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ホームレスから主演女優へ アリエル・ホームズ、壮絶な過去と今後の展望を語る

2015年12月19日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.

 2014年の第27回東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞を受賞した『神様なんかくそくらえ』が12月26日に公開される。ニューヨークのアンダーグラウンドな世界でドラッグに溺れながら暮らす、ストリートガールのハーリーと恋人のイリヤとの関係を描いた本作最大のポイントは、本作が主人公のハーリーを演じたアリエル・ホームズの実体験に基づいていることだろう。


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 本作を手がけたサフディ兄弟(ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ)は、別の映画の調査のため、マンハッタンの問屋街ダイヤモンド・ディストリクトを訪れていた。ある日、ジョシュアは、地下鉄の駅に向かう“美しい少女”を見かけ、進行中の映画に出てくれないか交渉をする。話を進めていく中で、彼女がホームレスだと分かり、ミステリアスな恋人イリヤとの話を聞いたジョシュアは、彼女に関するプロジェクトができるかもしれないと思い立つ。しかしその後、彼女と連絡が取れない日々が数週間続くと、「自殺未遂をして、精神病棟にいた。今ちょうど出てきたところだ」と連絡がくる。この出来事をきっかけに、彼女の人生を映画にしなければいけないと確信したサフディ兄弟は、彼女に自伝を書くように依頼し、手記「Mad Love in New York City」ができあがった。そのホームズによる手記をベースに、サフディ兄弟が脚本を書き、完成した映画が本作『神様なんかくそくらえ』である。


 映画の原点となった張本人のアリエル・ホームズが、自身の生い立ちや、本作で女優デビューしたことについて、また今後の展望などを、スカイプインタビューを通して話してくれた。


■「自分のままでいたので、演技はそんなに大変ではなかった」


ーーまず、あなたの半生を簡単に教えていただけますでしょうか。


アリエル・ホームズ(以下、ホームズ):私はカリフォルニアで生まれたのですが、すぐに両親が、彼らが出会った場所でもあるニュージャージーに戻ってしまいました。ドラッグユーザーだった母は、私の面倒をみることができなかったのです。10歳までは、おじとおばに面倒をみてもらっていました。10歳の頃には母がどうにか仕事をできるようになり、私を引き取ってくれて一緒に暮らし始めました。私の青春時代ーー10代はカオティックですごく楽しかったんですが、心が痛くなることもたくさんありました。母親が精神病とアルコール中毒にもなり、狂気に陥ってしまって本当に大変でした。16歳のときに、(作品内ではケイレブ・ランドリー・ジョーンズ演じる)イリヤと出会い、レイヴをやりはじめました。マンハッタンとニュージャージーを行き来しながら、レイヴカルチャーを楽しんでいたのですが、その頃に住んでいたアパートが焼けてしまって、自分たちで生計が立てられなくなってしまいました。そうして、路上生活をするようになったのです。そんなヘロインにハマってしまっていた路上生活時代に、監督のジョシュアに出会って、一緒に映画を作ることになったんです。


ーー本作があなたの女優デビュー作となったわけですが、演じるという行為について苦労した点はありますか?


ホームズ:演技についてはそんなに勉強はしなかったし、苦労もしませんでした。「自分自身を演じるのは大変ではないか」とよく聞かれますが、それは演じようと思うから大変なのであって、私は自分のままでいたのでそんなに大変ではありませんでした。カメラの前で緊張することもなかったですね。恐らく、14歳からホームレスとして路上でうろうろしながらいつも人に囲まれていたし、最近までは生活の中にプライバシーというものがなかったので、そういうことも影響しているのでしょう。


ーー自分自身を演じるということは、自分自身の人生をさらけ出すということでもあります。その点に迷いや不安はありませんでしたか?


ホームズ:撮影をしている時は、全く迷いはなかったですが、今は少し違います。というのも、あの人生をずっと続けるということはないからです。でも、あの当時、ああいうことをしたおかげで、自分が良い軌道に乗ることができたのだと思います。


ーー本作によってあなたの人生は激変したと思いますが、この映画はあなたにとってどんな意味を持ちますか?


