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関ジャニ∞が見せた音楽的挑戦とは? 矢野利裕が最新アルバムの“元気なサウンド”を分析

2015年12月18日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

大谷能生、速水健朗、矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)

 関ジャニ∞の音楽はどうなっていくのか、と注目していたが、新作『関ジャニ∞の元気が出るCD!!』を聴いたら、なるほどこう来たか、という感じ。ジャニーズにおけるロック・バンドの偉大な先達であるTOKIOは、リズムやアレンジを工夫することで、大味なロックのみならず、ネオロカやネオ・スウィングの楽曲なども歌いこなし、その音楽的な幅を広げた。このことは、以前本連載でも触れたとおりだ。関ジャニの新作も、この方向性を踏まえていると言えるが、TOKIOに比べるともう少しさわやかだ。横山剣がしばしば召還されることに象徴されるように、TOKIOにおけるブラスアレンジは、ダーティーでアダルトな雰囲気とともにあった。一方、関ジャニにおけるブラスアレンジは、若々しくて楽しい。このことは、先行シングル「がむしゃら行進曲」によくあらわれている。この曲のラストは、メンバーがユニゾンで、学校のチャイムのメロディーをシャウトしている。つまり、学校的な、部活的な、若さとさわやかさ――すなわち、「元気」をよりいっそう推し進めつつ、サウンド的にもゆたかになっているのが本作である。


(参考:TOKIOの隠れた魅力はブラスアレンジにあり? 20年間培ったロックサウンドを改めて分析


 本作のサウンドのゆたかさは、オープニングのインスト曲「High Spirits」で早くも予感される。攻撃的なギター音に加えて、トランペットとハーモニカが乱れ飛ぶ「High Spirits」は、本作の音楽的な意欲を強く示している。そして、そのままシームレスに続くのが、OKAMOTO'Sの面々が手がけた「勝手に仕上がれ」という曲だ。基本的にはロック・マナーにのっとりながらも、跳ねたビートがソウルフルでもあり、とてもゴキゲンなサウンドになっている。関ジャニ的なノベルティ感を大事にしているのも、さすがの配慮だ。バンド・サウンドではないものの、同じように「元気」な曲が「韻踏ィニティ」である。個々の音はエレクトロだが、目指されているのはおそらく、明るいポップスとしての雰囲気だ。イントロのビートが、トニー・バジルの「MICKY」(ゴリエの曲といったほうが馴染み深いか)を連想させ、やはり部活感というか、チア・リーディング感が潜んでいる。その他、クドカン&峯田和伸のコンビで話題となった「言ったじゃないか」や、サンボマスター・山口隆が作詞作曲を担当した「ふりむくわけにはいかないぜ」など、いわゆる青春パンク~ロックの文脈を踏まえることで、若々しくさわやかで「元気」なサウンドを、さまざまなかたちで届けてくれる。


 面白いのは、そのような「元気」なサウンドを追求するなかで、微妙にアメリカン・ポップス的なものが参照されていることである。いちばん露骨なのは、「バッバドゥビドゥー」と歌われる「ナイナイアイラブユー」で、この曲は、フォー・シーズンズのようなコーラス系のオールディーズをパロディ的に模した曲になっている(ファルセットがないのは寂しいが)。ルベッツの「シュガー・ベイビー・ラブ」を思い出した人もいるかもしれない。あるいは「ナントカナルサ」は、ベイ・シティ・ローラーズ「サタデー・ナイト」のあのノリが意識されている。「前向きスクリーム」のビートは、やはり「MICKY」だ。「アメリカン・ポップス的なもの」というのも微妙な言い方だが(実際、上記ミュージシャンにはイギリス人も含まれている)、要するにビートルズ以降的な「ロック」とは異なる、芸能音楽としての、楽しくてどこか軽薄なロック/ポップスのノリだ。『関ジャニ∞の元気が出るCD』は多彩なサウンドに彩られているが、この楽しくて軽薄なノリをけっして手放さない。そして、そのようなノリこそが本作の「元気」さを支えているのだ。歌詞なんていうのは、音楽がもたらす情報のほんの一部だ。本作において、僕らは歌詞の内容以上に、サウンドの軽みにこそ「元気」をもらうのだ。(矢野利裕)


※記事初出時、内容に一部誤りがございました。訂正してお詫びいたします。