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セーラー万年筆「社長解任劇」が話題・・・社長を辞めさせるにはどんな方法がある?

2015年12月16日 12:02  弁護士ドットコム

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老舗の文具メーカー「セーラー万年筆」の社長交代をめぐり、会社側と前社長が対立する異例の事態となっている。同社は12月12日、代表取締役社長だった中島義雄氏が「代表権のない取締役」となり、代わりに比佐泰取締役が代表取締役社長になるという決議を、取締役会でおこなったと発表した。その2日後、この決議が、中島氏を除く4人の社内取締役による「社長解任」だったことが明らかにされた。


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一方、中島氏は12月14日、「社長解任の決議は無効」として、社長の地位の確認を求めて、東京地裁に仮処分を申請した。そのような動きに対して、セーラー万年筆はウェブサイトで、中島氏の社長としての行動に問題があったので他の社内取締役たちが辞職を求めたが、拒否されたために社長解任を決議した、という経緯を説明。定時取締役会における解任決議の手続に問題はなく、有効であると主張している。



今回は有名企業の「社長解任劇」が注目を集めているが、一般的に、社長の解任にはどのような方法があるのだろうか。また、解任された社長が不服の場合、なにか対抗手段はあるのか。今井俊裕弁護士に聞いた。



●代表取締役は「取締役会」で解任できる


「代表取締役は、取締役会の決議により、取締役の内から『選定』や『解職』をします。



なお『社長』という肩書きもありますが、これは法律で定められた用語ではなく、定款で定められた地位のことです。社長の場合も、取締役会で選定・解職を行うと定められていることが通常です」



セーラー万年筆の場合、取締役会の決議の有効性をめぐり、争いが起きているようだ。



「取締役会は多くの大企業では、たとえば『毎月第●月曜日の午前10時から』といったように、あらかじめ定例会として開催されることが多いです。



法律上は、あらかじめ各役員に対して招集通知を出し、取締役会を開催しなければなりません。しかし、取締役会規則や各取締役の黙示の合意等により、定例会の開催については招集通知を省略して開催されることもあるのが実情です。



いずれせよ、適法に開催された場合、つまり法律上の定足数(必要最低出席人数)を満たしており、出席取締役のさらに過半数の賛成があれば、代表取締役を解職する決議は成立します」



解職される代表取締役自身も、その取締役会に出席するのだろうか?



「この場合、代表取締役はその議決に参加できません。自己保身が働き、私益を捨てて議決に参加することが期待できないと考えられているからです。また、開催前に『代表取締役の解職議案を議論する』などというアナウンスも必要ありません。



つまり、制度的には、ある朝いつもどおり定例会に出席してみると、その場でいきなり社長を解職された、という事態もあり得るわけです」



●解任された代表取締役の「対抗手段」は?


解職された代表取締役が、決議を「無効」としたい場合、どのような対応ができるのか?



「決議で解職するわけですから、その決議を行った取締役会が適法に開催されており、とられた決議の方法も適法でなければなりません。それらに違法性があれば、その程度にもよりますが、解職の決議が無効と判断されることもあります。



その場合は、解職された取締役は会社を被告として、解職決議の無効確認を請求する訴えを提起することが考えられます。あるいは緊急の必要性があるときには、まれなケースとは思いますが、依然として自らが代表取締役の地位にあることを仮に定めてもらう保全処分の申立てをする等の方法もあります」



今回、中島前社長が仮処分の申し立てをしたのは、どのような理由によるものか。



「訴訟ならば、判決等に至るまで通常は1年前後、場合によってはもっと長期間を要します。その間、解職決議を受けた代表取締役は当然ながら活動できません。解職前に有していた会社への事実上の影響力は消失してしまうでしょう。



今回、セーラー万年筆の前社長が仮処分を申請したのは、仮処分で迅速な審理を求めて,その中で取締役会決議の有効性を争う方法を選択したのではないでしょうか」



セーラー万年筆の発表によると、12月12日の定時取締役会が開かれる30分前に、代表取締役社長だった中島氏から「取締役会を延期する」という要請があったが、予定通り、開催されたという。ただ、中島氏はその取締役会を欠席した。



「たしかに取締役会の招集権は定款上、原則として社長にあると定められていることが大半です。その社長が延期と決めたのだから取締役会は延期された、という考えも成り立つかもしれません。



しかし、事前にいったん決められていた定例取締役会を、他の取締役の誰も同意してない状況下で、招集権者一人だけの意思で延期できるのか、という問題もあります。仮処分の審理を見守るしかないと思います」



今井弁護士はこのように話していた。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/