家族を持ったサラリーマンに「家族手当」を支給している企業は少なくない。労働の対価以外の「生活給」と位置づけられるものだが、この制度が「一億総活躍」を妨げているとして、政府が見直しを迫る動きを始めている。
厚労省は12月15日に「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会」の初会合を行い、専業主婦やパートタイマーとして短時間働く妻に支給する「配偶者手当」の見直しを、企業に呼びかけることについて議論が行われた。
「家族手当制度」のある76.5%の企業に影響のおそれ
2015年の職種別民間給与実態調査(人事院)によると、民間企業で配偶者手当などの「家族手当制度」があるのは、全体の76.5%。そのうち44.6%の企業が「配偶者の収入が103万円以下」という条件を設けている。
主婦の中には「配偶者手当がもらえなくなるから」との理由で働き方を制限する人もおり、厚労省の調査でも20.6%の女性が就業調整をしていると答えている。この制度が結果的に、女性就労の妨げになっているケースもあるとして、制度のあり方を検討しようというのだ。
厚労省の資料には、配偶者を含む家族手当を廃止し、代わりに子どもや障がい者を対象とした「養育手当」を新設した企業の取り組みなどが紹介されている。配偶者手当の廃止はトヨタやホンダも発表しているが、家族手当のある企業で見直しを検討しているのは、現状ではわずか5.9%しかない。
確かに家族手当が廃止されれば、専業主婦であるメリットが減ってしまうので、働きに出る女性は増えるかもしれない。しかし手当の恩恵を被ってきた主婦から既得権を失う不満が出て、「結婚のメリットが減った」と感じる人もいるだろう。
また、専業主婦やパートタイマーの中には暇を持て余しているだけでなく、子育てや介護など家庭内の役割を担ってきた人も多い。こういう女性にとっては負担増となり、「これ以上働かせるのか」という不満にもつながる可能性がある。
「働かなきゃ!子ども産んでる場合じゃない!!」となる懸念も
会合の様子が報道されると、女性向けコミュニティサイトのガールズちゃんねるでは「配偶者控除、手当はなくなると思いますか?」とのトピックが立った。懸念としてあがっているのは、少子化がさらに進むことだ。
政府が6月に閣議決定した「日本再興戦略」に、税金の配偶者控除の見直しが含まれていたこともあり、これ以上収入が減るなら「働かなきゃ!子ども産んでる場合じゃない!!」となるのではないかというのだ。
「女性の社会進出かぁ…子ども熱出て会社休むのほぼ女性じゃない?」
「むしろ少子化なんだし、結婚して子供を産んだら無理して働かなくてもいいくらいの手当を出してほしいわ。共働きでもどうせ家事は女性がほとんどやることになるし」
「『女性進出』とうたいながら、裏では『女性は家事育児・仕事・介護全部やってね!』って事だよね」
夫が転勤族という主婦からは、正社員として働くことは難しく、育児中だとパートタイマーの仕事も見つかりにくいとし、「別に身体は健康でも、働きたいけど働けない人だっているんだよ」という不満の声もある。
そもそも民間企業が独自に設けている「家族手当」という福利厚生制度に対し、政府が口を出して変えさせる権限があるのか、と疑問視する人もいた。
第3号制度は共働き家庭などから「不公平」との声多数
このほか、家族手当や配偶者控除に加え、サラリーマンに扶養されている配偶者は掛金を支払わなくても国民年金が受け取れる「第3号被保険者制度」がなくなってしまう方が「よっぽど痛いよ」と危惧する声もあがっていた。
第3号制度については、政府がすでに見直しに動いている。これまで妻は収入が年収130万円以上になると夫の扶養を外れ、自分で健康保険や国民年金を支払う必要があったが、2016年10月からは501人以上の企業で「106万円」に引き下げられるのだ。
ただしこちらは、独身者や共働き家庭などから「不公平だ」との声が出ており、政府の動きに賛成する意見も少なくない。ガールズちゃんねるでも「3号年金も払わずに年金がもらえるシステム自体間違っている」「もう、仕事しない人に納税を通じてお金をあげるのはまっぴらごめん」という支持者が目に付く。
キャリコネニュースが12月12日に公開した、パート労働者の保険加入が106万円へ引き下げられる記事に対しても、配信先のBLOGOSで「3号やめちゃえばいい」「いまだに何でこんな不平等な制度を維持しているのかが意味不明すぎる」といった声が寄せられている。
国の方向としては「専業主婦の特典」を減らす方向に動いているが、発言者の立場によって賛成や反対が様々に入り組んでいるようだ。
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