2015年12月15日 10:51 弁護士ドットコム
米軍普天間飛行場の周辺を飛行する米軍機にレーザー光線を照射したとして、沖縄県警は12月上旬、威力業務妨害罪の疑いで、同県宜野湾市の映像関連会社経営者の男性(56)を逮捕した。
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報道によると、男性は7月1日の午後9時すぎから10分間、米海兵隊の男女4人が乗ったヘリコプターに、緑色の光線を3回照射して、訓練を中止させた疑いがもたれている。男性は「レーザーポインターを当てたのは間違いない」と話しているという。
在沖縄米海兵隊は、飛行中の米軍機へのレーザー照射について、「搭乗者が瞬間的に視野狭窄となり、特に夜間の暗視装置を利用中だと見えなくなる。墜落などの重大事故につながりかねない」と危険性を訴えているという。
レーザー照射は一歩間違えれば、墜落の大惨事を招きそうだが、もしレーザーを当てて飛行中のヘリを墜落させてしまった場合、どんな犯罪になることが想定されるだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。
「『航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律』では、航行中の航空機を墜落等させた者は、無期または3年以上の懲役に処するとされています。ヘリの墜落は、この航空機墜落罪になることが想定されます。この犯罪には、未遂罪もあります。
また、飛行中のヘリが墜落すれば、搭乗者や地上にいた人が死亡する大惨事となるでしょう。この場合、殺人罪が考えられます。
ただ、航空機墜落罪や殺人罪の故意、つまり罪を犯す意思があったかどうかが、問題になりそうです。レーザーポインターを当てた者に、『故意』が認められなければ、犯罪は成立しません。レーザーポインターを当てたくらいで米軍のヘリが墜落するとは思っていないことが予想されるからです」
墜落させようという「故意」が認められなかった場合、どんな罪になるのだろうか。
「殺人罪等が成立しなければ、重過失致死罪(5年以下の懲役等)にとどまるかもしれません。
ただし、『自分はレーザーポインターを当てたくらいでヘリが墜落するとは思っていませんでした』等と主張すれば、必ず故意が成立しないわけではありません。たとえば高出力のレーザーポインターを使用していたとか、パイロットの目に向けて執拗にレーザーを当てていたとかの事実の積み重ねによって、故意が認められる可能性があります。
故意の問題もありますし、そもそもレーザーポインターを当てて墜落する危険性が高いかどうかも問題があるので、今回の事案は、航空機墜落未遂や殺人未遂ではなく、威力業務妨害罪の疑いで立件されているのではないかと思われます」
このように林弁護士は解説する。そのうえで、次のように補足していた。
「実際に米軍ヘリが墜落したら、米軍がヘリを回収したりするでしょうから、レーザーポインターを当てた者を処罰できるだけの証拠が残っていない事態も予想できます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道出身。大阪大学卒・京都大学大学院修了。東京弁護士会や島根県弁護士会を経て、平成19年から沖縄弁護士会所属。日本弁護士連合会・弁護士業務改革委員会委員(企業コンプライアンス推進PT)。経営革新等支援機関。『スポーツ事故の法務-裁判例からみる安全配慮義務と責任論-』(共著)。
事務所名:カフー法律事務所
事務所URL:http://oki78.biz/