ」というようなことを言っていた。この2バンドがあるのは、ブリストルの兄貴格バンドであるAMEBIXがいたからに他ならない。そして、AMEBIX、DISORDER、CHAOS U.Kの3バンド共に現在も活動し、独自のサウンドを世界に発信し続けている。だからこそ、まだ見ぬAMEBIXの来日も望まずにはいられない。いつの日か、AMEBIX、DISORDER、CHAOS U.Kというラインアップのライブを日本で観たいというのは、パンクスとしてあまりにも贅沢な夢なのだろうか。(ISHIYA)