ホームズ:ジョシュアに出会って、映画を作ったということで、確かに人生が変わりました。人生には、何回か転換点があると思います。それは人によって2、3回だったり、10回だったりすると思いますが、私にとってジョシュアと出会って映画ができたということは、大きな転換点のひとつです。あの当時、彼らに出会えたことにすごく感謝しています。素晴らしい人たち、アイディア、環境に出会えた。そのことに非常に感謝しているし、とてもクールだと思います。


ーー本作の出演が決まるまで、映画との関わりはどの程度あったのでしょうか?


ホームズ:映画はそれほどたくさんは観ていませんでした。普通の人が観る映画ではなく、アングラ映画を観ていました。いわゆる普通の人が観る映画では、デヴィッド・リンチやスタンリー・キューブリック、ロバート・アルトマンの作品が好きです。『神様なんかくそくらえ』を撮ってからは、色々な映画を観るようになって、映画を観るのが大好きになりました。俳優では、ジャック・ニコルソンが好きで、ジェイク・ギレンホールには一時恋をしていたぐらいです。他にもたくさんいますが、すぐに思い浮かぶのはこの二人ですね。


ーー冨田勲やアリエル・ピンク、ヘッドハンターズといった音楽も本作の世界観を構築する一端を担っていると思いますが、これらの音楽についてはいかがですか?


ホームズ:大好きです。私は音楽に関してかなりオープンマインドですが、アリエル・ピンクは今世紀の天才ーーそれが言いすぎであれば、この10年の中で出てきた天才だと思います。冨田勲はジョシュアに紹介してもらって知りましたが、美しくて、深くて、私の心を捉える大好きな音楽です。ヘッドハンターズはイリヤがジョシュに紹介したのです。私たちのレイヴカルチャーの音楽ですね。


■「自分の活動のメインとして、演技を集中してやっていくつもりはない」


ーージョシュア&ベニー・サフディ監督やケイレブとの仕事はいかがでしたか?


ホームズ:是非また一緒に仕事をしたいです。彼らとの仕事はとても楽しかったし、すごく才能がある素晴らしい人たちです。ジョシュアは才能だけでなく野心もあって、世の中を独特の見方で見ていると思います。ケイレブはすごくクールな人でした。私たちのライフスタイルにすぐに適応できたし、才能のある役者だと思います。


ーーあなたにとってイリヤとはどんな存在だったのでしょうか?


ホームズ:私が人生で一番愛した人です。ソウルメイトですね。本当に愛していて、私は彼を夫と呼んでいました。私たちの親密さは言葉にできないくらいで、彼は私にとっての全てでした。亡くなってから2ヶ月はショック状態で、そのあとも1ヶ月ぐらいすごく落ち込んでいました。自分の心が死んでしまったような感じでしたが、どうにか起こったことを受け入れる理由を自分なりに見つけたので、今は大丈夫です。


ーー今後はどんなことに挑戦したいですか?


ホームズ:学校にまた戻ろうと思っています。17歳の時に心理学を少し学んだのですが、家の事情で辞めなければいけなかったので、また大学に戻ろうと思っています。専攻は決めていませんが、物理や化学を考えています。また、私にとってずっと大切な、人生の多くを占めている、音楽もやりたいと思っています。


ーー演技の仕事はもうやらないのでしょうか?


ホームズ:演技をやめたわけではないし、面白いストーリーがあればやってもいいと思っていますが、自分の活動のメインとして、演技を集中してやっていくつもりはありません。実際に演技をやってみて、それほど好きじゃないなと思ったのです。それほど自分が満足できないし、知的な好奇心も刺激されない。ただ、得意なことではあるし、嫌いではないし、面白い話があって心を掴むものがあればやってもいいですね。女優でいたいがために何でもやるってことはしないです。『神様なんかくそくらえ』の後、まだ世に出てはいませんが、2作品に出演しました。ひとつはSF映画の『Winter’s Dream』で、いつ封切りになるかはわかりませんが、映画祭にはいくつか出すつもりです。もうひとつはシャイア・ラブーフと共演した『American Honey』です。実験映画のようですが、こちらも世に出ればいいなと思っています。(宮川翔)