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再婚禁止期間「違憲」判決、なぜ「100日を超える部分」に限定されたのか?

2015年12月17日 16:32  弁護士ドットコム

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女性は、離婚した後や結婚を取り消した後、半年間再婚できないとする民法の規定が、「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反するかが争われた訴訟で、最高裁判所大法廷(寺田逸郎裁判長)は12月16日、100日を超える部分については「憲法に違反する」との判断を示した。


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判決は、再婚禁止期間の100日を超える部分は合理性がないとして違憲と判断した。最高裁が法律の規定を違憲とするのは戦後10例目。判決を受けて、政府は民法改正案を年明けの通常国会に提出する方針だ。ただ、法務省がすでに、離婚後100日たった女性については婚姻届を受理するよう全国の自治体に通知したので、改正を待たずに、事実上規定が見直されることになる。



今回、最高裁は、なぜ「100日を超える部分について」という限定をつけたのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。



●明治時代の理屈は、もうあてはまらない


「今回の判決のポイントは、女性についてのみ再婚禁止期間を6か月と定めた民法733条1項の目的の正当性・合理性と、その目的を達成する手段の合理性・相当性という2点です」



田沢弁護士はこのように切り出した。詳しく解説してもらおう。



「最初に、そもそも、なぜ女性に再婚禁止期間が定められているのか、その背景を確認しておきましょう。父子関係を早く確定するため、民法772条には、次のようなルールが設けられています。



(1)結婚中に妻が妊娠した場合は、夫の子と推定される。



(2)離婚した日から300日以内に生まれた子は、離婚した夫の子と推定される。



(3)再婚した日から200日を経過した後に生まれた子は、再婚した夫の子と推定される」



このルールが、「再婚禁止期間」とどう関係するのだろう。



「女性が離婚した直後に再婚して、200日を経過した時点で子どもが生まれたというケースを考えてみましょう。この場合、生まれてきた子どもは(2)と(3)の両方に当てはまります。



つまり、生まれてきた子は、離婚した夫と再婚した夫の両方が父親だと推定されてしまうことになります。こうした『推定の重複』による混乱を防ぐために、再婚禁止期間が設けられました」



離婚した当日に再婚したとしても、推定の重複が生じるのは、前の夫と離婚した日から数えて、201日目から300日目までの100日間だけだ。なぜ、これまで、6か月間も期間を設ける必要があったのだろう。



「多数意見は、民法733条1項の立法目的は、『女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防止することにある』であり、立法目的には合理性があるとしました。父子関係が早期に明確となることの重要性などを根拠としてあげています。



そして、民法が定められた当時(明治時代)は、厳格に重複が生じる100日間に再婚禁止期間を限定せず、一定の幅を持たせることが、父子関係をめぐる紛争を未然に防止することに繋がるという考え方も不合理ではなかったのです。



しかし、医療や科学技術が発達した今日の事情や、世界の趨勢を考慮すると、もはやこうした理屈はあてはまりません。



そのため、多数意見は、厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間である100日間は合理性・相当性が認められるとしても、それを超えてまで再婚を禁止することを正当化できないと判断しました」



●100日の期間も不要とした裁判官も


DNA鑑定などの手段がある現代において、100日の部分も不要なのではないのだろうか。



「個別には、そうした判断をした裁判官もいました。判決文に付された意見のところでは、ある裁判官が、次のように述べています。



『再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要があるとされる場合とは、結局、前婚の解消等の時から100日が経過していない女性が前婚中に懐胎したけれども(前婚中に懐胎したか否かが客観的に明らかにされない場合を含む。)まだ出産していない場合というごく例外的な場合に限定される』として、『このような例外的な場合に備えて一律に再婚禁止期間を100日とすること自体にも合理性を見出せず、規定の全部が違憲である』



また、別の裁判官は『DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった段階においては、血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として、再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われている』などとして、規定の全部が違憲であるとする意見を付しています。



この判決を受けて国会が民法を改正をするとしても、判決本文のみに基づいて100日を超える部分に限定して改正するのか、それともこのような個別の裁判官の意見も踏まえて全面的に禁止期間を撤廃するのかによって、相当に違ったものになるものと思われますので、ここは非常に注目されるところです」



田沢弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp