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<夫婦別姓訴訟>なぜ5人の判事は「違憲」と判断したのか? 最高裁が判決文を公開

2015年12月17日 17:01  弁護士ドットコム

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夫婦別姓を認めない民法の規定について、最高裁大法廷は12月16日、「夫婦同姓の制度は我が国の社会に定着してきたもので、家族の呼称として意義があり、その呼称を一つにするのは合理性がある」などとして、憲法に違反しないという判断を初めて示した。15人の裁判官のうち10人が「合憲」としたが、その一方で、女性裁判官3人を含む5人が「違憲」という意見を表明した。


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最高裁は同日夜、ウェブサイトで判決文を公開した。そこでは、夫婦同姓を定めた民法750条を合憲とする多数意見のほか、違憲と判断した少数意見も明らかにされている。5人の裁判官は、どのような理由で「民法750条は違憲」と考えたのだろうか。



●「婚姻の自由を侵害する」と考えた3人の女性裁判官


最高裁のサイトでPDFファイルで公開されている判決文は全部で31ページ。その後半16ページに、違憲と判断した裁判官の見解が記されている。



まず、女性判事である岡部喜代子裁判官は、女性の社会進出の推進や、仕事と家庭の両立策などによって「婚姻前から継続する社会生活」を送る女性が増加したのにともなって、「婚姻前の姓」を使用する合理性と必要性が増していると指摘。夫婦別姓という例外を認めないことは、多くの場合、妻となった者のみが、個人の尊厳の基礎である「個人識別機能」を損ねられ、「自己喪失感」といった負担を負うことになるとして、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない」とした。



そのうえで、個人識別機能への支障や自己喪失感などの負担から、「現在では、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるためにあえて法律上の婚姻をしないという選択をする者を生んでいる」として、「夫婦が称する氏を選択しなければならないことは、婚姻成立に不合理な要件を課したものとして婚姻の自由を制約するものである」と記し、民法750条が「婚姻の自由」を定めた憲法24条に違反するとした。



最高裁の多数意見は、合憲とする理由のなかで、姓が家族の呼称であることを重視し、その呼称を一つにすることの意義を強調している。しかし、岡部裁判官は「離婚や再婚の増加、非婚化、晩婚化、高齢化などにより家族形態も多様化 している現在において、氏が果たす家族の呼称という意義や機能をそれほどまでに重視することはできない」と反論している。



また、多数意見は、婚姻時に夫婦のどちらかが姓を変えなければいけないという不利益が、婚姻前の姓の「通称」使用が広まることで一定程度、緩和され得るという点を、合憲の理由の一つにあげている。だが、岡部裁判官は「通称は現在のところ公的な文書には使用できない場合があるという欠陥が ある上、通称名と戸籍名との同一性という新たな問題を惹起することになる」と、その問題点を指摘している。



岡部裁判官はこのような理由で、夫婦別姓を認めていない民法の規定は違憲だと判断した。同じく女性判事である櫻井龍子裁判官と鬼丸かおる裁判官も、岡部裁判官と同意見であるとした。



●「婚姻における夫婦の権利の平等を侵害する」という見解


一方、木内道祥裁判官は「本件規定は、婚姻の際に、例外なく、夫婦の片方が従来の氏を維持し、片方が従来の氏を改めるとするものであり、これは、憲法24条1項にいう婚姻における夫 婦の権利の平等を害するものである」として、民法750条が違憲であるとした。



多数意見は、夫婦同姓制度が合憲であることの根拠として、同じ姓を称することで家族の一員であることを実感できるという意義をあげている。この点について、木内裁判官は「私は異なる意見を持つ」として、次のように記している。



「家族の中での一員であることの実感、夫婦親子であることの実感は、同氏であることによって生まれているのだろうか、実感のために同氏が必要だろうかと改めて考える必要がある。少なくとも、同氏でないと夫婦親子であることの実感が生まれないとはいえない」



このように述べたうえで、「同氏であることは夫婦の証明にはならないし親子の証明にもならない。夫婦であること、親子であることを示すといっても、第三者がそうではないか、そうかもしれないと受け止める程度にすぎない」と、多数意見の考え方に疑問を呈している。



違憲と判断したもう一人、山浦善樹裁判官は、違憲の理由は岡部裁判官と同じだとしつつ、15人の最高裁判事のうちでただ一人、国には民法750条を改廃しなかった立法不作為の責任があるとして、原告に損害賠償すべきだという見解を示した。



なお、最高裁の多数意見は、夫婦別姓を認めていない民法750条を「合憲」と判断したものの、選択的夫婦別姓の制度について「合理性がないと断ずるものではない」と指摘。「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と記し、夫婦別姓を認めるべきかどうかは国会での議論に委ねられるという見解を示した。



最高裁の判決文は、ウェブサイトで誰でも見ることができる。


http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/546/085546_hanrei.pdf


(弁護士ドットコムニュース)