2015年12月18日 13:51 弁護士ドットコム
神奈川県相模原市の児童相談所の女性職員が今年の夏、所持品検査のために、保護している少女たちを全裸にさせたことが問題になっている。職員は市に対して「バスタオルを巻かせていた」と虚偽報告をしていたことも判明し、児童相談所の所長が12月17日に謝罪した。
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報道によると、この児童相談所では今年8月、職員への要望や苦情などを書き込む用紙が1枚なくなった。子どもたちが隠し持っている可能性があるとして、女性職員2人が一時保護している7~15歳の少女9人を脱衣所で服をぬがせ、所持品検査をおこなった。
一時保護中の子どもたちには複雑な事情を抱えるケースが多く、プライバシー保護が求められる。そのため、子ども同士が連絡先を交換しないよう、紙や筆記用具の管理を徹底していたそうだ。今回の児童相談所の対応は、法的にも問題があったのだろうか。なぜこのようなことが起きるのか。山内良輝弁護士に聞いた。
「児童を全裸にしたとしても、強制わいせつ罪は成立しません。なぜなら、刑法176条の強制わいせつ罪は、行為者自身の性欲を刺激するという、性的意図の下でされる必要がある『傾向犯』だからです。
本件では、職員は、所持品検査の目的はありますが、性的な意図はないと考えられますので、強制わいせつ罪は成立しません」
山内弁護士はこのように述べる。では、法的には問題ないということだろうか。
「強要罪は成立する可能性があります。刑法223条の強要罪とは、暴行や脅迫をもって義務のないことを行わせることです。
児童には全裸になる義務はありませんから、そのような行為を強要した職員には、強要罪が成立する可能性があります」
ただ、所持品検査は、子どもたちのプライバシーを守るためという側面もあったようだ。こうした事情は影響しないのだろうか。
「その点について、刑法35条の正当業務行為にあたるかどうかを検討することになります。正当業務行為とは、職員が正当な業務の一環として児童を全裸にしたのであれば、違法性が阻却されて、処罰されないということです。
報道によると、本件では、職員が行方不明の用紙を探す目的をもっており、以前に児童が他の少女の携帯電話番号などを書いた紙を下着の中に隠していた問題が発生したことがあるそうですから、正当な業務になる、と考えることもできます。強要罪が成立するかしないかは、微妙なところだと思います」
「本件の本当の問題は、強制わいせつ罪や強要罪などの刑法犯になるかどうかよりも、職員が児童のプライバシーを不当に侵害したのではないか、というプライバシーの問題です。
プライバシーの権利は、憲法13条の個人の尊厳として保障されていますし、厚生労働省の児童相談所運営指針でも保障されています。
児童相談所が『人権を侵害した』と謝罪したことの意味は、『プライバシーを侵害した』という意味でしょう。したがって、職員は刑事責任を問われなくても、民事責任や懲戒責任を問われる可能性はあります」
今回のようなことは、なぜ起きてしまったのだろうか。
「このような事件が起きたことの社会的な背景に目を向ける必要があります。そもそも、一時保護所とは、虐待や非行等の理由で緊急の保護が必要な子どもを児童相談所が一時的に保護する施設のことをいいます。
2003年ごろから、親が児童を虐待する事件が増加し、これに伴って、一時保護所に保護される児童の人数が増加し、保護の期間が長期化するようになりました。定員を超えている一時保護所がありますし、保護期間が100日を超える児童もいます。
一時相談所は、大勢の児童を抱えて、一杯一杯の状態です。職員は、施設の規律秩序を守るために、児童が喧嘩や脱走をすることのないように、管理監督を強化します。こうした管理監督の強化が行き過ぎた結果として、今回の事件が起きたと言えないでしょうか。
単なる職員個人の指導の誤りという問題だけではなく、児童の虐待が増加している社会の変化に児童福祉施設の対応が追いついていないことが真の原因です。この問題は、最近よくある老人福祉施設内の虐待事件とも共通の根を持っています。簡単に解決する問題ではないと思います」
山内弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山内 良輝(やまうち・よしてる)弁護士
10年の検事経験を経て、弁護士に転身。特捜時代に多くの脱税事件を手がけた経験を生かし、弁護士時代も脱税事件の弁護や税金の取りすぎに対する税務訴訟を多く手がける。大学教員も務める福岡の町弁(町の弁護士)。通称「山弁」。
事務所名:和智法律事務所