2015年12月16日 12:02 弁護士ドットコム
「結婚した後に、妻から、ある宗教の信者だと告げられました。近所の人に布教活動をしたり、私が稼いだ金を宗教につぎ込んでいます。価値観の違いを感じ、離婚を考えています」ーー。
弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、こんな質問が寄せられました。
結婚後に聞いた妻の告白に、最初は驚いたものの、黙認していたそうです。ところが、そんな夫への甘えもあってか、妻は宗教にお金も時間も使っていくようになります。
妻は専業主婦ですが、家にいる時間よりも宗教に費やす時間の方が長く、宗教につぎ込むお金は相談者が稼いだもの。話し合いをしようにも、妻は聞く耳を持たないそうです。
そこで、妻との離婚を考え始めた相談者ですが、「妻は離婚には応じないでしょう。裁判も考えていますが、裁判所は離婚を認めてくれるのでしょうか?」と不安げです。
原口未緒弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 「信仰」だけを理由に離婚はできません。
信教の自由は、憲法でも保障されている重要な人権です。「配偶者の信仰が理解できない」「自分の信仰する宗教と違う」などの理由だけでは、裁判所は離婚を認めないでしょう。
ただ、配偶者の宗教活動がいきすぎている場合は、離婚が認められる可能性があります。例えば、家事や育児を放棄して宗教活動を行っていたり、家計を圧迫するほど多額の寄付をする、宗教活動のために多額の借金、子どもを学校に行かせず、宗教活動に参加させている、信者と集団生活をし、長期間家に帰らないなどの状況です。
このように、宗教活動が一般常識の範囲を超えていて、家庭生活に支障を及ぼす場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」として、離婚原因になる可能性があります。このような過度な宗教活動の証拠を残しておくことも重要です。
ただ、それほど過度ではない場合、離婚は難しいでしょう。
ご相談者が、既に「妻とどうしても離婚したい」、「一緒に暮らすのはこりごりだ」という場合なら、奥様を説得することは諦めて、家を出る覚悟をするしかありません。
「長期の別居」は、離婚理由になり得ます。現在の裁判所は、婚姻関係が破たんしているかどうかを判断する際、「別居期間」を重視するからです。将来的には、「長期の別居」を理由に、婚姻関係の破たんが認められ、離婚できる可能性が高いです。
ただ、別居にあたっては一つ注意点があります。仮に、奥様が専業主婦で収入がなければ、ご相談者が家を出た後、生活できなくなる可能性があります。そのような場合、ご相談者は、婚姻費用(別居期間中の生活費)を奥様に支払わなければなりません。
すぐに離婚が認められることが難しい以上、数年間は婚姻費用を負担する覚悟をしてください。きちんと婚姻費用を支払うことで、離婚が認められやすくなることもあります。
もし、まだ別居や離婚の決心まではつかず、円満な夫婦関係の回復を望んでいるなら、奥様とじっくり話し合ってみてはどうでしょう。
どうして奥様がその宗教にのめり込んでいるのか。宗教に依存・執着せざるを得ない理由は何なのかについて、ご夫婦で一緒になって、考えていかれるとよいと思います。
宗教を完全にやめさせることは難しいかもしれませんが、奥様の話を聞き、気持ちを汲み取ることで、宗教への依存が落ち着くかもしれませんよ。
【取材協力弁護士】
原口 未緒(はらぐち・みお)弁護士
東京護士会所属。ココロもケアするカウンセリング離婚弁護士。コーチング・カウンセリング・セラピーなどをもとに、なるべく調停・裁判をしないで、スピード・円満離婚を実現する、『次へ進むための離婚』を提唱しています。
事務所名:弁護士法人 未緒法律事務所
事務所URL:http://mio-law.com