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菜々緒の“怖すぎる悪女ぶり”を描き切る『サイレーン』 最終回も大映ドラマ的演出で突っ走る?

2015年12月15日 21:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』公式サイトより

 殺人鬼と化した菜々緒が怖すぎると話題の『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ)がいよいよ最終回を迎える。


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 この火曜夜10時の関西テレビ制作のドラマ枠は、かつては草彅剛が主演した『僕と彼女と彼女の生きる道』や、阿部寛主演の『結婚できない男』など、人間ドラマを面白く描く秀作が多く作られ、幅広い年齢層が楽しめる枠だ。しかし、視聴者の求めてくるクオリティが高水準なだけに、その評価も厳しくなりがちで、視聴率的には苦戦している時間帯となっている。そんな状況を見るに、背水の陣でのスタートとなったといえるのが『サイレーン』だ。松坂桃李、木村文乃という若手の人気役者を起用したドラマとは言え、山崎紗也夏の漫画原作はかなりハードなサイコサスペンスものなので、視聴者を選ぶ内容となっている。この挑戦的なドラマを支えるのが、社会現象になったドラマ『ずっとあなたが好きだった』で佐野史郎が演じた桂田冬彦に匹敵するぐらい、とにかく怖い悪女役がハマり過ぎている菜々緒の存在である。


 以前から、ドラマ『ラスト♡シンデレラ』の社長令嬢や、『ファースト・クラス』での罵詈雑言を吐きまくる縁故入社の編集部員など、ヒール役やらせたら現在若手の中で1、2を争う悪役女優の地位を確立している菜々緒。それは9頭身と言われている、足が長く、肩幅広く、顔が小さい、あの完璧なスタイルと、クールビューティーで目力のある美人顔のおかげでもある。完璧過ぎて、日常にいるだけで非現実的な雰囲気を醸し出せるのは、速水もこみちなどの超イケメン俳優にも通じるところがあるだろう。いささか演出過剰に思える悪女ぶりも、彼女の浮世離れしたルックスで演じると現実味を帯びてくるのだ。


 今回演じる殺人鬼・橘カラは、人間味が希薄で、計算高く人をコントロールするのが天才的である上、戦闘能力も高く、相手を殺すことでその人の持つ魅力を吸収する非情さを持っている。しかも、最初から顔面整形をカミングアウトしている謎の人物だ。ビジュアルだけでなく、感情までも人間を越え、ヒールを通り越したアンチヒーローと言っても過言ではないキャラクターとして描かれている。かつてバラエティ番組で、変なおじさんや、ひょっとこウーマンなど、今までのモデルキャリアが台無しになりそうなことを、表情を変えずに平然とやり切るプロ根性を垣間見せていたが、その度胸となりきり感が女優として完全に開花しているといえよう。


 そんなカラがひたすら付け狙うのが、警視庁本庁機動捜査隊の木村文乃演じる猪熊夕貴だ。なぜ最初に猪熊に目を付けたのかは最終回まで謎だが、連続殺人鬼が猪熊の純粋無垢な正義感に憧れ、その正義感の高揚感を味わいたいという理由で仲良くなり、猪熊の正義感をギリギリまで試したところで殺害を企てる。まるでバットマンとジョーカーのような関係だ。猪熊の恋人であり同僚の里見偲(松坂桃李)だけがカラの異常さに気づき、追求していくというのがドラマの主軸になっている。裏表の無いカラリとした可愛さと正義感を感じさせる木村文乃の魅力は、菜々緒が持っている美とは対極に位置するからこそ、カラがそれを欲するというのは、非常に説得力がある構図だ。
 
 しかし、菜々緒の悪女が強烈すぎるため、松坂桃李の体をはったアクションも、木村文乃の美しい正義感も、変態美容整形外科医の要潤でさえ、印象が薄れてしまっている面も否めない。カラの策略に陥る警察たちがあまりにコミカルなのも、ドラマの好き嫌いが別れる大きな要因だろう。しかし見方を変えれば、こうした作風は70~80年代を中心にブームを巻き起こした大映ドラマのノリが現代に甦ったものともいえる。大映テレビが制作したこのドラマシリーズは、山口百恵の赤いシリーズを代表作に、『不良少女と呼ばれて』や『ヤヌスの鏡』、『少女に何が起ったか』や『スチュワーデス物語』など、ドラマ史に残る多くの名作を輩出してきた。笑ってしまうぐらい大袈裟な演出と荒唐無稽で熱いストーリー展開。出生に秘密を持つ謎の主人公が、虐められながらも幸せを手に入れるシンデレラストーリーが多く、昭和の風情を感じさせるドラマの王道的な演出が顕著に見られる。カラの出生の秘密、理不尽で荒唐無稽なストーリー展開など、大映ドラマとリンクする部分も多々あり、あの時代のドラマファンなら確実に楽しめるはずだ。
 
 さて、いよいよ最終回では、漫画とは違うと当初から発表されていたエンディングが明らかになる。第8話からドラマのオリジナル要素が多くなり、さらに先が読めない展開となっている。猪熊は、本性を表した殺人鬼と、美容整形外科医と共に、なんと1ヶ月も監禁された後の救出劇。このドラマチックな状況で菜々緒演じるカラは、果たしてどんな悪女ぶりを見せてくれるのか。ぜひ最後まで派手な展開で楽しませてほしいところである。(文=本 手)